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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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外湯

--外湯--


あらすじ:お風呂は熱くて入れなかった。

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アンベワリィが風の魔法で湯煙を晴らすと、四角く区切られた熱い泉の向こうにガラスで仕切られた大きな窓があった。その向こうには夕陽に照らされて赤くなった魔王の森が遠く見える。


「どうだい、絶景だろう?自慢の露店風呂なんだ。」


アンベワリィの胸がプルンと揺れる。


いやいやいや、窓の無い部屋でも恥ずかしかったのに、外からいくらでも見られるような場所なんて恥ずかしすぎる。いや、今、アンベワリィは外のお湯に行くようなことを言っていなかったか?いやいやいや、部屋の中でさえ無防備な裸を晒すのが嫌なのに、外になんてでたら恥ずかしすぎる。


窓の外には岩で囲まれた泉から湯気が上がっているのが見える。あれが外湯なのだろう。でも、辺りには囲う物は何も見えなくて、どこからでもお風呂が覗けるように思える。建物も無く窓も見えないから、他から見える事が無いのかもしれないケド。それでも恥ずかしい。


魔族って裸でいる事が平気なのだろうか?


「あ、いや、ボクは…。」


「遠慮するんじゃ無いよ。」


めいっぱいの抵抗をして逃げ出そうとしたつもりだけど、大きな体のアンベワリィはビクともしない。押しても引いても動かない。


気に止める事門もなく彼女の長い腕が無造作にガラスの扉を押し開くと、外の空気が流れてきて室内の湯気で熱くなった肌を優しく撫でる。外に出ると言う事実を実感して頭に血がのぼる。


ゾワリ。


背筋が酷く冷えて気分が悪い。指先の感覚が急に消えて体の中身を吐き出したくなる。どこに立っているのか、いや、自分の足で立っているのかも分からないほど、不覚に落ちる。


夕陽で真っ赤になった視界が真っ黒に濁った時、ボクは女神を見た。


真っ赤な空に、白く浮かび上がる裸の少女。


大きな岩の上に腰を掛けて、遠く魔王の森を大きな赤い瞳で物憂げに眺める彼女を見た時。


ボクの気は暗転した。



------------------------------



瞼に焼き付いた。彼女の裸身。


お尻を柔らかく潰して巨大な岩の上に座り、白磁のように透き通る肌の背中はまるく、うっすらと水気を帯びて輝く夕陽に負けないくらい煌めく。水を滴らせた白銀に輝く長い髪が垂れるように落ちる。腕の隙間から覗いているふくらみは控えめだけど、確かな母性がある。


立てた片ヒザにヒジをついて上気した桃色の頬を潰していても整った顔は愁い帯びて、夕陽に負けないくらい大きな赤い瞳が長いマツ毛を重たく夕陽の赤と森の緑を映して更に赫く輝く。


そして、再び暗転する記憶。


(ヒョーリ!)


ジルの声が聞こえた気がして目を開けると、すでに空は暗くなり満天の星が輝いていた。


「大丈夫かい?」


アンベワリィの大きな顔が満天の空をさえぎって、夜空の代わりにボクの視界いっぱいに広がる。


「うわぁ!」


ごつん!


いきなり視界を奪ったアンベワリィの牙の生えた大きな顔にびっくりして体を持ち上げると、アンベワリィのオデコにしたたか頭をぶつけて目がちかちかする。濡れた髪から石鹸の良い匂いがした。


「痛いじゃないか!」


アンベワリィは片手でおでこを押さえ、もう片手でボクの頭をつかむと、元の位置へと押し戻した。乱暴に押し戻されたハズなのに頭はふよんとした柔らかい感触に包まれる。


アンベワリィが怒っているのかと思い、くらくらする目を恐る恐る開けると、今度は大きな双丘の向こうにアンベワリィの心配した黒い瞳が見えた。


「ごめんなさい。」


素直に謝る。とって食べられそうだと思ったことは口にしなかった。まだ、アンベワリィの顔を見てから2日目なんだから慣れていないんだ。いきなり覗き込まれるように見られると生きた心地がしないんだよ。


「いや、それより、気分はどうだい?」


アンベワリィの双丘を見続ける事ができなくて目を逸らすと、岩に囲まれた外湯の湯舟が見えてお風呂で倒れた事を思い出した。


体を風が撫でる。


いやいやいや、まだ服を着ていないじゃないか!!?


外で裸のまま寝かされているんだ!!


一気に恥ずかしくなって、立ち上がって逃げようとして足を踏み外した、再びアンベワリィの大きな腕に引き戻されて今度は胸の中に頭が埋もれる。そして、元の位置に戻される。膝の上に。


アンベワリィは長い椅子の上に座っていてボクが床が有ると思っていた場所には何も無くて足が空を切ったんだ。冷静に分析する。いやいやいや、長椅子に座ったアンベワリィに膝枕をしてもらっていたんだ。


「もう少し、安静にしていな。きっと湯気が熱くてのぼせたんだ。鼻血まで出していたんだよ。」


アンベワリィは(さと)すように言うけれど、ボクの内心はそれどころじゃない。裸を無防備に晒している恥ずかしさと、アンベワリィの肌に直に触れている気恥ずかしさとで、どこでも良いから逃げたい。


それに、鼻血が出ていたのも女神のような裸を見たからと思われるかもしれない。『のぼせる』と言う言葉は分からないけど、女の子を見て鼻血を出すとからかわれるんだ。


居ても立っても居られなくて、三度アンベワリィの膝から抜け出した。


今度はちゃんと足場の位置も確認してある。さっきはアンベワリィの膝の上だって分からなくて、足を空回りさせてしまったけど、アンベワリィが長椅子のようなモノの上に座っているのを見たんだ。うまく体を捻って手を床に着けると、今度こそアンベワリィの腕から抜け出すことができた。


濡れた石畳の床を滑りそうになりながら走る。


早く服を着て肌を隠したい。


がちゃり。


湯気に曇ったガラスの扉を目前とした時、内側から扉が開き一人の少女が現れた。白銀の長い髪が月の光を受けて輝き、ゆったりとした白く柔らかい服が風になびいている。


美しい。


両隣には四つ足の長い毛の白い獣と黒い獣が、女神に使える神獣のように並び従っている。


「あら、走り回っても平気なの?」


月に輝く白い顔に浮かぶ小さな花びらのような口が声を紡ぐ。凛と高く響く声だ。


「あ、ハイ。だ、大丈夫です。」


手を伸ばし太ももにつけ、びしっと気を付け直立不動になって返事をする。


「そう、でも、走らない方が良いわ。」


同じ高さにあるくりくりとした大きな赤い瞳が、何かを探すように忙しなく動きながら言葉を続ける。ボクを気遣ってくれているんだ。優しいんだよ。


「ありがとうございます。気を付けます。」


嬉しくなって一歩近づいてお礼を言った。できれば、手を握り返したい。


「これ、飲んでおいた方が良いわ。湯あたりの時は体の水分が足りなくなっているのよ。」


彼女が差し出したお盆には、ガラスのコップにはピンクがかった白い飲み物が乗っていた。


言われるままにお礼を言ってコップを受け取って口に入れると、何かの乳に甘酸っぱい果物を混ぜて冷やしたもののようだ。魔族の飲み物らしく少し塩の味もする。


味を確認したら体の中を冷たさが広がり、隅々まで力が漲るような感覚を覚える。体がもっともっとと欲しがるので、ひといきに飲み干した。体が軽くなった気がする。


「ぷはっ。美味しかったです。」


もうひと足、前進して感想を言う。生き返るかのように美味しかった。女神がボクのためにこの上なく美味しい飲み物を用意をしてくれたんだ。感動をどうにかして伝えたい。


「そう、良かったわ。」


空になったコップを撫でまわし、どうにかしてこの思いを彼女に伝えたい。冷たく甘く聖者様の薬のような命の飲み物をボクにくれた感動をどうにかして伝えたい。


もう一歩前に出ると石鹸の匂いが香る。息遣いが聞こえる距離で彼女の瞳を覗き込むけど、言葉を紡げない自分がもどかしい。


「元気が出たなら、服を着た方が良いわ。」


彼女が目を逸らしながら言って初めて、ボクは一糸を纏わぬ裸だった事を思い出した。



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次回:『脱衣室』の嫉妬



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