さいしょの村
第3章 遺跡になんて行きたくなかったんだ。
--さいしょの村--
あらすじ:魔獣の頭の上に戦士様を乗せて馬車は最初の村に着いた。
------------------------------
「なんと、雷鳴の剣より強い剣が有るんですか?」
「いや、雷鳴の剣も十分に強い剣なのですが、アンクスとは相性が悪かったんですよ。」
勇者様御一行と泊まる初めての村では、夕食会が催されていた。前触れもなく来たはずなのに、突然来たとは思えないほど大勢の人が集まって立派な夕食が用意されていたんだ。
(王宮から金が出ているみたいだからな。金を貰えてタダ飯食えるならオレだってとっておきの肉を用意するさ。)
食事を食べれないジルが少し拗ねたように言う。
宿屋が無い代わりに集会所で寝泊まりすると聞いた時には、もっと貧相な、急場しのぎで作られたような食事を想像していたのだけど、いつの間にか村の集会所には村人がたくさん集まって立派な夕食会になっていた。
(それでも、人が集まりすぎていない?)
(さぁね。街を出る時もパレードなんてしていたし、これも勇者に人気を集めるための1つのやり方なんじゃねぇか?)
勇者様の人気を集めて力を十分に発揮できるように行われたパレード。村では人気集めのためにお金を出して夕食会をしているのかもしれない。
村長さんと僧侶モンドラ様は夕食後も真面目な話をしているみたいだけど、その向こうでは先ほどまで子供たちにもみくちゃにされていた勇者アンクス様がぐったりとしている。
モンドラ様は村に着いてからも村長さんといっしょに教会に行って何かしていたようだったから、教会でのお仕事の話なんだろう。
(アンクス様って人気が有るんだね。)
食事が終わってお酒が入り始めたので、お腹が膨れたボクは部屋の隅っこでジルとお喋りしていた。初めて乗る魔獣の馬車で疲れていたし、勇者様の中にボクみたいな裏路地占いが混じっていても会話が弾まないだろうしね。
魔法使いウルセブ様は夕食が終わったらさっさと割り当てられた部屋に戻ってしまったけど、せっかく村の人たちが集まって歓待してくれているのだからボクまで席を外すわけにはいかないと思うんだ。
初めての村だから雰囲気だけでも味わってみたいとも思うし。街の酒場での他人同士のざわめきや王宮の寮の食堂のような仕事仲間の会話と違って、生活共同体となる村の喧騒は、ひどく懐かしい。ボクも村で生まれ育ったからね。
アンクス様も最初は綺麗な女の人に給仕されて大人たちと話をしていたのだけど、お酒が入ってだんだんと無礼講になると子供たちが群がられて冒険の話をせがまれたり、剣を見せて欲しいとねだられたりと大変そうだった。
強い人ってそれだけで人気があるよね。
ボクだって子供の頃には両親に勇者様のおとぎ話をせがんだし、本物の勇者様が居るのなら冒険の話を聞きたいと思っただろう。勇者様の使っている剣を触らせてもらえるなんて滅多にない経験だからね。
戦士ライダル様も似たような感じだ。まだ元気に子供たちの相手をしているけど。
(宿屋も無い村だから、のんびりするヤツも少ないのだろう。オレが旅をしていて宿の無い村に行った時ももっとゆっくりしていくように言われる事が有ったぜ。もっとささやかだったけどな。)
(商人のジルを?)
(ああ、よその街や村の様子を聞きたがる事が多いかな。)
村の変わり映えのない生活では楽しみが少ないから、他の街の面白い話や珍しい話は貴重で良くねだられたのだそうだ。ボクも小さなころは商人の話を楽しみにしていたものね。
でもそれ以上に貴重なのは近くの街の様子や、村人たちが作っている作物の状況。街に人が増えたり作っている物の需要が高まっていれば、多く持って行って高く売る事ができるだろう。売れ残りを作れば持って帰って来なきゃならないし、予定していた物も買えなかったりするからね。
商人たちの話を聞いて作るものや他の街へ売りに行くものを決めたり売りに行く先を変えたり、そして街で買ってくる物を考えているそうだ。旅の商人たちが持ち運んでいる量は少ないからね。
それなら商人に頼らなくても村で売りに行くだけで良いかと思うのだけど、街に行く人が固定されたり回数も減るし、売り買いするものが変わらなくなったり不足した物がでたりするから商人はありがたい存在なのだそうだ。
女の人や子供たちみたいな村から出れない人からすれば尚更だろう。
知らない商人だと偽の情報を掴ませられる事も有るので、よく来る商人は信頼されるし、そうじゃなくても複数の商人から情報を仕入れるようにしている村が多いらしい。
商人に騙されて以来、閉鎖的になってしまう村もあるみたいだけど。
(勇者一行だと出所もはっきりしているし、商売で来ているワケじゃねぇから変に騙す事が無いんだろうな。)
商人だと嘘の情報で村人達が一生懸命作った野菜を買いたたく人もいるらしい。
いつも売りに行く街で大量に余っている。だから反対側の遠くの街まで売りに行ってやるから安く売ってくれ。なんて言葉が買いたたく商人の常套句らしい。
(村人からしたら確認しようがないし、来ている商人を逃したら次はいつ来るか分からねぇしな。)
「アンタは凄腕の占い師なんだって?」
せっかく目立たないように部屋の隅っこに居たのに声をかけられてしまった。声をかけてきたのは子供が居そうな年齢の年上の女の人で、さっきまで台所から色々な料理を運んで来ていたから、きっと今まで奥で料理を作ってくれていたのだろう。
辺りではだいぶ出来上がっている人もいるし奥も手が空いてきたのかな。
「いえ、凄腕って程じゃ無いですよ。」
実際、ボクは街では売れない占い師だったし。たまたま王宮に行く事ができて、たまたまドゴ様が探し物を聞いてくれたから、勇者様といっしょに行く事になっただけだ。今回の旅だってオマケで付いて来ているようなものだからね。
「謙遜はしないでおくれよ。今回の旅はアンタの占いが発端だって聞いたよ。そんな凄腕占い師ならアタシも占っておくれよ。」
「あ~良いねぇ~!アタシも!!アタシも!!うちの旦那がさぁ~。」
「私の恋も占ってよ!」
奥からぞろぞろと女の人たちが出てきてボクの所に集まってきた。
そして、占いの言葉を聞いて今まで勇者様達の相手をしていた綺麗な女の人達も。
いや、ボクの占いって探し物以外は普通以下だから。
恋の占いなんて当たらないよ~!
------------------------------
次回:『雷鳴の剣』のデモンストレーション(予定)




