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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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塩の湖

--塩の湖--


あらすじ:塩でべたべたの部屋の掃除をすることになった。

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ロッコクの駆る魔獣に乗せられて、湖に行く事3日目。


街を通る人間の姿が噂になったのか見物に来る魔族の数が増えた気がする。毎日、同じ時間に通るからね。「やっぱり人間だった。」とか、「人間って小さいんだ。」とか物見遊山な声が聞こえる。


顔を上げると街並みよりも先に最初の日よりも多くの魔族の大きな瞳が飛び込んでくる。見られているのが分かるから魔族の街の街並みがよく見られない。ちらりと見える建物は人間の作る建物とそれほど変わらないけど、家や扉が大きい。


しつこかった部屋の汚れと塩の塊を浄化の魔法で取り除く事3日。


ようやく終わりが見えてきた。魔力が足りなくなって少しずつしかできなかったけど、白く汚れていた壁は元の木の色を取り戻している。皮鎧に浮かんでいた塩も水の魔法で浮かび上がらせて拭き取るときれいに落ちた。これはジルがやり方を知っていたんだ。


汗を多くかく旅商人の皮の靴では良くある事らしい。


3日もかけた掃除が終わると、ボクはロッコクに終わった事を報告するために小屋の外に出た。扉を出てるとピンク色の塩湖がきらきらと斜陽の光を辺りに振りまき、涼しくなった風がさらさらと髪を揺らして塩湖の匂いを運んでくる。


「う~ん。」


遠くで塩切をしている魔族達を眺めながら、やり切った仕事を忘れるように伸びをすると、塩の匂いは強くなり凝り固まった体に血が流れて更に塩湖がきらきらと光るような気がした。


午後の気怠い陽の光が飛び散るピンクの塩湖に、水を跳ねあげて踊る影。


足首ほどしかない塩湖の水の上で2匹の魔獣と戯れる姿は、まるで女神様が舞っているようだった。はしゃぐ姿に見蕩れていると、パシャパシャと音を立てて影がボクの方に近寄ってきた。ボクよりも小さな姿と抜けるような白い肌。白と黒の魔獣を連れて歩く姿は、間違いない。姫様だ。


人間の王女様はカナンナさんみたいな侍女を数人引き連れて歩くのだけど、魔族の姫様は魔獣だけを連れて自由に歩き回っているのかな。


「仕事は終わったの?ヒョーリ。」


「あ、ハイ。長々と時間をかけてしまいまして。」


近寄ってきた姫様の唇からボクの名前が呼ばれたことに驚いて、気まずい気持ちで答える。ひとつの部屋の掃除をするだけで3日もかけてしまったんだ。冒険者ギルドの資料室よりは時間がかかっていないけど、普通の感覚からすれば長すぎるだろう。


「何百年もの長い間、汚され続けていたと聞いたわ。ねぇ、城でも噂になっている掃除の出来を見せてもらえないかしら。」


紅い目をキラキラとさせる姫様の頼みで掃除をし終えたばかりの部屋に戻ることになり、評価を受ける事に緊張した。


時間をかけてキレイになったとはいえ、掃除の前に比べればの話であって新品のようにという訳にはいかない。長い年月によってできた傷や劣化はどうしても残ってしまう。姫様が以前の汚れている部屋を見ていたなら理解してくれるかも知れないけど、掃除が終わった部屋だけを視たらなんと言うだろう。


「こちらにどうぞ。」


ドキドキしながら部屋の戸を開けてエスコートする。


「あら、ホント。臭いまで消せるのね。」


スンスンと鼻を鳴らしてもその美しさは消えないもんだなと、横顔を見ながら感心した。


「女神様から頂いた浄化の魔法のおかげです。」


沈黙となるのが嫌だから聖女様が女神様から託された魔法の逸話を続けたけれど、姫様は大して興味がなさそうに部屋のあちこちを見て周る。


「それって、私にも使えるのかしら?」


並べなおした鎧のひとつを持ち上げて見ていた姫様がくるんと回りながらボクの顔を覗き込んでくる。


「魔法が使えるなら浄化の魔法も使えると思いますが、魔族には毒となり数日の間体調が崩れると聞きました。」


「誰から?」


「カプリオという魔道具の魔獣が言っていました。彼は昔、人間と魔族の子供が一緒に暮らしていた時の事を知っているようでして、人間と魔族の違いを良く知っているんです。」


勇者の剣の勇者グルコマ様と連れていた魔族の子供が作った村の話だ。カプリオはその村に居た。


「カプリオかぁ。お父様に聞いた事があるわ。人間は自分にも浄化の魔法をかけるのよね?ねぇ、私にその魔法をかけてくれない?」


ギョッとした。だって、今しがた毒になると説明したばかりだよ。なんで好きこのんで体調を崩すような毒を受けようと思うんだろう。


「恐れながら、毒だと説明したばかりなのですが。」


「良いから、かけてみてよ。」


すこしイライラしているのか声が荒くなっている。でも、ボクだって毒だと解っている魔法をかけるわけにはいかない。


「姫様が倒れて困るのはボクなんですよ。2人だけの部屋で姫様が毒で倒れたら、犯人はボクになるに決まっているじゃないですか。」


姫様のイライラが移るかのようにボクも声を荒げてしまう。正確には姫様の2匹の魔獣とジルが居るけど、どう考えても人間のボクが犯人になってしまうじゃない。魔族の街で犯人になってしまったら、誰もボクの言い分なんて聞いてくれないに違いない。


魔族のお姫様を傷つけたら殺されてしまうかも知れないじゃないか。


「カガラシイが証言するわ。誰にも文句は言わせない。だから、お願い。」


しおらしくなった姫様は黒い魔獣を撫でる。黒いオスの魔獣、誰か男の魔獣。その魔獣は姫様をもって誰にも文句を言わせないと言わせるくらい信頼されているみたいだ。嫉妬の心が胸を駆け巡る。


「でも…、それでしたら、他の人の立会ってもらって、誰か他の方にかけてみてはいかがでしょう?」


窓の外に視線を送りながら答える。姫様の体調が崩れるから不味いんだ。人が集まっている場所で、ちゃんと理由を説明して姫様以外の人の体調が崩れても対処できるようにしておけばいいんだ。それこそ、塩湖で働いている罪人とかで試せば良い。


「あまり知られたくないのよ。毒になる魔法が広がってしまったら、誰かに悪意を持った人が使ってしまうかもしれないでしょ?」


「けど、それなら姫様が魔法を受ける必要も無いじゃないですか?ボクが浄化の魔法を魔族に教えなければ良いだけです。」


「どのような症状が出るのか知っておきたいのです。原因不明で倒れた魔族が現れたなら、アナタを疑う事になりますのよ。」


必死に言う姫様の言葉で、やっと彼女がボクのために言っているのだと気が付いた。人間の街なら毒で倒れる事は滅多にない。けど、毒が効く魔族が倒れたなら、ボクの浄化の魔法が真っ先に疑われるだろう。


「…カプリオを呼んできます。彼なら浄化の魔法を知ってますし、もしかしたら魔族に浄化の魔法をかけてしまった時の対処の方法も知っているかも知れません。」


ボクは高台で塩を採る魔族達を眺めているカプリオを呼んだ。



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次回:毒と『長椅子』



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