鑑定
第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。
--鑑定--
あらすじ:蒸し料理が作れるようになった。
------------------------------
(フライパンの代わり?んなもん、そこいらの石で十分だろう。石焼きって料理だ。)
蒸し料理を食べたから、今度は焼いた料理を食べたくなった。ジルにフライパンの代わりになりそうな物を聞いてみたら、石を使えと言われたのだけど。
(どうやって使うの?)
モクモクと狼煙を上げる焚火に壊れた椅子をくべながら訊ねる。薪となった椅子はゆっくりと燃えだし、白く上がる煙は青い空へと消えて行く。アンクス様達に見えているのかな。
(平らな石の上で料理をするだけさ。チロルの肉を焼くんじゃないのか?)
チロルはボクの目の前を悠々と歩いてエサをついばんでいるから捕まえて食べたいけれど、それより先に食べてみいたい物がある。
(目玉焼きを作ろうと思うんだ。)
昨晩は教会の小さな部屋に泊まった。床が抜ける事を心配していたのだけど、カプリオが教会の間取りをしっかり覚えていてくれたので、地下室の無い場所を聞くことができた。
いつ落ちるか分からない踊り場で寝るのも怖かったしね。
床さえ落ちなければ綺麗な教会の屋根も壁も頑丈だから、安心して眠ることができた。ベッドや日用に使うものは置いていなかったけど、ジルもカプリオも寝る必要が無いから見張りをしてくれるしね。
早めに寝て朝早くから起き出したボクは昨日のゆで卵の味が忘れられなくて、またチロルの卵を頂戴しに行ったんだ。そして思った。ゆで卵のホクホクとした黄身とプリンッとした白身も美味しいけど、トロトロに溶ける黄身とカリカリになった香ばしい白身の目玉焼きが食べたい。
夕飯にはスープに溶かしてみたいけど、お昼に目玉焼きを食べたい。
(あ~、うん。目玉焼きなら、石より瓦が良いかな。釉薬が乗っている分、焦げ付きにくくなるだろう。後は油か。コラモチの実を塗れば少しはマシになるかもしれない。)
(目玉焼きに油が要るの?)
目玉焼きなんてフライパンで焼くだけだと思っていたんだけど。
(あのなぁ、フライパンでも焼く時に油をつけなきゃ焦げ付いちまうんだよ。チロルの脂でも良いんだが、今から絞められるか?)
昨日に引き続き村を見て回って、ご飯の食材を摘んでいたら、太陽は真上まで登ってしまった。朝食の残りの蒸しイモだけでは物足りないかと思い簡単な料理をしようと考えたんだけど。
勇者の剣を見つけてアンクス様達が来るまではヒマだし。
けど、今からチロルを狩る気も無いし捕まえられる気もしない。彼らは脚が早いんだ。そのうち捕まえられるようになるかもしれないけど、その前にお腹が空いてしまう。
(そうなんだ。じゃぁ、諦めてドンヤキとゆで卵のサンドでも食べようか。)
朝ご飯に食べたオロナイモとドンヤキのサンドにゆで卵もいっしょに挟んでみるのも面白そうだ。手間のかかる蒸しイモは少し多めに作ってある。
(いや、やってみようぜ、どうせ卵は腐るほどあるんだ。)
チロルの数が多いから、探せばいくらでも卵を採取する事はできる。失敗しても他に食べ物もある。そう思って油の代わりになるというコラモチの実を採取しに畑に行こうとした時、カプリオが叫んだ。
「ヒョーリ!ヒョーリ!変なのがあるよ!!空に浮いているよ!」
空に浮かぶ変な物。その言葉には覚えがある。魔獣の馬車だ。
「どこ!?青かったかい?」
「アッチ!アッチ!青い箱だよ!」
のっぺりした白面から真っ赤な舌を器用に曲げてカプリオは空の一点を指し示す。そこには太陽の光を反射する青い魔獣の馬車。空を走る魔獣の馬車が有るのなら、すぐ近くまでアンクス様達が来ているハズだ。
ボクの冒険も終わり、帰るだけになるんだ。
目玉焼きの事なんて放り出して、ボクはカプリオと共に村の端まで走り出した。
------------------------------
「なんでテメーが先に居るんだよ?ああん?」
村の結界の端で待っていると、しばらくしてアンクス様達が現れた。ライダル様、モンドラ様、ウルセブ様もいる。手を振って出迎えたボクをアンクス様が睨みつける。ものすごく怖い。ものすごく怖いから、剣に手をかけないで欲しいんだけど。
「ヒョーリ着た。昨日来た。安全なココに来た。」
カプリオが庇ってくれるけど、ボクの後ろに居るんだよね。前に出てくれないかな。
「なんだ?コイツは?」
腰を落とし鯉口を切るアンクス様にボクは慌ててカプリオの説明をした。カプリオを切られる訳にはいかない。彼は2本の剣の内どちらが本物の勇者の剣か知っているかも知れないんだ。知らないとは言っていたけど手掛かりになるかもしれない。
「これが、古の賢者の作った魔獣ですか。話には聞いていましたが、まだ残って動いているとは…。ほほう、いやはや。おおう!」
ウルセブ様がカプリオの周りをぐるぐると回り出す。早口でまくし立てる言葉から察するに、ものすごい魔道具らしい。そんな風には見えないけど、数百年も前の魔道具が動いたままで、しかも喋るのがすごいらしい。普段は他に興味を持つことのないウルセブ様がカプリオを追いかけまわす。
ぐるぐる回るウルセブ様を追ってカプリオもぐるぐると回っている。カプリオは少し楽しそうだ。
「それで、肝心の勇者の剣は見つかったんですか?」
「ちょっと待っててください。今、持ってきます。」
必死にカプリオを追い回すウルセブ様に呆れた顔のモンドラ様に言われてボクは昨晩泊った部屋から2本の剣を持ってきた。豪華な剣と鉄の剣。結局、カプリオの言葉からはどちらが本物の勇者の剣か分からなかった。
カプリオから聞き出そうとしたけど時間切れだ。ボクは素直にジルの言葉に従う事にした。
「このどちらかが、勇者の剣だとカプリオは言っていました。けど、結局どちらが本物の勇者の剣かは教えてくれなくて…。」
ボクを睨みつけていたアンクス様も教会から戻る頃には勇者の剣に気を取られていて、ボクを怒るような雰囲気は霧散していた事に胸を撫で下ろす。
だけど、今度は2本ある勇者の剣の真贋について問われるだろう。でも、どちらが本物かなんてボクにはわからないんだから仕方ない。ジルの言う通り勇者の剣の真贋はアンクス様達に丸投げするしかない。
アンクス様とライダル様がそれぞれ剣を抜く。豪華な剣を抜くのがアンクス様だ。
「ライダル解るか?」
モンドラ様はライダル様に尋ねる。ライダル様は王宮で働いていたこともある戦士様だから武器に詳しいのかもしれない。ライダル様は2本の剣を抜いては光にかざして刀身を視る。
「こっちの豪華な方で良いんじゃねぇか?鉄の剣なんて、そこらの叩き売りより粗悪な品だぜ。まぁ、両方とも魔法が組み込まれているみたいだから、ウルセブにも確認してもらおうぜ。」
カプリオと追いかけっこしているウルセブ様をライダル様が捕まえてきて、今度は2本の剣の魔道具としての能力を見てもらう事になった。魔法陣を見るためにライダル様が剣を分解する。カプリオは鉄の剣の柄の中に魔法陣があると言っていた。
「どちらも凄い魔法陣が組み込まれている。あの魔獣ほどじゃ無いだろうがね。」
ウルセブ様の長く細かい説明を省くと、豪華な剣には振る速度が速くなる魔法陣と、切れ味が良くなるようにする魔法陣。それに振った刃が衝撃となって飛んでいく魔法陣が組み込まれていて、対して鉄の剣には永遠に変わることが無くなる魔法陣が組み込まれているそうだ。
どの魔法陣も褒め称えていて、特に永遠に変わらなくなる魔法陣をものすごく評価していた。
「んで、結局、どっちが本物の勇者の剣なんだよ!?」
アンクス様がイライラした口調でウルセブ様に食い掛る。ウルセブ様の説明は長かったからね。仕方ない。ボクも途中からお腹が鳴って話に集中できなかったんだ。
そろそろお昼ご飯が食べたい。
「オマエは永遠に変わらない鉄の棒で戦いたいのか?」
ウルセブ様はアンクス様に豪華な剣を抜き身のまま突き出す。
鉄の剣は傷も多く刃こぼれまでしていた。ウルセブ様が鉄の棒と断言するくらい切れ味は無いだろう。永遠に変わらないとは、いくら手入れをしても刃を研いでも切れ味が変わらない事を意味していた。
やっぱり、勇者の剣は豪華な剣という事になりそうだ。
------------------------------
次回:戦いの『狼煙』




