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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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耕す一振り

--耕す一振り--


あらすじ:アンクス様の『破邪の千刃』で魔獣が殲滅された。

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「破邪の千刃!!!」


アンクス様が叫ぶと魔獣の(むくろ)の山に幾つもの刃が殺到する。躯は粉みじんに切り裂かれ跡も残らないくらいに姿を消してしまった。それは雷鳴の剣で魔獣の姿を風と消してしまったかのように。


ライダル様の言う事には、雷鳴の剣の方が遠くの魔獣も消せるのだそうだけど。それでも普通の兵士の剣で魔獣が居なかったかのように跡形もなく消せるのはすごいと思う。勇者に相応しい『ギフト』だよね。


だから雷鳴の剣で破邪の千刃を使ったらどうなるかライダル様に聞いてみたんだ。だって幾千もの刃がそれぞれ雷を出したなら、きっと魔獣の群れだって一瞬で消し去れるよね。


ライダル様から帰ってきた返事は暗かった。王様も雷鳴の剣でたくさんの雷が現れる事を期待していたそうだけど、雷鳴の剣から現れた雷は1本だったそうだ。それも、破邪の千刃のたくさんの剣が現れなかったんだからせっかくの剣が台無しだ。


だから、雷鳴の剣と破邪の千刃は相性が悪い。という事らしい。


「破邪の千刃!!!」


魔獣の躯はまだまだある。アンクス様は(かたき)のように次々と山を消し去って行く。


魔獣の群れが砦を襲ったのは真夜中だった。アンクス様が畑を荒らした魔獣に怒って破邪の千刃で蹴散らし始めてから大きく状況が変わり、砦の安全な場所から弓と石で倒していた兵士たちも外に出て戦い始めた。


いくらアンクス様が勇者だからって独りで戦えるわけじゃないみたいだね。まっすぐに突き進むアンクス様をライダル様をはじめとする兵士の人たちが守るように戦っていたんだ。


ちなみにモンドラ様とウルセブ様は門の方で続けて戦っていたから、勇者様一行の半分の力でも沢山の魔獣が手も足も出ないようになってしまうんだね。遺跡に行くのに強い人たちに守られているって思うだけで心強い。


夜明け前には沢山いた魔獣達も散り散りになって、後には死んだ魔獣の躯が残ってしまった。元気よく育っていた野菜たちが無残に荒らされた畑の上に。


「破邪の千刃!!!」


アンクス様は兵士の人たちが山にした躯に刃を振り続ける。


できれば、さっさと終わって、ひと眠りしたい。


いや、ボクは石を落としていただけだけど、真夜中に起こされてからずっと激しい戦いをしていたんだよね。いい加減に眠たいんだ。


だけど、一番多く魔獣を倒したアンクス様が畑を元に戻すためにずっと剣を振り続けているんだ。他の兵士の人たちだってアンクス様が破邪の千刃を振るう回数が減るように魔獣を1ヶ所に集めたり、魔獣に壊された砦や木の柵を直したりと働いている。


ボクだけ部屋に戻って寝るわけにはいかないよね。


(まぁ、オレは夜の退屈しのぎができるから良いけどな。)


眠ることが出来ないジルは楽しそうに話しかけてくる。柵を直すロープが不足している場所を教えてくれたり、ボクが手伝えるような兵士の人たちの手が足りないところを教えてくれるから、助かるんだけどね。


(ボクは1日中アラスカの手綱を握っていたんだよ。もう眠たいよ。)


他の人たちにバレないように欠伸(あくび)を噛みしめる。


アンクス様は馬車で寝ていたから元気かも知れないけど、ボクは1日中起きていたんだ。あまり操作が必要ではないとはいえ、普通の馬車の倍の速度が出せる魔獣の馬車だから、手綱を握っている間はずっと気を張っていなきゃならない。


どこから動物や人間が飛び出して来るか分かったものじゃ無いからね。


(なら、バレないようにコッソリ部屋に戻れば良いのさ。)


(後からバレたら怖いじゃない。)


ボクが居なくなってもアンクス様には気が付かれないような気がするけど、ライダル様には気が付かれると思う。仕事終わりに(ねぎら)いの言葉をかけに来てくれたりして。そしてボクが居ないことに気が付くんだ。


(戦力になりそうもないヒョーリを呼びに来たくらいだから、手の足りない今に抜けるのは難しいか。)


頼りにならない戦闘でも使われるんだから、普通に手伝える時に抜け出したりしたら文句を言われるに決まっている。いや、文句だけで済めばいいのだけど。


「よく気が付いて手伝ってくれるからありがたいよ。次はあっちの柱を支えるのを手伝ってくれないか。」


隣で作業していた兵士の人に言われて次の柱を支える。ジルが教えてくれるから仕事を探さなくても人手が足りないところは判るんだけど、他の人にはボクが自分で気が付いて手伝いに行っているように見えるんだろう。


まぁ、兵士の人も頑張っているんだ。


魔法の水で口を(うるお)しながら、もう少しだけ頑張ることにした。



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作業は黙々と続いていた。


最初は頑張っていた兵士の人たちも、みんなすごく疲れた顔をしてきている。だって朝日はしっかりと昇ったのに朝ごはんも食べずに砦や畑、それに柵を直す仕事をしているんだもの。


魔獣の夜襲を撃退して、そのまま休みもしないで働き詰めだ。疲れていたってしょうがない。


でも、もうすぐ終わりだよ、きっと。魔獣の躯の山はもうすぐ無くなるんだ。


「破邪の千刃!!!」


ほら、最後の1山がアンクス様の手によって消し去られた。そしてアンクス様も砦の方へ向かって行っている。終わったんだ。


ボクもやりかけの仕事を終えたら砦に戻ろうと思っていると、アンクス様がクワを持って砦から戻ってきたんだ。畑を耕す時に使うクワだよね。何に使うんだろう。


「耕す一振り!!!」


クワを持ったアンクス様がひときわ大きな声で叫ぶと、破邪の千刃と同じように、たくさんのクワが現れて一気に畑を耕した。きっとこれがアンクス様の『ギフト』の本当の使い方なのだろう。次から次へと畑を耕し続け、あっという間に全ての畑が耕された。


丁寧に(うね)まで作ってある。


今度こそ朝ごはんを食べて眠ることが出来る。そう思った時にアンクス様は腰に下げていた革袋に入っていた種を畑にまき始めた。



いや、ちょっとくらい休もうよ。もう、へとへとだよぉ~!!



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次回:いざ、『魔王の森』へ




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