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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第4章:魔王の城で死にたくなかったんだ。
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連行

第4章 魔王の城で死にたくなかったんだ。

--連行--


あらすじ:魔族に捕まった。

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ボクを捕まえた魔族達は香草を包んだチロルの丸焼きを美味そうに食べていた。ボクは縄でぐるぐる巻きにされてただ見ているだけだったからお腹が鳴った。食べ終わるとボクの首に変な槍を突き出してきて、チロルを食べる前と同じ質問をしてきた。


「あの攻撃は何だったんだ?」


槍には(いく)つもの魔獣の牙が(くくりつけ)られていてギラギラと光っている。後に聞いた話によると、ただ魔獣の牙を括っているのではなく、ちゃんと研いで鋭利にしているのだそうだ。


喉元に突き付けられた牙よりも、魔族の黒く大きな瞳が怒気を含んで細められて怖かった。近づけられた顔からは(ひど)く生臭い息が脅し文句と共に吐かれる。


それは獣と同じ匂い。


人間なら浄化の魔法を使うから例えゴロツキでも、こんなに臭い人はいない。臭いのはグデングデンに酔っぱらった人くらいだ。


ボクは『破邪の千刃』の事を話した。一振りでたくさんの刃が現れる『ギフト』だと。


「こんな所で何をしていたのか?」


魔族は続いて質問してきた。


声は低く、質問に続いて唸り声のような声を上げる。ぐるぐると威嚇する獣のように。


ボクは勇者の剣の話をした。獣だって怖いのに魔族になんて勝てるはずなんて無いじゃない。


魔族にも勇者の剣の話は伝わっていたらしく、こんな場所に有ったのかと驚いていた。魔族間では人間の街に剣が有ると思われていたらしい。


「他には?」


と問われても、何も答えられなかった。ぶんぶんと首を振る。


「ぼ、ボクの知っているのはそれだけだよ。た、たまたま勇者の剣のある場所を当てちゃったから、こんな場所まで案内させられたけど、最近まで、た、ただの落ちこぼれの占い師だったんだ。」


声は勝手に震える。


「占い師か?それにしては立派な剣を持っているな。」


魔族は壁に立てかけられた鉄の剣を見ながら言った。


「ぼ、ボクのじゃ無いんだ。この村で勇者の剣と一緒に置いてあったんだよ。ホントだよ!」


ライダル様は街の叩き売りの剣より悪い品だと言っていた。それを一生懸命説明する。


「ふん。この剣のすごさが解らんのか?」


「解らないよ!剣だって使わないもの。」


ボクは腰に差してある自分のショートソードを見せた。王宮の図書館で働くようになってから買ったもので、ピカピカの新品だ。錆びない様には手入れをするけど、研ぎ直したことはない。


「なるほど、血の曇りも脂もないな。いや、オマエ、ホントに良く森に入れたな。」


ボクのショートソードを見て魔族は感心したかのように言った。あるいは呆れていたのかもしれない。すでに彼の関心はボクには無く、2本の剣に移っているように感じられる。


「し、知っている事は喋ったから、に、逃がしてくれないかな。」


緩んだ空気を良いことにボクは思い切って尋ねてみる事にした。魔族の住む街まで連れて行かれる事だけはどうしても避けたい。魔族に捕まるなんて聞いた事も無いよね。魔族の街まで行ってしまったら殺されてしまう未来しか見えない。占い師じゃ無くたって解る。


「あ~そりゃ、ダメだ。オレの聞きたいことは聞いたが、上の連中は他に知りたいことが有るかもしれねぇ。悪いが付いて来てもらうぞ。」


振り向きもせずに答えられた言葉に、ボクの最後の望みは絶たれたんだ。



------------------------------



魔族も夜に森を歩くのを嫌なのか、そのまま村で一晩を過ごしてあくる日。魔族は村の外に繋いでいた魔獣に乗ると森の中を走って行った。ボクをぐるぐる巻きにして魔獣のお尻に括り付けて。


魔族は魔獣を手足のように操ると聞いていたけど、本当だった。毛の短い大きな体と鋭い爪を持った魔獣は魔族を乗せると木から木へと飛び移りながら森の中を駆けていく。馬のように地面を走らない。


魔獣は空を走るかのようにぴょんぴょんと木の腹を蹴って跳んでいく。そのたびに魔獣のお尻に張り付くように縛られたボクは地面を見たり、空を見たりと目まぐるしく景色が変わって行く。いや、コレを景色と呼んでいいのか知らないけど。


走り始めてすぐ吐いた。吐しゃ物が後ろの方に弧を描いて飛んでいく。キラキラと胃液だけが木漏れ日に飛んでいく。


吐き終わるまで待てずにボクの意識は暗転した。



目が覚めると、魔族の数が増えていた。


すでに薄暗くなっていて魔族達は野営の準備をしているようだけど、今までずっと体を振り回されていたのか視界はグルグルとしていて気持ちが悪い。


治癒の魔法をかけようとするけど、意識が定まらない。吐き気はするのに吐く物は出尽くしていて呼吸だけが苦しい。


一緒に括り付けられているジルが何か言っているのだけど、よく聞き取れない。


そのまま意識は再び暗転した。



何度も何度も意識を取り戻しては手放す事を繰り返したのを覚えている。少し調子が良い時は治癒の魔法をかけたり、魔法の水を飲んだりした。野営の時間だったのだろうか。寝転がされた地面は揺れているように感じたけど、虫の声が聞こえた。


ジルの声が聞こえた時もある。でも、長い間意識を保っている事はできなかった。


(ようや)く、しっかりした意識を取り戻したのは、白いモコモコの毛の上での事だった。カプリオの毛だ。


「おはよ~。ヒョーリ。」


カプリオののんびりとした声が風切り音と共に聞こえてくる。荷物のように背負われているみたいだ。縛られたままだけど。


(大丈夫か?相棒?)


(うん。)


ジルの心配そうな声にとりあえず弱々しく答えると、魔法で口の中に水を出現させる。喉がカラカラだったんだ。続いて治癒の魔法もかけておく。少し気分が良くなった。


(おっと、動かない方が良い。)


少し気分が良くなったところで、辺りの様子を確認しようとしたらジルに止められた。魔族は魔獣に乗って馬よりも早く走っていて、カプリオはロープで魔獣に引っ張られているらしい。体を動かしてカプリオから落ちたら大変だ。


(どれくらい気絶してたの?)


カプリオのモコモコの毛で何も見えない。どうなっているのかもさっぱりだ。


(丸2日ってとこだ。)


ジルの話だと、昨日の夜までボクは魔族の乗る魔獣に括り付けられていたそうだ。でも、夜にカプリオが現れた。ジルはすがる思いでカプリオに助けて欲しいと願ったそうだ。


闇夜からのっそりと現れた白いカプリオに魔族達は警戒したそうだけど、カプリオは気絶するボクの横に、ただ悠々と寝そべった。ボクを捕まえた魔族は焚火の所にいたカプリオを覚えていて、良く懐いていると感心していたそうだ。


(ヒョーリ!ヒョーリ!これ面白いね!)


カプリオがジルの『小さな内緒話』でしきりに感心していた。声を出さなくても話し合える『小さな内緒話』は速く走る風の中でも、邪魔な音を気にせず普通に会話ができる。


(ありがとう。カプリオ。)


本当は撫でてあげたいけど、手足が縛られて動かせないから口だけで感謝をした。


(どういたしました~。)


カプリオの機嫌の良さそうな声が帰ってくる。


(村を離れても大丈夫なの?)


(もう何もなくなったの。誰もいないし、面白くないよ。)


のんびりと答えるカプリオには悲壮感が欠片も無い。ちょっとそこまで遊びに行くかのように明るく答える。住んでいた村が無くなったら寂しいだろうに。



モコモコのカプリオの背中に荷物のように背負われて、ボクは魔族の街に行く事になった。



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次回:『魔王』



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