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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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長椅子

--長椅子--


あらすじ:姫様が浄化の魔法をかけてくれと言った。

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「姫様は面白い事を言うねぇ。」


掃除されて塩気が無くなった床に寝そべったカプリオが目を細めたので、彼の白い顔は増々のっぺりとなった。


「面白いとは失礼よ。浄化の魔法が魔族の中で広がれば問題よ。誰もが毒を持ち歩いているのと同じになるのではなくて?」


白いほっぺを膨らませた姫様もかわいい。


魔法と言うのは誰にでも使える。しかも、何も持っていない裸でも使えるのだから、いくら門で身体検査をして城の中に毒物を入れないようにしても無意味になってしまう。いや、城だけじゃ無く街の中でも危険が広がるかもしれない。


運ばれてきた料理に浄化の魔法をかけるだけで病にかかることが有るのではないかと、姫様は心配して、どの程度の毒になるのかを身をもって知りたいと言った。


「毒と言っても、体の中の特定のバクテリアを消し去ってしまうだけだから、バランスが崩れて体調が悪くなるだけで、食べ物に浄化の魔法をかけても問題ないよ。ただ、そうだねぇ。浄化の魔法が広がる事はちょっとまずいかな。」


食事に含まれるバクテリアが居なくなる分には問題は無いけど、直接、体に浄化の魔法をかけられると体の中で働いていたバクテリアが居なくなって体調を崩してしまうらしい。その状態で長い時間を過ごすと咳や発熱と言った症状が出てしまい病気になってしまう。


つまり、風邪をひくことになる。


しばらく療養をしていれば空中に居るバクテリアが体に戻って治るそうだ。カプリオは治癒の魔法が使えない魔族が病気になることを心配していた。自在に風邪をひかせることができるというのは厄介で、人間なら治癒の魔法で治すこともできるけど、魔族は治癒の魔法が使えないので使い方次第で殺す事もできるらしい。


体に毒が入るんじゃなく、元々いた小さな生き物が居なくなって風邪をひく毒と言われても、ボクにはまったく理解できないんだけどね。


「身をもって体験すれば、心構えができるわ。」


「そうだねぇ。大人なら簡単には死なないと思うから、試してみれば?」


言葉の意味がさっぱり理解できないうちに、姫様を止めてもらうために呼んだはずのカプリオがあっさりと反旗をひるがえした。どうにかして止めたかったんだけど、まったく役に立たない。


急に体調を崩した姫様が倒れてしまわないように休憩室に置いて有った長椅子に横たわるとカプリオも白と黒の魔獣も姫様の周りを囲んで覗き込んだ。無防備に赤い瞳を閉じて横たわる姫様を見下ろしてボクはおそるおそる浄化の魔法を使った。


柔らかい白い布を着た姫様のささやかな胸が上下する上に魔法陣が浮かび神様の文字が淡く光ると、すうっと姫様の体を包んでいく。いつも自分に浄化の魔法をかけるのと変わらない。


いつもと同じだ。何も心配がない。


そう思ったとき黒い魔獣から音がした。ガタンという音といっしょに床に崩れ落ちる。そこにいた全員の視線が姫様から黒い魔獣に移ると大きな音と共に天井が破られて黒い装束の小さな魔族が降ってきた。


「死ねぇ!」


手に持った黒いナイフが一直線に黒い魔獣を襲う。刃まで黒かった。


黒い魔獣は動かない。


心配そうな瞳を姫様に向けたまま床に崩れ落ち黒い刃を受けた。と思ったら、その姿がかき消えて後に残ったのは、黒いナイフを手放した小さな魔族の首を長い前足で押さえつけていた黒い魔獣の姿だった。


「お父様!大丈夫ですか!?」


姫様が白い顔を更に白くして黒い魔獣に問いかけた。


お父様?黒い魔獣がお父様って…、姫様のお父様って魔王…かな。そうだ!魔王の娘だから姫様だよね。混乱する頭の中に、魔王の城で初めに会った魔王の姿が思い出される。ボクの身長よりも大きく戦士様の盾よりも大きな目。(たてがみ)から3本ずつ生えた角と口元の鋭い牙。


姫様にぜんぜん似ていない姿は、今まで全く魔王とのつながりを思いつく事も無かった。でも魔獣の方は、黒い魔獣と白い魔獣は似ている。背丈も同じだから余計に親子というより番いの魔獣に見えた。


呆然としていると、いつの間にか休憩室に入ってきたロッコクとモサルの手によって、黒いナイフを持った魔族はロープで縛られていた。あまりに突然、色々な事が起こったので理解できていない。



浄化の魔法がこんな事を引き起こしたのかな?



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「ごめんね。」


ロッコクとモサルがロープでぐるぐる巻きにした黒いナイフの魔族を連れて休憩室を出て行ったあと、姫様は謝罪の言葉を述べたけど、何が起こったのか全く分かっていないボクはまだ呆然としたままだった。


「カガラシィも人が悪いよ。はじめっから狙われているのを知っていたんだね。」


カプリオが赤い舌を出すと、まだ理解できていないボクに姫様が丁寧に教えてくれた。薄いピンク色の唇が言葉を紡いでいく。


「最初は、ただの視察のつもりだったのよ。壊して新調しようかと相談していた休憩室を、掃除して使えるようにしたって言うからね。囚人の様子も見たかったし、ついでに湖の景色でも楽しもうかなってね。」


だから、カガラシィの散歩も兼ねて掃除の終わる日にあわせて来たの。と、姫様はつづけた。


ところが部屋に入って驚いた。汚れどころか臭いまで綺麗に落ちている。浄化の魔法で体調を崩す魔族が居るとは聞いていたけど、思った以上に強い魔法なのかも知れないと姫様は思ったそうだ。


例えば、魔族が戦いの途中で浄化の魔法をかけられたりしたら。魔法の力で死ぬ事は無くても、態勢を崩して命取りになるかもしれない。逆に、上手く浄化の魔法を取り入れる事ができたら、交戦状態の敵との戦いが有利になるかもしれない。そう思い、試してみようと思ったのだそうだ。


掃除のためではなく、戦いのために。


ところが、いざ魔法を使ってもらおうとしたら天井から気配がした。魔王を亡き者にしようとした暗殺者なのか、はたまた捕えている囚人を助けに来た敵だったのかは分からない。だけど、ちょうど隙を見せて襲わせるチャンスだった。魔王はそのまま浄化の魔法を続けさせた。


魔王の力。魔王の魔王たる所以(ゆえん)となる力は、強すぎる共感力にある。魔族は元々相棒となる魔獣を持つ種族で、相棒と共感することによって協力して生活してきた。お互いに言葉と違う力で意志を疎通させて森の中で支え合って生きてきた。魔王はその極地にあると言う。


魔王は共感する力が強すぎて、相棒となる魔獣以外とも共感することができるのだ。


共感することで天井裏の侵入者の存在を感じ取り、そして相手に強制的に共感させて自分のイメージを流し込むことで幻覚を見せた。つまり、今ボクが見たように、黒い魔獣(・・・・)の幻覚を見せておいて黒いナイフの魔族に襲わせることができたんだ。


襲撃してきた魔族は幻を攻撃して床にナイフをめり込ませ、態勢を崩した所で魔王の相棒となる黒い魔獣が取り押さえた。それから、ロッコクとモサルを呼んだのだそうだ。


だからボクが最初に魔王に会った時も、ほとんど会話を必要としなかったんだ。


長い説明を終えると、姫様は力尽きたようにぐったりと長椅子に横たわった。ピンク色だった唇は紫色になり顔も青く震えている。浄化の魔法が効いてきたみたいだ。


黒い魔獣が姫様を温めるように寄り添った。



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次回:姫様と『禁止令』



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