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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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脱衣室

--脱衣室--


あらすじ:女神様に会った。

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女神様は人間ではありえないほど、白く輝き美しかった。


ぽわぽわとする思考に女神様に裸を見られた恥ずかしさを交えながら、アンベワリィに脱がされた服をもたもたと着る。手が震えてベルトの金具がカチャカチャと音を立てる。


(大丈夫か?白い魔族の女が慌てていたんだが。)


着替えの部屋に置き去りにされていたジルが気遣ってくれる。白い魔族の女が女神様だと解るまで少し時間が必要だった。


(魔族…だったの?)


背もボクよりも低く思えたし牙も見えなかった。セナやアンベワリィに比べて荒々しさも猛々しさも無くて、それよりも静かに森を見つめる赤い瞳が気になって、人間じゃ無かったんだと思えたくらいだ。姿は人間ではありえない美しさだ。


(どう見たって人間には見えない白さだったぜ。魔族なんじゃ無いのか?)


途惑うボクの思考の中に扉の開く音が聞こえると、女神様がアンベワリィと3匹の魔獣を引き連れてお風呂の部屋から出てきた。


なるほど、女神様をよく観れば手が長くて指が4本しかなくて魔族っぽさはある。アンベワリィを真っ白にして細くして小さくして牙を無くして体毛も無くせば魔族に見える。見える?いや、見えないかもしれない。


「気が付いたのね。良かったわ。」


女神様がニコリと笑う姿が美しかったので、ボクは彼女が魔族かも知れないなんて事を忘れた。


「ありがとうございます!さっきの飲み物が美味しかったです。」


少しでも会話がしたくて頭をフル回転させて話題を考える。だけど、彼女の鈴のように涼やかな声に早く答えたいとも思う。


考えても彼女の裸身しか思い出せなくて、結局は生き返るような飲み物の話しか切り出せなかった。顔が美しいとか、着ている服が似合っているとか、いくらでも彼女を褒める要素はあっただろうに。


「気に入ってくれて良かったわ。アンベワリィのレシピのカルメはネラムの実が少し入っていて美味しいわよね。」


「本当に体の隅々まで染み渡るようでした。」


ああ、ダメだ。話題が続かない。アンベワリィのレシピを褒めれば良いのだけど、話に他の人を交えたくない。特にアンベワリィは側にいて体を拭きながら話を聞いている。できれば彼女と二人だけの話にしたい。


「これが人間の服?私達の服と変わらない作りだけど、ずいぶんとシンプルなのね。」


彼女はそう言いながら、ボクの胸に息がかかるほどに顔を近づけてジロジロと見て周る。その視線が服を通り越してボクの体を見ているような気がした。


「姫様。魔族が人間の服を模したのよ。」


アンベワリィが下着をつけながらボクが言葉を思いつく前に答えてしまう。ああ、ボクが答える事ができなかった。魔族が人間の服を真似たなんて初耳なんだけど。


「そうなの?」


キョトンと目を丸くして指をアゴに当てる仕草がまたかわいい。


「魔族よりも先に人間は文明を手に入れて、魔族は言葉も文化も真似をしたんだってさ。誰かが言ってたよ。今では違った模様を作ってるけどね。」


ボクのシャツは冒険に出る前にもらった王宮の制服だから持っている服の中でも一番いい服を着ている。でも、貴族よりも目立たないようにするためにシンプルな無地なんだ。こんな事なら、もっと模様のあるオシャレな服を着てくれば話題になったのにと悔やむ。


姫様と呼ばれた彼女の服は生成りのきらきらと光る薄くゆったりとしていて柔らかそうだ。まるで貴族が夜風に辺りに行くかのような服だった。(すそ)に金糸で刺繍がしてあって、赤い腰ひもに模様が入っている。


いや、姫様って言うくらいだから貴族か、もしかしたら王族だよね。


「へぇ。人間の真似をしていたんだ。」


少し残念そうに姫様の頬がふくれる。人間の真似をしたという話が気に障ったのかもしれない。


「今日はコイツと食事をするつもりですが、姫様もどうです?」


アンベワリィがボクを差して言うからギョッとする。いやいやいや、食事をするなんて聞いてないよ。また、作った本人の前で塩辛いご飯を食べなきゃならないのか…。


「あら、面白そうね。」


「コイツをセナから預かったんだけど、人間は食事の味付けから仕方からまったく違っていたのよ。ついでに風呂だって初めてだって言うんですよ。話を聞かなきゃ、間違ったことをしでかしてくれそうなのよ。」


「初めてのお風呂だったの!?人間ってお風呂に入らないの!?」


姫様がその後の言葉を飲み込んだ様に見えて少し傷ついた。きっと汚いと思われたのだろう。


「その代わり浄化の魔法と言うのがあって、魔法を使って清潔を保っているそうです。まぁ、私達には毒になる魔法らしいけどね。」


「へぇ。とっても興味深い話だけど、今晩はお父様に呼ばれているのよね。」


姫様は悩み顔をして黒い方の魔獣をちらりと見ると、黒い魔獣は首を振った。


「それで、カガラシィ様を連れているんだね。残念だわ。」


アンベワリィが、あまり残念そうでは無い顔で言うけど、ボクは非常に残念だった。せっかく姫様とゆっくり話をするチャンスだったのに。ボクが姫様と喋っていたのにアンベワリィにとられて、最後には姫様との会話にも混ざれなかったんだよ。


「ねぇ、変な魔獣がいるわよ!」


姫様との会話が途切れてしまいそうなので次の話題を探すために頭を使っていると、部屋の外、赤い布の掛かった扉の外から声が聞こえてきた。


「ヒョ~リ~!」


声の元からカプリオの情けなくボクを呼ぶ声が聞こえてきた。彼は、自分は人形だから風呂には入らないと廊下で待っていたんだ。服を脱ぐための部屋は広いから、部屋の中で待てば良いと言ったのに入るのを嫌がっていた。


「早上がり組がもう風呂に来たのね。メシの前に入るヤツ等かな。」


「ハプニングがあったから時間をかけすぎちゃったわね。カガラシィを連れていれば時間を稼げるかもしれないわ。」


姫様がアンベワリィと顔を見合わせて黒い魔獣を撫でる。ハプニングはボクが倒れてしまった事だろうけど、なんだか二人とも慌てているような感じがする。


「姫様、よろしくお願いします。人間とは言え男を入れるのは体裁が悪いですから。」


「まぁ、私もカガラシィを連れていたのだからお相子だわ。」


そして、やっとカガラシィと呼ばれた黒い魔獣の事に思い至る。姫様は2匹の魔獣を連れている。白い魔獣と黒い魔獣。2匹とも長い毛をなびかせる四つ足の似たような見た目で、色くらいしか違いが無いように見える。でも、魔族は対となる魔獣は1匹だと聞いている。


アンベワリィは『男』がいると体裁が悪いと言っていた。もしかして、黒い魔獣もオスなのかもしれない。白い方は姫様の魔獣で、黒い方は姫様と仲の良い男の魔獣なのかもしれない。どす黒くモヤっとした塊が心の中に生まれて、姫様とアンベワリィの声が遠くなる。


アンベワリィは『お父様』に会う事で、黒い魔獣が居る事に納得していた。


お父様と会う約束に、オスの魔獣。


お父様が認める、オスの魔獣。


黒い思いはどんどん胸を占め、お腹が熱くなる。



「ねぇ、アンベワリィ。後ろに何を隠しているの?」


ふと、気が付くと、知らない魔族の女の人の声が聞こえた。黒い魔獣に気を取られている間に、辺りは暗くなりボクは壁を背に立っていた。にゃーんと足元をデェジネェが太い身をよじらせる。


淡いランプの灯が目の前のアンベワリィの背中から漏れてくる。


「いや、風呂の入り方も知らないって言うからね。つい。」


アンベワリィの観念した声がか細く聞こえると、次の瞬間にアンベワリィの背中が消えて目の前が明るくなった。服を脱ぐ部屋の淡いランプの明かりを背景に、気色をたたえた3人の魔族の女の人の瞳がボクを見つめてくる。


これは知っている。マズいヤツだ。


「きゃ~!人間よ!!人間がいるわ!!人間よね!?」


「えっ!男じゃない!?女湯に男がいるわよ!?」


「アンベワリィが男を女湯に連れ込んでいるわよ!」


一気に騒然として、黄色い声が服を脱ぐ部屋にこれでもかと響いた。



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次回:幸せな『肖像画』



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