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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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寝室

--寝室--


あらすじ:アンベワリィのご飯美味しい。

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アンベワリィがボクのために調整してくれた料理は美味しく変わった。お酒も混じって気の大きくなったボクは色々と話をねだった、と思う。


一見、人間の使う物と同じように見えても作りが違っていて見るものすべてが面白く感じた。例えば料理に使った炎の魔法。例えば先がふたつに割れているナイフ。暖炉にも使い方の分からない穴があったし、アンベワリィのイヤリングも花とは解るけど見た事もない形をしている。


丁寧に答えてくれたアンベワリィはボクにも色々と質問をした。人間の街の事や料理の事。そして『失せ物問い』の事。『ギフト』を貰わない彼女ヌクイさんの『完璧な鉄鍋』の話やノーナッテさんの『食器の舞踏会』の話を羨ましそうに聞いていた。気がする。


お酒が進むにつれて記憶が曖昧になっている。夜も更けたランプの灯る部屋にアンベワリィの大きな瞳がキラキラと輝いているのを見ていたのを覚えているだけだ。


いつの間にか寝てしまったのだろう。夢も見ずに覚ました目の前にはすうすうと寝息を立てるアンベワリィの大きな顔があった。


(よく眠れたか?)


起き抜けに聞こえたジルの声が少し冷たく感じる。


(ここは?)


ズキズキする頭に治癒の魔法をかける。そんなに飲んだつもりは無かったのだけど、思ったよりも酒精が強かったのだろう。二日酔いでズキズキする。


(アンベワリィの寝室だ。)


ギョッとするけど、厚手のカーテンの閉められた部屋の中は暗くて良くは見えない。かすかに漏れる(あかつき)の光を頼りにアンベワリィを起こさないようにベッドを抜けると、今度はジルの声を頼りに手探りで夕食を食べた部屋に移動した。


デェジネェがするりと足元にまとわりついて窓辺に座る。寝室の扉を閉めてデェジネェの座った窓を開けると、魔王の森が紅く染まって爽やかな朝の風が入って来る。その姿は高台から見た普通の森と変わらない。


(昨晩は、お楽しみでしたねぇ。)


朱く染まる魔王の森に見とれていると、カプリオが皮肉めいた声で言ってくる。


アンベワリィの優しさに触れて魔族が怖くないと感じたし、お酒を飲んで気が緩んだ。それに、女神のように神秘的な姫様にも会った。王都を出てから勇者様と一緒に旅をしたり、魔王の森や廃墟を歩き回ったりと緊張の連続で、久しぶりに安心して笑えた気がする。


(そうだね。ほんと楽しかった。)


しみじみと言うとカプリオは()ねたようにそっぽを向いてしまった。


(悪かったと思っている。)


(何を?)


ジルの突然の謝罪の意味が分からなかった。


(いや、カプリオの村で狼煙(のろし)を上げようって言った事さ。あれが無ければヒョーリがこんな場所まで来なかったと思っていてさ。)


ジルはずっと気に病んでいたらしい。商人が位置を知らせるために狼煙を上げる事は良くある事だ。だから、アンクス様達とはぐれたボクを早く合流させたくて提案したけど、魔王の森でやるべきでは無かった。と。


魔獣には狼煙の意味なんて解りはしない。だけど、タガグナル砦が魔獣に襲われた時、魔族が近くにいるかも知れないと考えるべきだった。いや、何が起こるか分からない魔王の森で狼煙を上げること自体不用意な事だったと。


(オレのせいで、こんな所に来てしまったんだ。)


廃村で大人しく待っていればアンクス様と合流できたし、魔族を呼び込まなかったに違いない、と。最後には泣くような声でまくし立てる。


(怖かったんだね。)


優しくジルの枝を撫でて後悔をした。自分の事ばかりでいっぱいになってしまっていた。ボクが居なくなったらジルはどこにも行けない。魔族に声をかけて、どうなるかも分からない。不安な夜を寝て逃げる事もできない。それでも、ジルはボクのために気丈に振舞っていてくれたんだ。


感謝はするけど恨む気はこれっぽっちも無い。ボクの気が緩んだから、ジルの気も緩んでしまったんだろう。えづくジルをなだめる。


(アンベワリィはきっとジルの事も面白がって受け入れてくれるさ。カプリオでさえ受け入れてくれているんだ。)


軽口をたたくカプリオを叩こうとはするけど当てる事は無かった。兵士のセナにさえ当てられるんだからカプリオにだって当てられるハズだ。それとも、セナはワザと受けているんだろうか。


(だけど、帰れないかもしれないんだぜ?)


(そうだね。そのうち、セナに魔王の森の端に連れて行ってもらえば良いんじゃない。)


セナは廃村まで来ていたんだ。ボクを返すためだけに付いて来てくれるとは思えないけど、何かしら同じような任務がある時に連れて行ってもらえるかもしれない。


もうしばらく、ここに居ても良いんじゃないかな。


月の影に姿を映した姫様を思い出してボクはそう思った。



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日が昇りジルが落ち着いてくると手持無沙汰になってしまったので、いつも通り掃除をすることにした。ホウキを探してきょろきょろしだすと、カプリオがデェジネェに声をかけた。


「デェジネェ。ヒョーリが食事のお礼に掃除がしたいんだって。」


声を掛けられたデェジネェは森に向けていた瞳をボクに向けてにゃんと鳴くと、戸棚の影に隠されていた掃除用具を出してくれた。


「ありがとう。魔族の部屋で浄化の魔法を使っても大丈夫なのかな?」


ボクが掃除をする時は浄化の魔法をかける。アンベワリィの部屋はキレイに使われているけど、料理をするためか細かい所で油のカスなんかが溜まっている。それにホコリがこびり付いているんだ。


「直に魔族にむけて浄化の魔法をかけなきゃ大丈夫だよ。要は、魔族しか持っていないバクテリア、彼ら特有の善玉菌を浄化しなきゃ良いんだよ。」


バクテリアと言うのが目に見えないくらいの小さな生物らしいのだけど、どうにも良く分からない。見えないのにカプリオは居ると言うし、魔族の体だけじゃ無くて人間の体の中にもどこにでもいると言う。とにかく、デェジネェに当てないようにすれば浄化の魔法で掃除をしても大丈夫らしい。


掃除をはじめてしばらく経つとアンベワリィが起きて来て、お風呂に行くかと誘われたけど断った。また姫様に会える事を期待したけど、女人用のお湯だと知った以上入る訳にもいかないし独りで男湯に入るのも怖い。


「湯気だけで湯あたりしてたんじゃ、しょうがないね。」


納得してデェジネェを従えて出て行ったアンベワリィと見送って掃除を続けた。今度は魔獣のデェジネェを気にしなくて良くなったし、寝室も掃除できる。


昇る朝日を照り返す輝く魔王の森を眺めながら、掃除を続けた。



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次回:忙しい『食堂』



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