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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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--皿--


あらすじ:アンベワリィに味見を頼まれた。

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浄化の魔法とは、人間が清潔でいられるように女神様が作られた、とカプリオが言った。


「でねぇ、人間の間で病が流行った時に貰ったんだけど、人間用に作られた魔法だから魔族の中には不調を起こす人もいるんだ。だから、魔族では広まらなかったんだよねぇ。」


カプリオの言葉は難しかったけど、人間と魔族の体の中に住む小さな生き物が違うみたいで、間違えて魔族に浄化の魔法をかけると、人間には害でも、魔族には必要な小さな生き物が消えてしまって、しばらく動けなくなるらしい。


ボクの体の中に小さな生き物が棲んでいるなんて驚きだ。ちょっと気持ちが悪い。


ついでに、治癒の魔法についても話してくれた。これも人間用に作られているから、魔族には効果が薄い。人間には無いけど、魔族には必要な臓器が有って、それを修復できないらしい。つまり、魔石に関する臓器だ。


人間の為に作られた浄化と治癒の魔法は魔族には使えないけど、魔道具の力の源になる魔石を体内に持っている魔族は人間よりも火水風土とかの他の魔法の威力が強いらしい。知らなかった。


「だから、人間は食事の前に浄化の魔法をかけるんだよ。魔族が手を洗ってから食事をするようにね。」


のっぺりとしたカプリオがウインクをする。


「ああ、なるほど。確かにワタシたちはゴハンの前に手を洗うねぇ。」


アンベワリィの太い尻尾がドスンと地面を震わせるとピタッと止まった。


人間にも手を洗う事はある。土なんかで手がすごく汚れた時だ。浄化の魔法では足りない時に水の魔法を使う。でも、魔族が手を洗うのは水だけじゃなくって、洗剤を使って洗うらしい。さっきの小さな生き物を洗い落とすんだって。


「で、アンタは魔獣なのに、なぜ喋る事ができるんだ?」


「人間は魔獣と対にならないんだよぉ。だから、ボクはヒョーリの魔獣じゃない。」


後からカプリオに聞いた話だと、魔族は必ず魔獣と一緒に育つらしい。双子みたいに。普通の魔獣は単独で生きているけど、魔族といっしょに育った魔獣は魔族の手足となって動くし、魔族は魔獣のお世話をする。2人でペアになって生きるんだって。


「それじゃぁ、答えになっていないだろう?」


アンベワリィの黒い目が一瞬、赤く光った気がした


「前提だよぉん。誤解を先に潰すための。先に言わないとヒョーリの魔獣はどこだって話になるでしょ?ボクは昔の人間に作られた、ただの人形さ。少し特別製のね。」


カプリオはのっぺりした顔から赤い舌を伸ばす。


「人形?人形だって喋りはしないでしょう。まぁ良いわ。とにかく作られたモノだから喋れるって事ね。」


「そゆこと。ああ、良かった。実はボクも作られただけで、どうやって喋るかなんて知らないからね。アンベワリィが自分で自分が喋れる理由を知らないようにね。」


「…話を戻しましょう。少し冷めてしまったわ。」


アンベワリィは苦虫を食べたような顔をすると、お皿に目を戻した。横道に逸れて魔法の話になっていたけど、持ってきた料理の味見をするためにアンベワリィは来たんだ。忘れてくれていても良かったのに。


黄色いマッシュポテトを見て、もう一度、唾をのむ。食べる覚悟を決める所からやり直しをしてポテトをすくって口に運んで目を(つむ)る。口に入れると塩辛いポテトの味がしたけど、香辛料の香りが薄くなって食べやすくなっている。やっぱり、しょっぱくて美味しいとは言えない。


でも、アンベワリィの考えが解った。


アンベワリィはボクが香辛料を苦手だと思ったんだと感じた。だから、香辛料を薄くしたものを作ってくれたんじゃないかな。人間にも香辛料が苦手なヒトがいるんだから香辛料を減らせば食べられると思ったのかもしれない。


でも、1口目を飲み込んでも、どんな返事を返して良いのか決めきれなかった。美味しくないと言えない。3口ほど食べて次の匙をすくおうとしたらアンベワリィに手を掴まれた。


「アンタ、ポテトだけを食べるつもりかい?」


アンベワリィは呆れた顔をしている。そうか、味見だから他のも食べなきゃならないよね。赤い豆を食べて、酸っぱい葉を食べて肉をナイフで切って食べると、次はポテトだと同じように順番を繰り返した。どれも香辛料の味は薄くなっているけど、塩辛いままだ。


塩辛さが辛くなってきたので水を飲もうとすると、アンベワリィが頭を抱えているのが目の端に映った。何か間違ったのだろうか?


「良いかい、こうやって食べるんだ。」


アンベワリィは大きな手でボクの口に合わせて肉を一口大に切ると、上にポテトと酸っぱい葉と乗せると全部合わせてフォークで突き刺してボクに渡した。


口に入れると、肉の味がする。噛み潰すとポテトの甘みに肉汁が合わさる。飲み込むと葉の酸味が口の中を洗い流すように整えてくれた。なるほど、魔族の食事って、混ぜて合わせながら食べるモノなんだ。


混ぜて食べると、ポテトだけだとボソッとしていたのが、肉汁を吸い込むことで滑らかに変わり肉とポテトの味が変わった。王宮で食べたベーコン入りのマッシュポテトの様にポテトに肉汁が混じってくる。


しょっぱいけど。


「どうだい?今日は子供用の味付けにしてみたんだが。」


最初に食べた時より、香辛料の独特な香りも消えて美味しくなったけど、美味しくなったけど、塩辛いのは消えない。目の前にはボクが美味しいと言う事を期待しているキラキラした大きな黒い瞳が覗き込んでくる。


顔が近いけど今度はそれほど怖くない。


アンベワリィがボクのために味付けを変えてくれたことも分かったからだ。子供扱いはどうかと思うけど、ボクの事を考えてくれる優しい魔族だとは分かった。だから、最初は怖くて叩かれるのが嫌で答えを言えなかったけど、今度はキラキラした瞳に嘘を吐きたくなくて答えられない。


アンベワリィの期待通りに『美味しい』と言ってあげたいけど、どうしても言えない。美味しいと言った後に、塩辛いと続けられない。塩辛いと言った後に美味しかったと続けても意味がない。


逡巡(しゅんじゅん)してる間にアンベワリィの顔が(さみ)しそうに変わった。


沈黙が流れる。


「アンベワリィ。人間には魔族の料理はしょっぱいんだ。」


沈黙の中、カプリオが口を開いた。


魔族はウルガス湖の水に慣れ親しんでいる。それが原因だとカプリオは続けた。ウルガス湖は塩の湖で、ボクが労役のためにセナに連れて行かれそうになった湖だ。湖は塩の塊がこびり付くほど塩辛いと言っていた。


湖の底に溜まった塩を割って、街に運び込む事が労役の仕事らしい。


魔族はその湖の水を使って生活をしてきた。どれくらい長い間かカプリオも知っていなかったけど、塩辛い湖の水を飲んでいる魔族は生まれつき沢山の塩を摂るような体の仕組みができている。それに、魔族の大きな体は塩を大量に消費する体の構造をしているから塩味が濃い方が好まれるのだそうだ。


アンベワリィは無言で立ち上がり、カプリオを狙って殴りつけた。けど、彼はひらりと飛び上がって避けると、のっぺりとした顔から赤い舌を伸ばした。


知っているなら、最初から言って欲しかったと思ったのはボクもアンベワリィも同じだろう。



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次回:アンベワリィと『お風呂』



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