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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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木の上

第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。

--木の上--


あらすじ:魔獣の鳥にさらわれた。

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「わぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁああ!!!」


バサッ!バサササバササ!!


木の上を何度もバウンドして転げまわって、ボク達は1本の木の枝に引っかかって止まった。


いや、魔獣の鳥が高く飛んでいなかったから良かったけど、空中で魔獣の体がいきなり無くなったんだから落ちるに決まっているよね。鳥の飛ぶ速さが早くて川に石を投げて遊ぶ水きりのように木の上を体がポンポン跳ねて来たんだ。


「大丈夫か!?相棒!!」


ジルの悲鳴のような声が聞こえてくる。『小さな内緒話』を使う事を忘れるほど焦っているのだろう。ボクは木の枝に絡まった体から何とかジルに腕を伸ばして生きている事を伝えた。


何本かの木の上を転げまわったから体中のあちこちが痛い。体の調子を確かめる時間ももどかしく体中に治癒の魔法をかけた。ホントは痛い場所にだけ魔法をかければ良いんだけど、痛いのを我慢していられない。それくらい痛かった。


魔法をかけて、一息つくとそこはまだ木の上だった。


「良かったぜ、相棒。それにしてもアンクスのヤツ、いきなり雷鳴の剣を使うなんて酷いよな。」


魔獣の体が無くなった原因は雷が落ちたからだった。雷は魔獣の体を風と消し飛ばしてボクを掴んでいた足だけを残していた。つまり、アンクス様はジルの悲鳴を聞くなりすぐに雷鳴の剣を抜いて魔獣に雷を落としたのだろう。


女の子が(さら)われていると思って。


「ジルの悲鳴で焦ったんじゃないかな。可愛い悲鳴だったよ。」


空から落下する原因になった悲鳴に非難を込めて答えた。普段のジルからは想像もできない女の子っぽい可愛い悲鳴だったんだよね。ボクだって街中であの声を聴いたなら何もできなくても助けに駆け付けたかもしれない。


「あ、ああ、まぁ、こんな森の中でアイツ等とはぐれたらヒョーリじゃ生きていけないと思って必死だったんだ。アンクスは女ったらしで村ごとでナンパしていたからな。はっはっは。」


自分の悲鳴を可愛いと言われて照れたのかジルの口数が多くなっている。何でも、アンクス様は村で夜ごとに女の子の所に行っては畑を耕していたらしい。馬車で昼寝をして寝られないからってなんで夜に畑を耕していたんだろう。『耕す一振り』ならあっという間に畑なんて耕せるのに。


「そうなんだ…。」


あまり興味も無いので適当に聞き流してしまった。それよりももっと重大な事がある。鳥にさらわれてアンクス様達とはぐれてしまった。魔獣に見つかる前に合流しないとボク独りでは到底太刀打ちなんてできない。それに、だいぶ落ちたとはいえ、まだ木の上に居るんだ。とにかく木から降りなければならない。


「ああ、まぁ今はそれどころじゃないか。」


「うん。とりあえず降りないとね。」


ジルも木の葉で見えない地面を見ているのだろう。足元が見えるのも不安だと思うけど、足元が見えないのも不安しかない。これからどれだけ木を(くだ)って行かなければならないのだろう。


恐る恐る足元を覗き込んでみると枝の隙間に地面が見える。思ったより低いけど、木登り、いや、木を降りるなんて子供のころ以来だから独りで降りれる自信がない。上るより降りる方が難しいんだ。


足元を見ながら太い(みき)まで移動してマントを外す。


カナンナさんに貰ったマントは丈夫で、木の上を転げまわっても穴が開いていなかった事に安心して、ぐるぐる巻きにして首に巻き付ける。マントがひらひらしていると枝に引っ掛けてしまうかもしれないからね。


次にジルをどうしようか迷ったけど、ベルトの後ろに差すことにした。


「おいおい、オレを地面に落としてしまった方が良いんじゃないか?」


「途中で枝に引っかかるかもしれないだろ。足元を見ててよ。」


杖のように長いジルは手放してしまった方が枝に引っかかりにくくなって降りやすいかも知れないけど、魔王の森で離れ離れになってしまうのが嫌だった。心細いじゃない。


「ああ、そう言う事か。誘導は任せておけ!」


「頼んだよ。」


心強い返事を聞きながら、太い幹に抱きついて下の枝に足を伸ばす。


「もう少し右だ。そう、もうちょっと先。ああ、そこだ!」


思った通り、ボクの足元を見て指示をくれる。太い幹に抱きついて足元が見えないから記憶だけを頼りに闇雲に足を伸ばすより安心できる。どこから降りようか迷った時はジルを下の方の葉っぱの間に突き刺して下の方の枝を見てもらうんだ。


ゆっくりと、慎重に、枝を伝って木から降りる。


途中で枝に擬態した虫を(つか)んでしまって大騒ぎをしたけれど、何とか無事に降りる事ができた。木の枝とまったく見分けがつかないのに、いきなり動き出したんだよ。びっくりしてバランスを崩して落ちそうになってしまった。


「ふぅ。」


「おつかれさん。もう少し普段から体を動かしておかねぇとな。」


やっとの事で地面まで降りたけど、今度はアンクス様達と合流しなければならない。マントも鎧も服も大丈夫そうだけど、リュックは馬車に積んだままだから荷物が無いんだ。ご飯やそれを作る鍋も無いから夕飯までに合流しないとご飯抜きになってしまう。


「ぷはっ。どうしたらいいと思う?」


魔法の水を飲みながらジルに聞く。


「んぁ、これからか?森を歩いてアンクス達と合流するか、ここでアンクス達を待っているか。」


そうだよね、その2択になるよね。アンクス様がボク、あるいは攫われた女の子を探しに来る可能性がある。魔獣がうろついている森を歩くより、警戒して同じ場所にとどまった方が安全かも知れない。


「だが、オマエの『失せ物問い』が有ればアンクス達を探せるだろう?」


そう、闇雲に歩くなら時間がかかるけど、ボクの『失せ物問い』で魔獣の馬車のある場所を聞けばまっすぐに合流することができる。人を探しながら歩くアンクス様を待つと時間がかかってしまうだろう。


「魔獣がいなければ、ボク達が歩いて行った方が早いんだけどね。」


万が一、魔獣に会ってしまったら逃げる方法がない。手荷物のショートソード1本では心許ないよね。というか、確実に魔獣のご飯になってしまうだろう。


「まぁ、とりあえず聞いてから考えよぅぜ。魔獣の馬車はどこにある?」


ジルの問いに『失せ物問い』の妖精が囁く。


「ん、少し距離があるね。今日中に合流できないかもしれない。」


ご飯をはさんで歩かなきゃならない程度には遠そうだ。森の道は険しいし、まっすぐに歩けるとも限らない。少なくとも夜までに会えるとは思えない。魔獣の鳥はだいぶボクを運んでしまったようだ。


「じゃぁ、逆も聞いてみるぜ。『勇者の剣』はどこにある?」


再びのジルの質問に『失せ物問い』が囁く。


びっくりしたけど、ここで待つ以外に遺跡で待つのもひとつなのだと感心する。遺跡なら勇者の剣を探しにアンクス様達も必ず来るだろうし、どこにいるか分からない人間を森の木々の中から探すより確実な目印になる。


そして、アンクス様達と合流するよりはるか近くに遺跡は有った。


遺跡には滅んだ村が有ったはずだ。魔獣がうようよ居る森の中で野宿をするより、屋根と壁がある家で泊まる方が、ずっと良いに違いない。


夕ご飯を食べられればね。


今のボクはオヤツに食べようと思っていた干し肉くらいしか持っていないんだ。



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次回:静かな『遺跡の村』



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