焚火
第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。
--焚火--
あらすじ:村は昔の勇者様によって作られた。
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カプリオの話は取り留めなくて、何かを見るたびに話題が変わった。家を見れば誰それが住んでいたと言うし、チロルを見ればどういった料理がみんなに喜ばれていたかを話していた。
色々な話は飛び出すけど、肝心の2本の勇者の剣の話題はあまりなかった。勇者様がこの村を作ったという話くらいしか勇者様の話は無かった。役に立つのだろうか。
(面倒だし、アンクスに選ばせれば良いんじゃないか。)
ジルはカプリオに聞かれないように未だ『小さな内緒話』で話して来る。そんなに気にしなくても良いんじゃないかな。悪い人には見えないし。人じゃ無いけど。
(う~ん。せっかくだから知りたいんだけどね。)
2本の勇者の剣があるからボクが遺跡まで来ることになったんだ。アンクス様達がココまで来た時に問い詰められても困る。それに、ボクも勇者の剣が2本ある理由を知りたい。どっちが本物の剣なのか。
『失せ物問い』の妖精はどちらかを示しているんだから、両方ともニセモノだったなんて事は無いよね。
(アンクスなら豪華な方の剣を選ぶんじゃないか?どう見ても鉄の剣は凄そうに見えないぜ。)
(けど、タダの鉄の剣を勇者の剣と言うのかな?)
どう見ても、豪華な剣の方が勇者の剣だと思うけど、あからさまに普通の鉄の剣を勇者の剣と呼ぶのだろうか。何か特別な魔法でもかかっているのかもしれない。
勇者の剣と愚者の剣と言う名前も気になるし。
「お~い!!畑!畑!キミはゴハンを食べるんだろう?これなんか美味しいよ!!」
カプリオの呼び声にジルとの会話を中断して、ボクは適当に相槌を打ちながら今日の御飯になりそうな食材を畑から頂戴することにした。
お腹もすいたし、アンクス様が来るまでに考えれば良いよね。
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「これ、これ、オロナイモ!これなんか王都では見ないだろう?美味しいよ。」
「ん、これだけ有れば今日食べる分には困らないよ。」
カプリオに壺に一杯になった食材を見せる。誰にも収穫されない畑には色々な種類の野菜や実が生っていて、すぐにいっぱいになった。お昼ご飯だけじゃ無くて、夕食に明日の朝食の分まで有るだろう。
「滅多に食べられないんだから、食べて行ってみてよ。」
カプリオはのっぺりとした白面から伸ばした長い舌で見た事もない葉を指し示す。
「初めて見る食材の調理の仕方なんて分からないよ。」
料理なんてほとんどした事は無いんだ。小さなころは母が作ってくれていたし、街に来てからは外食ばかりしていた。食堂で占いのお客さんを待つ方が効率が良いと占いの師匠から教わったんだ。
道端で通り過ぎる人を待つより酔っぱらいを相手にした方が儲かるってね。お店の人に許可を取ったり、食事をしている間だけって制限もあるけど。酒場の余興として占いをしてくれる人も居るからね。
「だいじょうぶ。じょぶ、じょぶ。焼けば食べれる。穴の中に埋めて蒸しても美味しい。」
カプリオは自信満々に美味しいを連呼する。綿毛のような体に白面のような顔は、どう見ても魔道具の魔獣だから食べた事は無いと思うんだけど。さっきからキグリさんが美味しいと言っていたとか、勇者様が美味しいと言っていたとか村の人が美味しいと言っていたとか聞いた話ばかりだったし。
けど、蒸し料理か…。木に刺して焼くか、壺に入れて煮るかしか選択肢の無いボクの料理に新しい調理法が増えるのは嬉しいかも。
「葉を摘めば良いの?」
「ちがう、ちがう。根っこ。根っこが美味しいの。茎を持って引っ張って!」
「んと、こうかな。よいしょっと。」
硬く締まった畑の土から引っこ抜くと小粒だけど鈴なりに生ったおイモが姿を現わす。これだけでお腹がいっぱいになりそうだ。
「あはは。チッこいのがいっぱいだ。」
「こんなに小さくて、食べれるの?」
土の付いたままのおイモをカプリオに見せる。ボクが食べた事のあるおイモはもっと大きかったと思う。
「大丈夫じゃないかな?コリスなんて小さい方を好んで食べてたしぃ。」
売り物にならない小さいおイモを優先的に食べる。農民さんの苦労のひとつであって、コリスさんが好きで食べていたとは限らないと思うのだけど。けど、食べられるって事は分かった。
「それじゃ、そろそろご飯の支度をしよう。カプリオ!蒸し料理の仕方を教えてよ。」
「大きな葉っぱに包んで土の中に埋めたら、上で焚火をすれば良いんだよ。」
焚火が消えるころには蒸しあがっているらしい。焚火の上でスープも作れるし一石二鳥だ。焚火に使う木材だって、そこら辺の家のドアや椅子を燃やせば良いしね。
昨日泊まった青い屋根の集会所の前で焚火をすることにした。畑の近くに小川も流れていたし丁度良い。
穴を掘って浄化の魔法で綺麗にしたおイモを入れると、大きめの石を組んで壺を乗せられるように竈を組む。鍋用に森で作った物より苦労したけど何とか形にする事には成功した。
鍋に畑で摘んだ野菜を入れて水の魔法と塩の魔法をかける。木切れを集めて火の魔法を使う。カプリオの言う事には村の中にいれば安全みたいだ。結界は空を覆うように作られていて、空飛ぶ魔獣も入って来る事は無い。
魔力の残りを気にしなくて良いみたいだから、せっかく買った魔道具だけど使わなくても良いかな。
蒸しイモとスープのご飯ができればドンヤキのデザートまである。夕飯にはチロルの卵をスープに溶かしても美味しいだろう。
「オロナイモとドンヤキをスライスして、挟んで食べても美味しいよ。チロルのお肉を同じように蒸しても良いし、ドンヤキと合わせると柔らかくなるよ。」
カプリオの言葉にお腹がグゥっと鳴る。明日のメニューまで考えられる。カプリオが居れば他にも美味しいご飯が作れるかもしれない。
(オレだって料理の仕方くらい知っているぞ!教えてやるから作ってみろ。)
カプリオの言葉に対抗するかのようにジルが言う。そう言えば、ジルと一緒に作った料理って野草のスープだけかもしれない。森の中じゃ他に作り様も無かったからね。今度はジルにも聞いてみよう。でも、今日は蒸しイモがあるから。
(ああ、うん。次の時は頼むよ。)
ちょっと生返事で返してしまった。
(あっ!信じてないな!!)
(いや、信じているよ。行商をしていた時に色々食べた話を聞いたからベツロウ草やアシタギの芽を食べれたんじゃないか。今度はジルに頼むよ。)
森で初めて食べた野草を思い出す。ジルとの思い出の味だ。
(絶対に美味いって言わせてやるからな!)
(あはは、よろしく頼むよ。)
(絶対だ!!っと、それはそうと、火がある内に狼煙を上げようぜ。フルソの生木をくべた方が煙が出やすいぞ。)
もう一度、木に魔法で火を点けても良いのだけど、火の点いた焚き木があれば新しい焚火を作る手間が減る。魔法の火より早く火が大きくなるからね。早めにアンクス様達に村の位置を伝える事ができれば、ボクも早く王都に戻ることができるんだ。
今度は壺を乗せる必要も無いから、竈も火が飛び散らないように簡単な石組だけで良いや。
危険な魔王の森なんて、さっさと逃げ出してしまいたい。
早く戻って、平和な書類整理の仕事に戻りたい。
王宮の食堂のご飯も恋しい。
スープが出来上がるまで、ボクは、もう一仕事することにした。
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次回:勇者の剣の『鑑定』




