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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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昔話

第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。

--昔話--


あらすじ:勇者の剣は2本あった。

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「勇者の剣と愚者の剣。さあ、どっちが勇者の剣だと思う?」


カプリオの白いのっぺりとした顔が嗤ったように思えたので見返してしまったのだけど、白面のような顔はやっぱり、のっぺりとしたままだった。


(どう思う?)


(どうって言われてもなぁ。まったく分からねぇよ。)


2本ある勇者の剣。カプリオによれば1本は勇者の剣で1本は愚者の剣だという事だけど、どう見ても豪華な宝飾が付いた剣の方が勇者の剣に見えるよね。


意見が聞きたくて『小さな内緒話』で聞いてみたけれど、ジルにも分からないみたいだし。


「あ、手に取ってみる?べ、別に罠なんて無いよ。」


カプリオの勧めで剣の刺さった壺を見ると、立てかけられているように見えた槍も箒も使い物にならないくらいボロボロになっているのが分かる。廃墟に有った鍋もフライパンも錆びていたんだから、槍だって箒だって錆びたり腐っていたりしていても不思議じゃない。


でも、2本の剣だけは錆びもせずにピカピカだった。


埃を払って宝飾の付いた剣を手に取ってみる。重たい。普段はショートソードしか使わないから、普通の剣を持つなんて久しぶりだ。こんなに重たかったっけ。それとも、あちこちに付けられている宝石や飾りが重たいのだろうか。


鞘にも魔石が付いていて何かしらの魔法がかけられているのが分かる。鍔から柄頭までも装飾された剣を抜くと、シャランと言う音と共に、薄刃に魔法陣を宿した刀身が現れた。よく切れそうに鋭く輝やき、鏡のように磨かれている。


「勇者様はこの剣を使って戦ったの?」


剣を使えば当然、傷がつく。硬い鎧や盾、剣と交わったら刃こぼれだってする。けど、宝飾の付いた剣には使われたような痕跡なんて見当たらない。


「ん、ああ魔王を倒したのはその剣だよ。」


カプリオが事も無げに言う。


「ええ!?じゃぁ。この剣が勇者の剣で良いんじゃない?」


魔王を倒した剣が勇者の剣で良いんじゃないかな。刀身を天井の棒の光に透かして見てもけど髪の毛1本の傷さえなかった。


「どうかなぁ~。」


カプリオは真っ赤な長い舌を出す。のっぺりした白面が、お道化(どけ)ているかのように見える。


宝飾が付いた剣を壺に戻し、もう1本の剣も見てみる事にした。鉄の剣を手に取って無骨な鞘から抜くと、刃幅が広くずっしりと重たい。実戦向けに頑丈に作られた剣なのだろう。


宝飾の付いた剣は鋭く数合剣を合わせれば刃こぼれや当たり所が悪ければ折れてしまうかもしれない。でも、鉄の剣は切れ味は悪くても絶対に折れたりしない、そう信頼できそうな頼もしさがある。


鍋やフライパンは錆びて使えなくなっているというのに、錆の無い鈍色(にびいろ)の刀身には百戦錬磨の傷がありありと残っている。


「この剣にも魔法がかかっているの?」


「うん。魔道具になっているよ。ご主人様のお爺さんが魔道具に変えたんだ。」


「ご主人様って誰?」


「キグリ様。って言っても分からないよね。よね。無名だから。え~っと、その剣を使っていた勇者の仲間の賢者の孫。だね。」


勇者様の仲間の賢者様の孫のお爺さん…。


「えっと、つまり賢者様が魔法をかけたの?」


「魔法…と言うか魔道具にしたんだよ。魔法をかけるのとは、ちょっと違う。柄頭に魔石が埋め込まれているだろ。柄の中に魔法陣を埋め込んだんだってさ。」


剣をひっくり返してお尻を見ると、なるほど魔石が嵌められるようになっている。見た目は普通の頑丈な剣だけど、何かしらの魔法剣になっているらしい。


「でさ、どっちが勇者の剣なの?」


「さあ?」


「答えを知っているの?」


「知らない。」


沈黙がボクを支配する。いや、ちょっと叩きたいと思っても仕方ないよね。だって散々悩んだんだよ。


「知らないって…」


「どっちだって構わないだろ。お望みの勇者の剣は手に入ったんだ。2本とも持って行って良いから、少しボクの話し相手になってくれよ。キグリ様も居なくなってしまって、誰かと話すなんて久しぶりなんだ。良いだろ?」


カプリオは不思議な教会の地下にずっと独りで居たらしい。ボクはジルを見つめると彼のお喋りに付き合う事にした。ジルも話す相手を欲しがっていた。だから彼の気持ちが良く分かったんだ。ジルも本当に喋るのが好きだからね。


それに彼の話の中に本物の勇者の剣のヒントが有るかもしれない。



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カプリオとのお喋りの場は廃墟になった村に移すことにした。


ずっと地下にいるのも嫌だったし、ボクが落ちた穴は支えていた木の柱が腐って崩れたからだった。また天井が落ちるかもしれない危険な場所に長居はしたくないよね。


「あっあ、チロルの穴が開いたから結界が綻びていたんだね。」


カプリオの居た地下室へは教会からの入り口と、ボク達が泊った集会所に抜け道があった。


地面に穴を掘る習性のあるチロルによって脇道が作られ、集会所に続く抜け道がチロル達の巣になっていた。そこから風が入ってきて梁が腐ってしまっていたらしい。チロルの開ける穴なんて小さいのに、なんとも気が長い話だ。


チロルの巣になった地下道に行くのは怖いから教会の隠し扉から地上に出たのだけど、地下室はもしもの時に避難するための場所だったそうで、出入口は巧妙に隠されていた。石の壁が動いてドアになるなんて見た事も無いよ。


カプリオは長いこと地下に居たらしく、荒れ果てた村を見ては変わる前の村と比較をしては騒いで駆け回る。


「あっちは、グリプスの家で、こっちはエッジ一家が住んでいたんだ。」


「ちょ、ちょっと、待ってよ。」


太陽の下に出てきたカプリオは汚れが目立っていたから浄化の魔法をかけてあげる。


「お~お。良いね。真っ白だ!」


埃や虫の巣にまみれた彼の綿のような体は真っ白になり、大きなモコモコの体で細くて短い手足をバタバタと振り回して喜んでいた。いちいち声に出して喜ぶ姿は本当に嬉しそうだ。走り回っては色々とお喋りをする。


太陽で白く輝く体毛に包まれてはいるけれど、ウルセブ様が作ったアラスカと同じく魔道具の魔獣らしい。アラスカは喋らなかったけど撫でてあげれば目を細めて喜んでくれた。


彼は元々、賢者様の孫のキグリさんの為に作られた人形だったそうだ。賢者様がキグリさんの機嫌を取るために動くように魔道具となり、そして、大きく成長したキグリさんを助けられるように改造して今のサイズになったという事だ。ずっとキグリさんと一緒に居たんだって。


でも、キグリさんはすでに亡くなっていて、ずっとチロルしか話す相手が居なくて退屈だったそうだ。チロルの言葉は彼にも分からないみたいだけど。彼はジルよりも良く喋った。ボクが一言喋る間に彼は百の言葉を紡ぐ。ボクの返事を待たないで一方的に話すんだ。


ボクとジルは『小さな内緒話』で小さくため息を吐く。



そして、彼は語った。


この村が、ここに有るワケを。


古の勇者様は魔王を退治した後に魔族の子供を拾ったらしい。なぜ拾ったのか分からなかったけど、その子はすくすく育つことができなかった。だって魔族の子供だよ。周りの人たちだって怖いに決まっている。


街から追い出された勇者様は、勇者の力を失ってしまった。


勇者様の力は、皆に支持される事で初めて発揮される。アンクス様だって皆の支持を集めるためにパレードをやって力を溜めていたんだからね。魔族の子供を拾って育てた勇者様は街を追われ、その頃は国の端っこだったこの場所に住み着いた。魔王の森との境目に。


それから時は流れ、この村には人間の街からハグレた人や、魔族の街からハグレた人が集まるようになったらしい。キグリさんもその1人だそうだ。


「ご主人様は周りの期待に応える事に一生懸命だったけど賢者にはなれなかった。そんな時に勇者様の擁護(ようご)をしようとして人間の街から逃げ出したのさ。」


そして、キグリさんは人間と魔族の架け橋となれるように村を作ることに決めたのだそうだ。


彼は楽しそうに喋るけど話は全く理解ができない。



魔族って怖いんだよね?



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次回:『焚火』でごはん。




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