魔族
第4章 魔王の城で死にたくなかったんだ。
--魔族--
あらすじ:アンベワリィが不機嫌になった。
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魔族。
浅黒い肌にギョロリとした大きな目。開かれる口には牙が生え鬣のような髪には角も生えている。背は高く筋肉質で、長い腕には指が4本しかない。非常に強く、魔獣に乗って自在に操る。
小さい頃におとぎ話で聞いた通りだった。
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むかしむかし、ずっと昔。魔王の森からほど近い村に12歳のグルコマと言う少年が住んでいた。両親を手伝い良く働き、優しいと村でも評判の少年だった。畑を耕して種を植え、雑草を取り収穫をする。グルコマも両親に習いながら仕事を覚えていた。
ある日。村人の1人が返って来ないと騒ぎになった。彼は良質の木を求めて魔王の森の奥に入って行ったという。
それより昔は魔王の森の奥に入るなんて事をしなかったのだが、聖女様によって神様から教えられた治癒の魔法が広められ、死者が減った村では人口が増え、魔王の森に木を取りに行く事が当たり前になっていた。
家や小屋を作るのにも、暖を取るためや料理の火にも、鉄を溶かすためにも薪が、木が必要で足りなくなっていた。
魔王の森には魔獣が居るから深くは入れない。浅い場所にいるはずだと村人は彼を探しに行く。
グルコマも探しに行きたかったが、『ギフト』も授かっていない少年だからと村に残された。仕方なく畑の仕事をしていると魔王の森から魔獣が出てきた。体の大きな魔獣は餌を求めてグルコマを襲う。
全てを投げ捨てて命からがら逃げ帰ったグルコマは両親に魔獣の事を伝え、両親は村長に伝え、そして村中の人たちが集まって農具を手に持ち何とか魔獣を撃退した。
撃退はできたが畑は魔獣と魔獣を倒すための村人の足跡でぐちゃぐちゃに踏み荒らされてしまった。そして、村人が1人犠牲になった。彼は魔獣に喉を食いちぎられた。
魔獣はそれから頻繁に村人を襲うようになった。村の近くの魔獣が人間の味を覚えたのだ。
魔獣はお互い繋がっていると言う噂がある。罠をかけると1匹は仕留められても、2匹目以降は罠を知っているかのように避けてバカにするようにフンをしていく。
繋がっているから時折、群れを成して人間を襲う。1匹が人間の味を覚えたら付近の魔獣が肉の味を知る。被害が増え、終いには魔獣は群れとなり村を襲う。
もうひとつ村には不利な問題があった。魔王の森が大きくなっていたのだ。
木は種を落とし緑が増える。じわじわと森の境界が広がっていくのだが、普通は建材や薪として木が消費される。それが追い付かなくなるほど森が広がっているのだ。
魔王の森が早く大きく広くなり村と森の距離が縮まる。近くなった森に棲んでいる魔獣は森から畑仕事をしている人間を見つけては出てきて襲う。野生の獣には二本足で立つ人間が大きく見えるから滅多に襲われることが無いが、魔獣は違う。四本足のままでも人間より大きい。
魔獣は森の中で動物を狩るよりも、見通しのいい場所にいる人間を襲う事を選んだ。彼らにとって人間は見つけやすくひ弱で、それでいて味を占めた今は肉も十分な量を食べられる格好の獲物だったのだろう。
どんどん魔王の森から魔獣が出てくる。
だけど、生活をしていくには畑で作物を作らなければならない。収穫が無くては飢えてしまう。魔獣の肉は体に悪く食べられないし、皮や骨もすぐに腐ってしまう。少しばかり採れる魔石は使い道が少なくて売っても安い。いくら倒してもお金にならない。
野生の獣と違って魔獣は魔石を持っているだけの害獣だ。野獣からは魔石は採れないけど、肉も皮も使えるし金にはなる。
村は王を頼り、兵士を派遣してもらう事にした。村を捨て、畑を捨てても、人が増えている今は受け入れ先が無い。外には余分な畑が無い。今の畑を守らなければ飢えて死ぬ。
それに、王も木を欲しがっていた。王都も人は増えていて、魔王の森の豊かな木々を使わないと近くの森が無くなる。森が無くなれば、獣の肉や皮が取れず、水も濁り川が氾濫する。森を潰して滅んだ村もあった。
兵士は懸命に戦い魔獣を狩り、数を減らしていく。
村は平和が戻ったと思われた時、魔族が現れた。大きな目を真っ赤にさせた魔族は魔獣に乗って暴れ、兵士たちをなぎ倒していった。頼みの綱を失った村人たちも手に剣を取り戦ったが、ひとり、またひとりと倒れていった。
村の女子供を避難させるために集めた教会にグルコマも居た。
魔族は外に動くものが居なくなると、教会に向かった。
皆殺しにされる。
誰もがそう思った時、グルコマは教会を飛び出した。
グルコマは倒れた男の剣を拾う。真っ赤になって首も無いが、よく見なくても分かる。自分の父親だ。父の剣を取り、魔族に向かって駆ける。
魔族は大きな魔獣に乗っていて、自身も大きな体をしている。ただ剣を振り回しているだけではグルコマの剣は決して魔族に届かなかっただろう。
だから、彼は嵐に乗った。
風に乗って空を駆け天より高く舞い上がると、魔族めがけて一直線に落ちる。
『嵐の奏者』
12歳の少年は教会の神像の前で儀式をして神様から『ギフト』を授かる。グルコマの年は十分だが神官も居ないし、儀式の方法も分からない。それでも、彼は神像にすがり力を欲した。
このままでは母も妹も、友達も全員が死んでしまう。焦りの中、必死に祈った。
嵐に乗って天から落ちた彼は魔族の背中に剣を突き立てる事に成功した。高い位置から体重をかけて振り下ろされた剣は魔族の体を突き破り、魔獣にまで届いた。
魔族の死体から魔石がポロリと落ちると、村の生き残りや兵士の生き残りが彼を称える。神に愛された子だと。奇跡の子だと。
その時、彼は。グルコマは勇者になった。
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グルコマは戦った。
働き手の男衆を失った村は荒れ果てて、魔王の森に呑まれてしまった。グルコマの家に代々続いた畑も手放す他無く、新しい土地を買う金も無い。
窮地に立たされ無理に『ギフト』を授かってしまったグルコマには畑ができない。畑の仕事をするには畑に関係がある『ギフト』を持っていないとならない。いや、仕事はできるが収穫量が減ってしまうから畑仕事で人並みの生活ができない。
だが、勇者の称号を得た彼は期待された。だから、人々のためにと彼は剣を振るう。
魔王の森の広がりが早くなっていると知られてから、各地で魔獣の被害が増えていた。軍は人手を必要とする。魔獣を倒す人手を。『嵐の奏者』は凄かった。グルコマは雨に紛れて風に乗り、天を跳んでは雷を落とし、魔獣を倒す。人々は更に彼に希望を託した。
期待されれば勇者は力を増す。グリコマは成長と共に、どんどん強くなった。
だが、魔王の森の拡大は止まらない。
魔王の森の奥深くには魔族の街があり、魔族が魔獣を操っている。その証拠に彼らは魔獣に自在に乗って戦うし、魔族も魔獣も魔石を体の中に持っている。ヒトガタをした魔獣こそが魔族だ。そして魔族を魔王が束ねている。
魔族と魔獣には魔王の森が小さかった古来より何度も村や町が滅ぼされた。
グリコマの体が十分に成長し立派な大人になった頃、王は魔王の討伐を決意した。
魔王を倒せば森の拡大は治まるハズだと。
グリコマは賢者に一振りの剣、『勇者の剣』を貰うと兵士と共に魔王の森に入り、そして見事に魔王を倒した。だが犠牲も大きくグリコマ以外に帰ってくる者は居なかった。
魔獣は森から出て来なくなり、そして、森の拡大が止まった。
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勇者様は魔王を倒すと魔族の子供を連れて魔王の森の端に新しい村を作ったとカプリオは言っていた。
廃墟となった村は森に呑まれていたんだ。
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次回:アンベワリィと『薪割り台』




