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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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青い屋根の家

第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。

--青い屋根の家--


あらすじ:雨が降って来た。

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雨に打たれないように扉の壊れた大きな青い屋根の家に駆けこんだ。ぽつぽつと降り始めた雨はすぐに大きくなって真っ赤に染めていた空を星の見えない黒い雲で覆っていく。当然、家の中もすぐに真っ暗になってしまった。


(そこに扉の残骸が有ったと思うんだが。)


少し乱れた息を整えて指先ほどの魔法の火を(とも)すと、真っ暗だった室内を少しだけ見る事ができる。入り口の扉は腐り落ち、板の部分がほとんどなくなっていて枠だけになっていたけれど、今のボクには丁度良い。


扉の枠を床に叩きつけるとボスッと言う音と共に1本の棒に切り分ける。ちょっと長いかな。木の中身が腐食してしまっているのだろう。スカスカに軽くなった木の棒に魔法の火を近づけると簡単に燃え移った。


(中身がスカスカだね。簡単に火が点いちゃったよ。)


(その分、燃え尽きるのも早いから気を付けろよ。)


(家の中を探検するくらい燃えていれば良いんだけどね。)


(先に焚き木の用意をしておいた方が良いんじゃないか?雨にも濡れたんだし温まった方が良い。)


(マントを着ていたし、すぐに乾くよ。それより魔獣が住み着いていないか心配だよ。)


木の棒が燃え尽きて真っ暗になってしまう前に次の明かりを用意しておいても良いかもしれない。でも、ここは魔獣のウロウロしている魔王の森のすぐ隣だ。いくら結界があるとはいえ用心しておくに越した事は無い。


ジルを左手に、松明になったドア枠を右手に持って部屋の中を見回してみると、大きな部屋の床には瓦礫(がれき)や砂埃が溜まっている。雨に濡れたマントを脱いで乾かす事も考えたけど、万が一、結界を抜けて入り込んでいる魔獣がいたりして襲われたら大変だから、もうしばらく身に着けておくことにした。


水の魔法で水分を飛ばせば酷い事にはならないだろう。少しシワが寄るかもしれないけど。


カナンナさんに貰ったマントは魔獣の皮でできていて、しっかりしているから魔獣の爪から何回か守ってくれそうだ。噛まれたら穴が開くかも知れないけど試したいとも思わない。


瓦礫は昔、テーブルだったり椅子だったりしたものの残骸だろう。棚だったものから割れ落ちたコップやお皿の割れたモノも見える。数多く見える机はやっぱりここは村の集会所だったと思わせる。みんなで集まって相談をしたり、食事をしたりしていたのだろう。


ボク達が村に泊まった時のようにね。


(埃だらけの床に足跡が無いんだぜ。大丈夫じゃないか?)


(鳥型の魔獣だっているんだよ。)


鳥の魔獣に襲われたばかりだから足跡が無いからって安心できない。それに結界が空まで覆っているとも限らない。いつの時代の代物かもわからないんだ。


(まぁ、確認は大事だな。それより、使える物が残っていれば良いんだが。)


(いつから使われていないか判らないからね。難しいんじゃないかな。)


少なくとも100年前の調査では人が居なかったハズだ。雨の音が大きく響く部屋で摘まみ上げたお皿の破片の先が風雨にさらされて丸くなっている。


荷物をすべて魔獣の馬車に置いて来てしまったから何か使える物があると嬉しいんだけど。鍋くらい無いとスープも作れないんだよね。砦に戻るには魔王の森を抜けなきゃならないからアンクス様達がここに来るまで村から出れない。来てくれるのが明日なら嬉しいんだけど。


それまで酸っぱいドンヤキでガマンかもしれない。


村から離れないようにすれば魔獣の森で野草を取れるかもしれないし、村も荒れているから結界の中に何か生えているかも知れない。でも、鍋くらい欲しいよね。


割れたお皿の破片を投げ捨てて、部屋の中を見て回る。石でできた床は上に絨毯を敷いていたような跡が残っていて階段なんか踏板が落ちている。


松明の明かりでできる大きな影にもおびえながら家の中を回り、入り口に近い方から扉のある部屋を覗いてみたけど、中は足の踏み場もないくらい荒れていた。魔獣はいなかったけど使える物も無かった。


瓦礫で埋もれて開かない扉もあったけど、開かないなら魔獣も入って来れないから気にしなくて良いよね。


(次で1階は最後だぜ。)


(最後はキッチンじゃ無いかな。)


村の集会所の間取りを思い出しながら答える。大きな部屋に人が集まって食事をしていたなら、ちょうどキッチンに当たるんじゃないかな。これまで竈や水を使えるような場所が無かったしね。


(だろうな。布団とは言わねぇけど、鍋くらいあると嬉しいんだがな。)


ジルも同じことを思っていた事を嬉しく思いながら一番奥のアーチで縁取られた部屋に入ると、思った通りに竈が5つ並んでいた。その上には3つの鍋が置いてある。


(やった!鍋があったよ!)


鍋があれば野草のスープが作れるだろう。それにドンヤキのジャムもね。嬉しくなって急いで竈に近づいて絶望した。


持ち上げた鍋の底がことごとく腐って抜け落ちていたんだ。


真っ赤になった鉄の鍋は錆びて薄くなり、水を溜めるはずの底は丸々と無くなっていた。2つ目も、3つ目も。あきらめきれずに探し出したフライパンも銅の鍋も錆びて薄くなり、魔法で出した水の重さに耐えきれず底が抜けてしまった。


戸棚の棚板も斜めに傾いて、上に乗っていたお皿も壺も床にぶちまけられていた。大きな水瓶(みずがめ)もヒビが入って使えそうにないし、包丁やナイフも真っ赤になっているし、ここでも使えそうなものは何もない。


(残念だったな。相棒。)


(うう、マシなご飯が食べられると思ったのに。)


ウルセブ様の料理の手伝いをしている時にいくつか教えて貰っていたんだ。料理と研究が好きなウルセブ様は蘊蓄(うんちく)を機嫌よく教えてくれたからね。途中で口をはさむと不機嫌になるけど。だから、魔王の森で食べられる野草や、味付けに使える野草なんかも少し覚えていたんだ。


(なぁ、奥にもうひとつ部屋があるみたいだぜ。食糧庫か倉庫じゃねぇのか?)


キッチンの奥にはもうひとつ穴が開いてしまった扉が有った。間取りを考えると大きな部屋には繋がっていないんじゃないかな。集会所で作られる大人数の食事のための道具が入っているかも知れないし、収穫した物の一部を保存していたかもしれない。


食べれる物が残っているとは到底思えないけど、今までも真っ黒になった何かが割れた壺の中に残っている事はあったけど絶対に食べられないだろう。最後の望みを持って扉を開ける。


雨の音がさらに大きくなったキッチンで扉はギシギシと大きな音を立てる、


その時には忘れていたんだ。最初の目的を。


バサバサバサ!


「うわぁぁぁぁぁああ!!」


食糧庫の中に明かりを向けた途端、中から何かが飛び出してきた。



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次回:『食糧庫』の攻防



■『小説家になろう』様で登場人物の紹介を冒頭に挿入しました。

1話ズレてしまいましたが不便が有れば教えてください。エブリスタ様でのスター特典と内容は同じです。


■『エブリスタ』様のスター特典に『勇者ご一行の人物紹介と少し簡単な覚え方(ネタバレ有り)』を追加しました。☆1個でお読みいただけます。


そのうち統合して両サイトに上げるつもりです。

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