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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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破邪の千刃

--破邪の千刃--


あらすじ:魔王の森の入り口にある砦に着いた。

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カンカンカンカン。


「夜襲だ!」


鳴り響く鐘の音と怒鳴り声でボクは起こされた。


アンクス様達と砦に着いたボク達は、ささやかな歓待を受けて眠りについていたんだ。いつ森の中から魔獣が襲ってくるかわからない状況で大騒ぎをして酔いつぶれるなんてできないからね。


その代わりライダル様が激しい訓練をしていたみたいだけど。お酒に酔えない状況で体力を使い果たすのは良いのだろうか?いや、ライダル様の事では無くて、付き合わされていた兵士の人たちの事だけどね。


ライダル様が長い木の棒を器用に扱って兵士たちをバッタバッタと倒していく姿はカッコが良かったんだけどね。


「ジル、どんな状況なの?」


そんな事より外の方の様子が気になる。自身も夜通し起きていて、なおかつ『小さな内緒話』で夜に起きている、つまり見張りの人たちの話声を聞いていただろうジルに今の状況を聞いてい見る事にした。


(ああ、魔獣の群れが現れたみたいだが、砦があるからすぐに危険な状況にはならないさ。)


周囲の慌ただしさとは打って変わって、ジルはのんびりとした声で答えた。

(門が破られたりしないの?)


太く立派な丸太でできた門だったから破られる事は無いと思うけど心配になる。門さえ無事ならば他に魔獣が入って来れるような場所は無さそうだし、砦が無事なら命の危険も無いよね


(あの丸太の門が破られるとしたら相当大きな魔獣だぜ。森に生えている木がなぎ倒されてねぇ限り大丈夫なんじゃねぇか。)


それを聞いて安心した。森の木々が倒されていないなら、木をまとめて作ってある門はもっと頑丈だろう。だから絶対に門の中にまで魔獣が入って来ることは無いんじゃないかな。そう思えたんだ。


砦が無事で命の危険がないなら、ボクなんかが部屋を出て行ってウロチョロしてたら足手まといになる。騒ぎが治まるまで部屋に籠っていよう。外の様子はジルが伝えてくれるしね。


そう決めて念のために皮の鎧を着て部屋の扉を押さえるようにベッドを移動していた。


「おい、ちょっと手伝え!」


いそいそと着替えていたボクの部屋の扉をぶち破って、ライダル様が呼びに来たんだ。



鍵がかかっていたハズなんだけど。



------------------------------



ライダル様は魔王の森が見える門の上にボクを連れてきた。門の上は通路になっていて沢山の兵士の人が忙しそうに走り回っているのに。ボクなんかが居て良いのだろうか。


アンクス様は雷鳴の剣を鳴らして魔獣を風に消しているし、ウルセブ様は持った杖から炎を出して燃やしている。そしてモンドラ様は木の杭を投げて魔獣を斃していた。モンドラ様はボクの椅子の脚を折るくらいの威力で投げる事ができるからね。勇者様一行は味方だと頼もしい。


「とにかく数を減らしたいんだ。弓ぐらいは使えるよな?」


「いえ。ボクが撃っても当たらないですよ。」


ライダル様に聞かれてボクは首を振る。父さんに教えられて一応は使ったことがあるけど、思った通りに的に当たった試しなんて無いから森に行っても使った事は無い。


「なんだよ。使えねぇな。弦を引っ張るだけだろ。当たらなくても良いんだよ。」


ライダル様はボクに弓と矢を投げて渡したと思ったら、自分も用意した弓を引いて魔獣に狙いをつけている。渡された弓は兵士の人たちも持っている汎用的なものだろう。装飾も何もないシンプルな弓だった。渡してきたって事はこれを撃てって事だよね。


恐る恐る弓を抱えて城壁の下を覗き込めば、城壁の下には数えきれないほどの魔獣が、かがり火に照らされて黒くうごめいていた。


「ひっ!」


思わず悲鳴が出そうになるのをぐっとこらえる。ジルがのんびりした声を出していたけど、外は大変な事になっていたようだ。


とにかく数を減らそうと、矢をつがえて弓を引いてみる。当たらなくても良いってライダルさまも言っていたもんね。撃ち方は父さんに教えて貰ったから大丈夫。だけど弓の弦は硬くて他の兵士の人たちの半分も引けなかった。


「引けてねぇじゃねぇか!もういい、そこに有る石を門に取り付いたヤツに向かって落としてろ!!」


ボクが父さんに習った時はもっと引けていたんだ。この弓は兵士用の強弓なんだろう。より遠くへ飛ばすことができるように弦を張りつめて作られているんだ。


ボクが引いて矢を無駄にするくらいなら、最初から撃たない方が良いよね。


ライダル様に言われた通りに、ボクは一抱えもある石を真下に落とすことにしよう。魔獣の頭を狙うけど、門に体当たりをしている魔獣の動きが速すぎでいつ落とせば良いのか全く分からない。


「さっさと落とせ!オマエが狙ったって当たるもんじゃねぇんだ!」


ライダル様がイライラしている。これ以上怒られたくないから適当にえいやっと投げ落とした。もちろん当たるはずもない。


「そうだ!どんど落とせ!期待はしねぇ!数が減らせれば儲けもんだと思え!!」


そうは言われても石にだって限りがあるし、ボクだって少しは活躍したい。がんばって狙いをつけて投げているとようやく魔獣の頭に当てる事ができた。やればできるもんだね。


ピィ~!!


ボクが石を落とす作業に没頭しようと思った時、笛の甲高い音が鳴り響いた。


「大変だ!裏の畑にも魔獣が出たぞ!!」


ボク達が森の方の魔獣を相手にしている間に、砦に来る時に通った畑の方に別の魔獣が回り込んできた、兵士の人が大きな声を上げる。


それを聞いたアンクス様は目の前の魔獣を放ってすぐに駆け出してしまった。


「おい!待てよ!」


ライダル様の静止も聞こえていない。アンクス様は元々農民だったって聞いたから畑の様子が気になったのかもしれない。


「仕方ねぇ、おい!行くぞ!!」


ライダル様はボクの首根っこを捕まえて畑の方に引っ張った。いやいやいや、ボクが行ってもどうにもならないんだから、ここで石を落としていれば良いんじゃないかな。


それとも何か有った時に守ってくれるために連れて行くのかな。そうだとすればライダル様の隣が一番安全かも知れない。ボクは考え直すとライダル様に着いて行く為に駆けだした。



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畑にも数多くの魔獣がいてせっかく育った野菜を踏みにじっていた。森の方に比べると少し少ない気がするけど、畑を囲んでいた木で作られた柵をへし折って何十匹もの魔獣が入っていた。


入ってきた魔獣は大きな鼻で畑を掘り返して野菜たちを片っ端からむさぼっている。


森の方の魔獣みたいに門を攻撃してこないのだから、このまま放って置いてもしばらくは野菜に夢中で襲っては来ないだろう。なら森の方で石を落としているよりも安全かも知れない。


「ちくしょう。せっかく作った野菜を!」


アンクス様は呟くと雷鳴の剣を手放して、近くにいた兵士の剣を無理やり奪った。


「あ、おい!早まるなよ!」


ライダル様が声をかけるよりも早く、アンクス様は砦の壁を飛び降りていく。


「破邪の千刃!!!」


畑に降りたアンクス様が大きな声で叫ぶと、手に持った剣と同じ刃が無数に表れた。畑一面を埋め尽くすような刃の群れは魔獣達の頭の上に整然と現れて切り裂いていく。


「すごい。」


アンクス様の『ギフト』なのだろう。雷鳴の剣で1匹ずつ消し炭にしていた時と違って、数多くの刃が一気に魔獣の群れを切り裂いて、後には血だるまになった魔獣が倒れている。


一気に数十もの魔獣を蹂躙できる力。


それをずっと使い続けて行けば魔王が率いる魔獣達を殲滅できる。兵士たちが砦の上から弓で戦うよりも効率的に。だから、その力を強めるために、より多くの魔獣を倒せるように、パレードをして食事を振舞っているんだ。


勇者様の一振りで魔獣を斃せる。


魔王をも斃せるんだ。


「ちっ、何が『破邪の千刃』だよ。『耕す一振り』じゃなかったのかよ。」


ライダル様の呟きによれば、アンクス様の『ギフト』の名前は『耕す一振り』と言うらしい。



ま、まぁ、名前を叫ばなくても『ギフト』は使えるからね。



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次回:戦いの後に、『耕す一振り』



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― 新着の感想 ―
[一言] 帰りは勇者パーティーに蔑ろにされそうなフラグが確実に立ってますね…
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