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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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食堂

--食堂--


あらすじ:ジルが泣いた。

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「やっ!」


振りかぶった愚者の剣を掛け声とともに振り下ろすと、薪割り台の上に置かれた原木に深々と刺さる。原木が刺さったままの愚者の剣を更に薪割り台に叩きつけて割る。


「ヒョーリ。ご指名だよ。」


ドアから顔を出したアンベワリィがボクを呼ぶ。


アンベワリィの部屋に泊めてもらった日から数日、ボクは同じように彼女の部屋に泊めてもらってお互いを理解しようとした。


だけど、食堂を取り仕切る彼女の一番忙しい時間は夜で深夜まで仕事をしている。アンベワリィも何日も仕事を休むわけにもいかずほとんど喋れないうちにボクが睡魔に負けて寝てしまって、朝は早く起きてしまう。


人間よりも夜目が効く魔族は夜遅くまで起きていて長い時間を魔獣や仲間たちと過ごす。短い眠りから魔族が起きた朝に交代するように相棒の魔獣が長めの眠りにつく。魔族と相棒の魔獣の合計の睡眠を十分に取れれば、片方は何週間も寝ないで動き続ける事ができるらしい。


とは言え、体を休めるにはしっかりと睡眠をとった方が良いので、毎日少しは寝る習慣があるみたいだけど。


結局、アンベワリィと生活の時間が合わないのでボクは薪小屋の中二階に戻ることになった。


「今行くよ!」


ボクは返事をすると割った木を薪の山に放り投げた。


アンベワリィの部屋に泊まった次の日から薪割り以外の仕事が増えた。


まず、掃除。


朝風呂から戻ってきたアンベワリィが浄化の魔法で掃除された部屋をすごく気に入ってくれた。掃除道具だけでゴシゴシこするよりも浄化の魔法は汚れや臭いも落としてくれる。ボクのための食事を作ってくれたお礼の意味も込めていたけど、がんばって掃除したかいがあった。


あくる日、他の魔族達が来るまでの時間を使って食堂の掃除をしてほしいと頼んできた。大勢の魔族が何年も何百年も長い時間飲み食いをしてきた食堂はアンベワリィ達、厨房で働く人たちのがんばりもむなしく頑固な汚れが残っていた。


厨房に魔族のいない早朝は手が空いているのも相まって丁寧に掃除をすると厨房で働く魔族達からものすごく感謝された。特に、染みついた料理やお酒の臭いが消えていた事が喜ばれた。


食堂がキレイになれば、次は当然のように厨房を掃除するようになって、厨房の魔族からも自室を掃除して欲しいと希望する人が出てしまった。食堂という人の集まるところがキレイになれば、うわさが広がって次は私もと掃除の依頼が舞い込んできた。


それと、もうひとつ。諦めていた物が戻ってきて嬉しかったのか、アンベワリィが指輪を自慢した。


『失せ物問い』の占い師の仕事だ。こちらの方も掃除に比べれば数は少ないものの依頼が来た。占い師として仕事が貰えるのは良いのだけど、魔族の食堂は夜遅くまでやっているので、しばらくの間は眠たい目をこすりながら夜遅くまで起きてなきゃならなかったんだ。


おかげで少しずつ魔族と喋れるようになってきた。


個人の部屋を掃除するのにアンベワリィは付いてこないから、依頼をしてきた魔族と2人きりになる。最初は怖くてびくびくしながら依頼を聞いていたけど、今ではちょっとだけ世間話もできるようになった。王宮の図書館で貴族と話ができるようになって行ったのと同じように少しずつだけど。


さっきボクが呼ばれたのもそんな依頼のひとつだと思う。


いつもなら夕食の時間に依頼を聞いて、物探しの依頼ならその場で、掃除の依頼なら時間を決めて迎えに来てもらう。でも、今日は予定していた仕事じゃないし、朝食の時間も終わってみんなが働き始めている時間だ。少し中途半端だ。


不思議に思いながらドアをくぐる前に浄化の魔法で汗と汚れを落として食堂に入ると、そこには鋭い槍を持って革の鎧で身を固めた兵士が2人、大きな魔獣を連れていた。ボクが入るなり4つの大きな黒い瞳をぎろりと光らせる。


「今日の依頼人だよ。薪割りは気にしなくて良いから手伝ってやっておくれ。」


アンベワリィが厨房から顔を出して言うと、鎧を着た魔族が挨拶をした。ロッコクとモサルと言う名前らしい。


今まで掃除を依頼してきたのは魔族でも女の人が多かった。部屋を綺麗に保ちたいと思うのは人間でも魔族でも女の人が多いみたいだ。占いで男の人を相手にする時はセナを殴り飛ばせるアンベワリィが近くにいたし、鎧を着込まずお酒を飲んでいた。


こんなに、ガチガチに武装した人たちじゃない。


鋭い瞳と鋭い槍を持った魔族じゃない。


いったい、どこを掃除することになるのだろう。



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城を出て魔族の街を抜けた。


ロッコクと名乗った魔族の魔獣の後ろに乗せられて街を進むと、人間が珍しいのか人間が悪い事をして連行されているかのように見えるのか大勢の街の魔族達がジロジロと見てくる。


カプリオの背中に縛られて城に行く時も街は見れなかったので、魔族の街並みがどんなものか見てみたいとも思ったけど、集まる視線に耐えきれずに下を向いたまま過ぎてしまった。


街を抜けるとロッコクの魔獣は魔王の森を風のように走った。カプリオも後ろをついてくる。しばらく進むと森が開け輝く湖に出た。


静かな湖面を風が撫でると、淡いピンクの水がきらきらと光る。


森を映すピンクの湖は、アンベワリィに見せられた塩の塊と同じ色だった。これが、最初に労役をする予定だった塩湖なのだろう。浅く静かな湖にはツルハシのような物を持った魔族や、いっぱいに塩の塊を入れたカゴを持つ魔族が働いている。


湖畔に建てられた一番立派な建物の一室に案内される。


「この部屋を頼む。」


ガチガチに緊張しているボクにロッコクは言葉少なに言うと、そのまま部屋を後にした。部屋は広く鎧や槍が乱雑に置かれ、簡単な煮炊きもできるようにもしてある。湖から塩を切り出す人を管理するロッコクたちの休憩所として使われているそうだ。


(きったねぇなぁ)


ジルが率直な感想を言う。


(掃除する人が居ないんだよ。きっと。)


人間でも男ばかりで仕事をしていて掃除が行き届かない場合がある。セナに連れられて塩湖を管理する人の所に行った時に聞いた話だと、塩湖には捕まえた敵や悪い事をした罪人が働いている。街から離れたこの場所には掃除をしに来る人が居ないんだろう。


塩水が付いた手であちこち触るのか壁は白くなっているし触るとべとべとする。放置された革の鎧も塩が吹いている。槍は何かの牙か骨でできているので錆びていないのが幸いだ。


(この量の塩を浄化できるか?)


浄化の魔法で落とせるのは汗や汚れの中に混じっている塩であって、汗が固まって粉になると消すことができない。いや、がんばればできるのかもしれないけど、絶対に魔力が続かない。


(塩の魔法でどうにかできないかな。)


こんなに塩が溢れている事なんて無いから試したことは無いけど、水を操って井戸から汲むときのように塩も操れるかもしれない。


(できるのかな。まぁ、やってみようぜ!)


結局、塩の魔法をかけても壁に付いた塩は落ちなかった。塩がこびり付いて操ってもピクリとも動かないんだ。


でも、塩のこびり付いた壁に強く浄化の魔法をかけると、ぱらぱらと白い粉になって舞い落ちた。塩の間についている汚れが消えて塩だけが残ったようだ。良かった。


手のひらほどの壁がキレイになってホッと胸をなでおろしてから、広い部屋を見回してため息を吐く。


まだまだ先は長そうだ。



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次回:『塩の湖』のほとりで



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