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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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白い鍋

--白い鍋--


あらすじ:カプリオを殴りたかった。

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鍋が欲しいと話をしてからしばらく、ボクは姫様の部屋をたびたび尋ねて色々な話を聞かせることになった。ボクに興味を持ったワケではなく人間の生活に興味を持ったらしい。残念。


白いカーテンの揺れる窓辺でお茶を飲みながら姫様に請われて街での暮らしや図書館での話をすると楽しそうに聞いてくれた。特に魔族が持たない『ギフト』について興味を持ったようだ。


きっとボクが魔族の生活を不思議な目で見るのと同じように、姫様には人間の生活が奇妙に思えるんだろう。ボクだって知らない『ギフト』の話を聞いたり見たりした時はワクワクするもの。


「12歳で成人を迎えると神殿で一晩を過ごして拝受の儀式をする。そうすると神様から『ギフト』を授かる事ができるんだ。」


「人間なら誰でも貰えるの?」


「貰わない人なんて聞いた事ないよ。特別な力が貰えるんだからね。それに、貰わないと家の仕事を継ぎにくくなるんだ。」


両親、あるいは師匠と同じ『ギフト』を貰わないと、代々受け継がれてきた家業を継ぐことが難しい。鍛冶屋を営んでいた父さんの『鋼の音色』は叩いた金属の状態が解ると言うものだったけど、同じ『ギフト』を授かれなかったボクには鉄の奏でる音の違いが解らなくて家業を継ぐことができなかった。


ボクは『失せ物問い』なんて誰も聞いた事も無い『ギフト』を授かってしまった。父さんはボクに家を継いでもらいたかったのに、父さんと同じように鉄を打つことができなかった。ボクが打った品物はボクに解らない違いを父さんに教えていた。ボクに『失せ物問い』が囁くように。


「しばらくは色々試したんだけど、結局、父さんとケンカして家を飛び出して街に行ったんだ。」


「変なの。神様から頂いたモノなのに、怒るだなんて。」


父さんが『鋼の音色』に聞いている部分が理解できなくて、父さんもボクに上手く教える事ができなくて、努力もむなしく諦めた。授かってしまった物は変えられない。ボクにはどうしようも無かった。


ふてくされて街に出ても仕事が見つからなかった。『ギフト』の有無で仕事の出来が変わってしまうんだから、雇う方だって必ずどんな『ギフト』を持っているのか聞いてくる。失くした物を探すギフトなんて…。探し物の『ギフト』のくせに仕事も見つけられないなんて…。


野垂れている所で辻占いをしている師匠に出会った。



ボクと父さんとの喧嘩なんてつまらない身上話も姫様は目を輝かせて興味深そうに聞いていた。そして、怒ったり笑ったり目まぐるしく表情を変える。姫様を見ているだけで嬉しくなる。


「そうそう、この間のお礼を用意したのよ。」


少し暗くなった空気に姫様が浄化の魔法をかけた時のワガママを叶えてくれたお礼だと言って1個の白い鍋を貰った。赤い模様の入った薄く黄みがかった白い鍋は、とても軽く丈夫で魔獣の骨でできていると言う。


「これなら森に持って行く時に荷物にならないわ。」


魔獣の死体は放って置くとすぐに腐るので、人間の街ではほとんど使われる事が無い。父さんも鍋を()って売る事ができた。


王妃様にもらった革鎧やカナンナさんにもらったマントは魔獣の素材を使っているけど、それは最近作られた試作品で、普通の人は買う事はもちろん手に入れる伝手を見つける事すら困難なんだ。


でも魔族の槍や武器は牙や骨を使っている。それは魔獣から取り出した骨を使用しているのだそうだ。魔族は人間よりも魔獣の素材を使う高い技術を持っているのかもしれない。


それに、骨と言うのは焼くとパリパリに乾いて崩れてしまうし、煮ればぐずぐずに崩れてしまう。とても鍋に向いた素材じゃない。アンベワリィが使う鍋やオタマだって鉄でできている。本当に、魔族の技術は計り知れない。


「骨なんて鍋に使えるの?」


もし本当にもらった鍋が骨でできているなら、そうとうに大きな魔獣の骨が必要になるだろう。ボクの頭がすっぽりと入るくらいの大きさがあるんだ。


「さぁ?鍋にするなんて初めてだ。とは言っていたけど、使えないとは言っていなかったわ。たぶん大丈夫よ。炎をまとう剣だってあるんだから。」


鉄の剣だって炎をまとえば金属が焼かれて剣が脆くなったり切れ味が鈍くなったりする。それを骨の剣でできるんなら、何か特殊な処理がされているんだろう。


骨だから鉄と違って錆びないし、魔道具として火も使わずに煮炊きができるそうだ。魔道具なんて作れる人も少ないから、ものすごく価値があるものに違いないよね。


すぐにでも使ってみたいとお礼を言うと、もうひとつ腕輪をくれた。


「鍋だけじゃお礼に足りないでしょ。お父様と私の魔力を込めた魔晶石の腕輪よ。魔力を込めれば弱い魔獣や獣を寄せ付けないでしょう。森に行くなら使えると思うわ。」


赤く縁どられた白い腕輪には、魔王の印章の隣に白い魔晶石とそれより大きな黒い魔晶石が寄り添うように嵌められていた。


魔獣を寄せ付けない腕輪を持っていれば、魔王の森を抜けられるかもしれない。人間の街に帰れるかもしれない。


寂しくなった気持ちを隠して、お礼を言った。



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それからも仕事の合間に呼ばれては人間の話を姫様に聞かせに行った。割った薪も十分に溜まっていて急ぐ必要はなかったし、掃除の仕事も出来無くなってしまって手が空いて来ていたから、ボクにはちょうど良かった。


ある日、愚者の剣を見せて欲しいと言われた。愚者の剣はボクの薪割りの仕事のパートナーとして今や欠かせない存在になっていた。


「これが、愚者の剣ね。なんだ、ただの鉄の剣じゃない。」


机の上に置かれた愚者の剣を姫様は粗末な革の鞘から重そうに抜いた。手元が危なっかしい。


なんの変哲もない鉄の剣。それを賢者様が永遠に変わることが無い魔法陣を組み込んで魔道具に変えている。だけど、魔道具になっても切れ味が良くなるわけでもないし、雷鳴の剣のように特殊な力が使えるわけでもない。


鈍いとはいえ切れ味が落ちたり錆びたり欠けたりしないから薪割りには都合が良いんだけどね。


「魔王様は愚者の剣を知っていたみたいだけど、どうしてだろうね。」


結局のところ、カプリオの居た部屋に勇者の剣といっしょに対になるかのように壺に差して有った事しか分からない。カプリオの言った「さあ、どっちが勇者の剣だと思う?」と言う問いかけも良く分かっていない。手元にあるのが愚者の剣だったという事以外は。


「グリコマ様が使っていた剣だと聞いたわ。」


姫様は魔王が若かった頃、勇者グリコマ様と戦った時に持っていた剣だと言う。それ以上は知らないみたいだ。ただ、愚者の剣という奇妙すぎる名前に惹かれて見てみたいと思ったのだそうだ。まぁ、ボクだって興味が湧くと思うけどね。


丁度良いタイミングだ、ボクも愚者の剣と呼ばれる理由に興味がある。


「カプリオ。なんで…」


「侵入者だ!」


問いかけを遮って、甲高い警戒の笛の音が響いた。



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次回:『侵入者』



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