雷鳴の剣
第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。
--雷鳴の剣--
あらすじ:村での食事会で占いをすることになった。
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占いは大盛況のうちに終わった。と、思いたい。
恋占いは得意じゃないと言ったのだけど、それでも是非にと言われたのは娯楽の少ない村だからだろう。
村にだって占いを嗜んでいる人はいるハズだけどね。女の子は特に占いが好きだと思うし、近所のお婆ちゃんでも雰囲気がある人がやると、また別の説得力があるよね。
まぁ、恋占いだけじゃなくてボクの得意な失せ物探しもしたんだ。こちらはズバリ細かい場所まで答える事ができるものだから、ボクの答えを聞くたびに「おお~!」とか「なんで家の間取りまで知っているの!?」なんて声が聞こえて面白かった。
夜も更けてかがり火も消える頃に食事会はお開きになった。
一度にこんなに多くの人の占いをする、それも喜ばれながら、なんて初めてだったからボクは良い気分で割り当てられた部屋で寝る事ができたんだ。女の人だけじゃなく男の人まで集まって驚いてくれたて嬉しかったんだ。
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「おはよう。ジル。」
(おはよう。相棒。)
いつもの様にジルに挨拶をしてから寝ぼけた眼をこすって、やっといつもと違う部屋で寝ていた事を思い出した。村の集会所なんだけど、その2階には宿屋のように部屋がいくつかに仕切ってあってベッドも設えられていた。
村の人の話だと、たまに来る役人や兵士の人、それに教会の人が使うという事だった。昨日、僧侶モンドラ様が村長さんといっしょにいたのは、教会の仕事をするためだったのだろう。
村には駐在している僧侶様がいないらしく、簡易的なお葬式ができなかった死者の魂を慰めに行っていたらしい。
他にも、村を護る結界の確認とか神様にお祈りを捧げるとか、僧侶様も大変だね。
(そっか、旅に出たんだっけね。)
(まだ寝ぼけているのか?オマエが一番遅いぞ。)
いつもの様に魔法の水球に頭を突っ込んだら、さっさと着替える事にする。ボクが最後だと言っていたから、あんまり遅くなるとアンクス様に怒られそうだ。
王宮の寮に1つ残しておくのも何だからと寝間着も持ってきていたので、昨日はちゃんと着替えて寝ていたんだ。旅には邪魔になるから持ち歩かない方が身軽で良いし、どうせ野営や馬車の中で寝る事になったら寝間着になんて着替えてられないんだけどね。
(ライダルとウルセブは馬車の整備をしていて、モンドラは村のヤツの相談を受けているぞ。)
(アンクス様は?)
アンクス様が退屈をしていると怒られそうだ。一番怖いし。
(解からねぇ。朝には一度戻ってきていたが、今は『小さな内緒話』の範囲外に居るみたいだ。)
(夜はどこかに行ってたの?)
(たぶんな。昼間に馬車の中で寝ていたみたいだし、女の所にでも行っていたんじゃないか?)
アンクス様は魔獣の馬車が傾いてしまった時に「寝ていた。」と言っていたんだよね。ライダル様が「寝れなくなる。」って言っていたけど、本当に寝れなくなって外に出ていたらしい。
夜に行くところなんて有るのかな?酒場なんてなさそうだけど。
(それより、さっさとメシを食いに行かないと馬車の整備も終わってしまうぞ。)
ご飯抜きで連れて行かれたら困るので急がないとね。
(今度からはもう少し早めに起こしてくれないかな。)
(そうだな。今日は最初の日で疲れているかと思っていたんだが、大丈夫そうだし明日からはそうしてやるよ。何より揉め事は増やしたくないよな。)
1階の大広間で村長さんの奥さんに具沢山のスープと良い香りのするパンをご馳走になってから集会所の外に出ると、村の人たちはすでに畑の仕事をしていた。
土を耕したり種をまいたり、雑草を取ったりと一生懸命に働いているから、ボクは今までゆっくり寝ていたから少し恥ずかしくなる。やっぱり明日からはジルに早く起こしてもらった方が良さそうだ。
「おう、起きたか。もうすぐ出発するぞ。朝飯は食ったか?」
ライダル様に準備が出来ている事を告げていると、畑から村の人たち手を振ってくれる。たった一晩泊まっただけだけど、遠くから挨拶してもらうと仲良くなれた気がするよね。
「手伝えることはありますか?」
村の人に手を振り返しながらライダル様に聞いた。
「ああ、広間に皆の荷物があるから馬車の上に積んどいてくれ。できるよな?」
「ええ、昨日教わりましたから。」
さっそく昨日教わった馬車の上に荷物を括り付ける事が役に立ちそうだ。遺跡まで連れて行かれるとはいえ、できる事は手伝わないとね。
ウルセブ様がアラスカにエサのように魔石を与えているのを見ながら、荷物を括り付けると勇者様一行も出発の準備が終わったようだ。まぁ、ボク以外は準備ができていたみたいだったから集まるだけなんだけどね。
アンクス様達が集まる頃には村の人たちも仕事の手を止めて挨拶に来てくれた。遠くから手を振ってくれるだけじゃなくて、仕事の手を止めて、わざわざ見送りに来てくれたんだ。
「世話になった。『勇者の剣』が無事に見つかったら、帰りに寄るからまた頼むよ。」
「アンクス様達の無事を祈っています。」
アンクス様が村長さんに挨拶をして出発となると、ボクの周りにも人が寄ってきてくれたんだ。
「おう、昨日の占いありがとうな。おかげでずっと見つからなかった手ぬぐいが見つかってさ。うちのヤツと大喧嘩したんだよ。ありがとう。」
「うちもうちも!どこにしまったか解らなかったトレイが出てきたのよ。まさかあんな場所に置いておいたなんて思わなかったわ~!」
「え~私も無くしたハンカチが有ったのに。占ってもらえば良かった~!」
にわかにボクの周りに人が集まる。占いの正規のお金を払ってまでは探そうと思わない小さな無くし物はたくさんあって、村の人たちから大いに感謝されることになった。
だいたいの物は占いって探すより買った方が安くつくし、新しくていい物が手に入る事が多いんだ。食事会の余興くらいには丁度良いんだよね。図書館や資料室くらい探し物が多ければ占いで食べていけたんだろうけど。
こんなに感謝されるなら。たまに旅に出て1晩泊めてもらう代わりに村の人の探し物を占うのも良いのかも知れない。
「おうおう!もう出発するからな!最後に『雷鳴の剣』を見せてやろう!」
ワイワイガヤガヤと騒ぐ人たちの端からアンクス様の声が聞こえた。
アンクス様が立派な剣を抜くと、村の人たちがざわめく。集会所の前の広場に集まっていた人たちが遠くまで逃げていく。王都の広場で見た事があるけど、すごい威力だからね。巻き込まれたら大変だ。ボクも急いで馬車の影に入った。
勇者様が無造作に剣を振り下ろすと、大きな音が轟いてそこに生えていた樹に雷が落ちた。樹は切り裂かれ燃え上がり、次の瞬間には炭となって黒くなる。
一瞬の出来事の跡に優しい風が吹くと、炭になった樹はさらさらと風に乗って消えて行った。
「いつ見てもスゲェな。」
「あれでも相性が悪いって話だぜ。相性が良かったらどれだけの威力が有ったんだよ。」
「『勇者の剣』ってこれよりすごいのかよ。魔王軍も可哀そうにな。」
村の人たちが黒く残った切り株に集まってどよめく。
ほんとうに一瞬で、大きな木が無くなるんだから、ボクなんかが剣を受ければ無くなって消えてしまうだろう。
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ボク達はさいしょの村を出た。
騒然とした村は一転、勇者アンクス様を称える声に変わった。『勇者の剣』への期待が高まっていく村の人たちの歓声に見送られながら、ボクはアラスカの手綱を振るった。
そして村が小さくなってきた頃に、隣に座っていたライダル様がボクにボソッと言ったんだ。
「昨日はアンクスもサボっていたが、なるべく人前ではアイツに華を持たせてやってくれ。」
ライダル様はボクの顔を見ないように言って、そのまま魔獣の上に戻って行った。
そっか、アンクス様の人気を出させないと勇者の力が弱まっちゃうんだよね。
でも、どうやったら良いのだろう?
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