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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第3章:遺跡になんて行きたくなかったんだ。
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馬車の旅

--馬車の旅--


あらすじ:戦士様に馬車を操作するように言われた。

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「おお、上手い上手い!」


ボクの隣に座った戦士様がおだてて来るけど、特にボクが上手いわけじゃないと思う。魔法使い様が作った魔獣だから言う事を聞いてくれているんじゃないかな。


馬車は風のように走る。


「おだてないで下さいよ。戦士様。この魔獣ものすごく早くて上手くできているのか心配なんです。」


ジルが馬車の倍の速度で走ると言っていたけど、魔獣は馬車を引いるにも関わらず、何も引いていないかのように走る。実際、馬車の方にも仕掛けがあるらしく音もなくついてくるんだ。


目の前の光景が目まぐるしく変わってしまって遠くに見えた畑を気が付いたら通り過ぎている。道を通っている人が居たら()いてしまうかもしれないと思うと、怖くて前以外を見る事が出来ないんだ。


戦士様は魔獣が勝手に避けてくれるとは言っていたけど。


「アラスカだ。この魔獣の名前は。しばらくオマエの相棒にもなるんだから名前で呼んでやってくれ。」


返事をするかのようにアラスカと呼ばれた魔獣がブォォ~!と鳴く。アラスカは四本の足を持った魔獣で、表面の皮膚は赤黒い陶器のようで赤色の瞳は小さく縦に連続している2本の角を持っている。魔法使い様が作った人形のようなモノだと戦士様は教えてくれた。


「それに、オレにもライダルって名前が付いている。知らないのか?」


戦士様は意地悪そうに言う。有名な戦士様の名前を知らないわけじゃ無いけど、ボクみたいな街のすみっこに居たような人間が呼ぶなんて恐れ多い事だと思っていた。


「いえ、知ってはいましたけど。ボクなんかが名前を呼ばせてもらうなんて恐れ多くて。」


「なに、しばらくいっしょに旅をする仲だ。呼び捨てで構わないさ。」


「いえいえ、滅相もありません。ライダル様。」


「様も要らねぇのによ。そうだ、本当にオレの名前を知っていたかテストしてみよう。つっても、オレの名前はさっき言ってしまったからな。他のメンバーの名前を言ってもらおう。」


イタズラを思いついたかのようにライダル様が言う。


「勇者アンクス様に、魔法使いウルセブ様、それに僧侶モンドラ様ですよね。」


街の酒場で占い師のお客さんを待っていると、嫌でも酔っぱらった人の噂話が耳に入って来る。特に話題になっている魔王と戦う勇者様の一行の噂は酒場じゃなくても聞くことができた。何度も聞いた名前だし間違えるはずも無いよね。


「ん、正解だ。いや、本当に知っていたんだな。疑って悪かった。いや、オレの名前だけ知らなかったなんて事無いよな?」


「いや、ちゃんと知っていましたよ。王宮広場であの重たそうな斧を振り回している姿も見せてもらいました。あの斧で丸太20本分の大きな魔獣を真っ二つに切り裂いたって本当ですか?」


ボク達の後ろに掛けられている黒く光る大きな諸刃の斧をちらりと見る。


勇者様一行の凱旋パレードはボクも占い師の旗を持って見に行っていたんだ。場所代を払っていなかったから机を置くことはできなかったけど、人が集まるところの方が宣伝になるしね。


「お、嬉しいねぇ~!このメンバーの中じゃオレだけ王宮勤めだったから、雑用みたいな仕事ばっかりしている気がしていてな。派手な噂が流れてねぇんじゃないかって思っちまう。今回だってアイツ等はさっさと馬車の中に入ってしまったから仕方なくオレが馬車の面倒を見ているんだ。」


「そうだったんですか。」


「ああ、街の人の前で初めてのオマエに任せるわけにもいかねぇしな。」


「ボクもいきなりアラスカを扱えなんて言われたら困ってましたね。」


アラスカは魔獣なだけあってボクなんかよりも大きいんだから、ライダル様が居なかったら鞭を入れることさえ躊躇(ため)われてしまうだろう。操作する人が動物に舐められていると反抗して暴れる事もあるからね。


「まぁ、コイツが暴れる事なんてねぇから安心しろ。」


ボクの背中を思いっきりライダル様が叩く。力が有り余っているのか気軽に叩いているように見えて結構痛い。


「ところで、オマエって普通に喋れるんだな。あの時はどうしてアンクスの言葉に返事をしなかったんだ?」


あの時って「魔王の倒し方を教えろ」って言われた時の事だよね。たぶん。ボクが答えるよりも早く机を叩かれて、答えを知らなかったボクは緊張して声が出なくなってしまったんだ。


「あ、あの、勇者様に問い詰められた時には何が起こっているのか分からなくて、それに『魔王の倒し方』なんて知らないから、その、怒られないように何て答えて良いのか分からなくて…。」


尻つぼみになりながら答える。勇者様の顔が怖かったなんて言えないよね。ボクだって一応男だし。


「ああ、アイツもいきなり暴力振るってたんだったな。悪かった。アイツもちょっと追い詰められていて悪気は無かったんだ。」


そう言ってライダル様はその時の勇者様の状況を教えてくれた。


『勇者』と言うのは神様からもらう称号の一種らしい。『勇者』に誰が選ばれるのか良くは解らないけど、一定の戦果を上げてみんなから認められると『勇者』の称号が貰えるそうだ。『勇者』の称号をもらった人は『勇者』を称えてくれる人が多いほど力がみなぎって大きな力を得る事ができるらしい。


でも、大きな戦力になるはずの『雷鳴の剣』を使い始めた時から勇者様の戦果が落ちてしまったんだ。『ギフト』との相性が悪かった。期待されていた程の戦果を挙げられず、その噂は街にも広がってしまって、称えられるハズの勇者様は多くの人から落胆された。


称えられて初めて力を発揮できる『勇者』の称号はどんどん力を失っていく。


勇者様はどんどん弱くなっていく自分に焦りを感じて、イライラしていたのだとライダル様は言った。


周りのみんなの期待に応えようと必死だったそうだ。


まぁ、そんな事を言われてもボクには解らない。魔獣を(ちり)にできるような人に目の前で凄まれたら誰だって(おび)えるよね。


「まぁ、思うところもあるかもしれないが、この旅の間だけでもアイツの事を許してやって欲しい。」


「解りました。事情があったんですね。」


頭を下げるライダル様に嫌とも言えないし、遺跡から帰るまではいっしょに生活をしなきゃならない。嫌でも怖くても、どうにかするしか無いんだ。


すこし考え込んでしまったボクの目に馬車が見えた。行商人の馬車だ!


「ひっ」!


「あ、バカッ!急に手綱を引くんじゃねぇ!」


ゴツンッ!


行商人の馬車に慌ててアラスカの手綱を引くと、ライダル様からゲンコツをもらった。その間にもアラスカの引く馬車は斜めに傾き倒れそうになる。


ライダル様は慣れた手つきで手綱を引きながら、馬車の傾きと反対側に大きな体を投げ出して、馬車を元の道に戻っしてくれた。


目の前に見えていた行商人の馬車はいつの間にかボク達の後ろにあった。


本当にボクがこの馬車を操ることができるのだろうか?



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次回『草原』を駆け抜けて。



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