表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
92/343

禁止令

--禁止令--


あらすじ:姫様に浄化の魔法を使った。

------------------------------



「あら、ありがとう。」


用意してきた白い花束を渡すと、白い姫様は赤い瞳を殊更大きくして微笑んでくれた。とってもかわいい。


浄化の魔法をかけてから5日目に部屋へと呼ばれたボクは、病床に伏せていた姫様に何かを贈りたいとアンベワリィに相談した。タッペラという花の花束を用意してくれた。


大きな丸の黄色い花芯と5枚の白い花びらを持つ素朴な花には意味があって、『小さなお祝い』とか『小さな平和』という想いが込められている。病から回復した人に贈られる花だそうだ。アンベワリィは花に詳しい。


姫様が迎え入れてくれた部屋は真っ白で覆われていて、まるい小さな白いテーブルに、まるい小さな白い椅子がふたつ。白いカーテンが魔王の森を背景に揺れていた。白い姫様が真っ白に溶けてしまう。


姫様の足元には白い魔獣と黒い魔獣控えていて。ボクの後ろにはカプリオが横たわっている。風が優しく吹く、のどかな昼下がりだった。


「よかった。元気になってくれて。」


元はと言えばボクの浄化の魔法で体調を崩したのだ。いくら頼まれてやったとは言え、この5日は気が気じゃ無かった。塩湖から白い魔獣に乗って魔王城に戻った頃には姫様はフラフラだったからね。


「心配かけてごめんなさいね。それと、浄化の魔法を禁止にしたことも。」


魔王城に帰ってすぐに、アンベワリィを通して『浄化の魔法の禁止令』が伝えられた。


魔法陣を表示させずに自分に使うために浄化の魔法を使う分、あるいは魔族に見られないように隠れて魔法を使う分には多めに見てくれるとの事だけど、魔族が居る場所で浄化の魔法陣を浮かべる事は禁じられた。


全面的に禁止されなくてほっとした。普段の生活で何気なく使う事も多いし、まったく使えなくなると魔族と同じようにお風呂に入らなきゃならなくなる。女湯にはもう入りたくも無いし、男湯に入って屈強で大きな魔族達に囲まれるのも怖い。


禁止されたこと自体は姫様が5日も倒れたんだから仕方がないと思う。浄化の魔法は便利だけど、毒になる魔族の間で使われるようになってしまったら、どんな結果になるか分からない。嫌いな相手に浄化の魔法をかければ5日は顔を合わせなくて済みそうだ。


ボクの魔法を見て神様の文字を覚えて魔法を使えるようになってしまう魔族が現れるかもしれない。


新しく部屋の掃除を頼んでくる魔族も居たけれど、姫様からの指示だとアンベワリィがすべて断ってくれた。せっかく魔族の人たちと話ができるようになってきたので少し寂しいとは思う。


見られていなければ使っても良いので、アンベワリィのために朝の魔族のいない時間に食堂や厨房の掃除は続けた。


同じように、魔族に見られないように部屋の掃除を受けても良かったのかもしれないけど、部屋に人間を入れて目を離すなんて不用心に思う人もいるし、不用意に浄化の魔法を使って誰かが覚えてしまって姫様やアンベワリィが倒れる方が怖かった。


「でもね、私にだけコッソリ教えてくれないかしら?」


「禁止令まで出したんだから、やめておいた方が良いんじゃない?」


禁止令はボクだけじゃ無くて魔族全体に出されている。何かのはずみでボク以外の人間と接触して覚える魔族も出てくるかもしれないからだ。それに姫様は何日も()せっていたんだ。治癒の魔法で病気が治ってしまうボクには分からないけど、城まで戻った時の姫様は本当に辛そうだった。


「使えると便利だと思うのよ。仮病を使う時に。」


「仮病のために命を削るんですか!?」


浄化の魔法をかけられたからと言ってすぐに倒れるわけでは無いらしい。だんだんと気分が悪くなって、熱が上がり最後には寒くなって立てなくなったと言う。どうしても抜けたい会議や会いたくない人物がいる時に便利で、ただの仮病だと本当にお見舞いに来られた時に困るのだそうだ。


「断っても、断っても、疑ってくるヤツが居るのよね。」


「その時だけ、ボクを呼べば良いじゃないですか?」


同じ城の中に居るのだから、必要になった時に呼んでくれればいい。それならボクも姫様に会う回数が増えるから嬉しい。まぁ、その度に姫様の病状が気になって心苦しくなるのは嫌だけど。


「急に来るのよ。助けると思って、お願い!」


パンっと姫様が手のひらを合わせて拝んでくる。


カプリオに何か良い手段は無いかと聞くと、全身を浄化するのではなく臓器の一部だけに魔法をかけてバクテリアを全滅させないようにすれば、今回のように長い間伏せる事は無くなるだろうと言った。空中から再びバクテリアを体内に取り入れるよりも早く増えるのだそうだ。


最初から教えてくれていれば、こんなに気をもまなくて済んだのに。


アンベワリィのようにカプリオを叩きたい気持ちになったけど、姫様の手前だから我慢した。姫様は浄化の魔法を本当に必要だと思っているみたいだ。最後の確認の意味を込めて黒い魔獣、つまり魔王の魔獣をちらりと見ると、ため息とともに頷かれた。教えて良いってことらしい。


まぁ、違ったら止めてくれるだろう。


「気を付けて使ってくださいよ。」


魔法を教えるために用意された羊皮紙を白いテーブルの上に置いて、心の中に神様の文字を思い浮かべて普段より強く映すと、淡く青い光に包まれた浄化の魔法陣が浮かび上がる。魔力を込めれば魔法が発動されるという一歩前の状態だ。


後は浮き上がった魔法陣をペンでなぞって何度も見て細かい部分までしっかりと覚えれば浄化の魔法を使えるようになるだろう。魔法を使える人ならそう難しくは無い。姫様の4本の細い指がさらさらと神様の文字の輪郭を書き写す。


「なにか、お礼をしたいのだけど?」


移し終わった姫様が覗き込んできて上目使いになってドキッとする。白い指先に見とれていた。セナ達兵士もそうだけど、アンベワリィをはじめ女性の魔族でもボクより背が高いから下からのぞき込まれる事なんて久しくなかった。姫様と目線が同じ位置にあって話せるだけでもホッとする。


でも、欲しい物は特に思いつかない。アンベワリィのおかげで食べる物にも寝る場所にも困っていない。お金を貰っても良いかもしれないけど魔族のお金は使う場所がないんだ。


魔族の部屋を掃除したり探し物を占ったりした時にお駄賃としていくらか貰ったんだけど、街に出れば注目を浴びてしまって買い物どころじゃ無いだろうから、お金は薪割り小屋の中二階に置きっぱなしにしてある。初めて使ったのがタッペラの花束だ。それもアンベワリィに渡した。


「鍋…が欲しいかな。」


何も答えないのも心苦しくて、頭をフル回転させて欲しいものを絞り出した。絶対に必要な物では無いけど、あると心が落ち着く。


「あら、変なものが欲しいのね。」


カプリオと会った村で鍋が無くて困った話をすると、姫様はコロコロと頬を染めて笑う。肉が獲れなくて野草を直火で焼くわけにはいかなくて壺を使って煮炊きするまで苦労したんだから、鍋が無いと困ると熱弁することになった。


街で占い師をしていた頃にも、お金が無くなるとは森に行って野草を鍋に入れて煮炊きしていた事と、王宮の図書館に行く事になっても鍋とナイフとマントだけはイザという時のために部屋に置いていたと語った。


姫様はもう一度、花が咲くかのように笑った。



------------------------------

次回:軽くて『白い鍋』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ