謁見の間
第2章 書類整理だけをしていたかったんだ。
--謁見の間--
あらすじ:ドゴ様に『勇者の剣』のありかを聞かれた。
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「『勇者の剣』のありかが解ったと言うのは真か?」
「は、この者の言う事によれば、『賢者の居ない遺跡』に有るとの事です。陛下。」
ドゴ様が頭を下げて返事をしている。いや、ボクが言った事だけど、どうしてボクはドゴ様の横で陛下の前に立っているんだ?
言うまでも無いと思うけど、陛下は陛下。王様だよね。ボクにはワケも解らずにドゴ様の隣でヘラっと愛想笑いを返す事しかできないんだけど、こういう時って返事をしても良いのかな?
図書館でのドゴ様の何気ない質問、多分答えられるとは思っていなかったんだろうけど、『勇者の剣』はどこにあるかと言う質問に答えたら、その日のお昼過ぎにドゴ様に連れられてここまでやってきてしまった。
謁見の間。
王様に会うための特別な部屋だ。一番奥の一段高い所に王様と王妃様が並んで座っていて、そこからまっすぐ真ん中に金糸をほどこした赤いじゅうたんが敷かれている。そして、絨毯にそって何人もの貴族が並んで立っているんだ。
それも、いつも図書館で会うような使いっ走りの若い貴族じゃ無くて、年を重ねた重鎮っぽい人ばかり。王様の前だから当たり前なのかな?
そして、赤いじゅうたんの上で王様と対面して膝をついているのは、ボクじゃなくって勇者様4人のご一行だった。
ボク?
ボクは重鎮みたいな貴族たちの列に並んでいるんだよ。ドゴ様の隣。正確に言うと、陛下の右隣のドゴ様の隣。判るかな?並みいる貴族の重鎮たちよりも陛下に近い場所に居るんだよ。
謁見が始まる前にドゴ様は宰相だからこの位置が当たり前だって言っていたけど、聞いてないよ!カナンナさんが宰相の家のご令嬢だなんて!!図書館にサボりに来ていた侍女が貴族のご令嬢だって言うだけでもびっくりしていたんだから。
そんなわけで、謁見をする人に陛下の力を示すための豪華な部屋で、陛下の隣の隣に立って勇者様ご一行を見下ろしているんだ。
「『賢者の居ない遺跡』だと?あそこは200年前の勇者の仲間であった賢者の孫が開いた場所だと聞いているのだが。」
「その通りでございます。かの勇者とは縁が薄いですし遺跡の調査は簡単にしか済ませていません。」
「まさか、そのような場所に有ったとは…。」
「遺跡の調査は、100年ほど前にされており、北の山の縁にそって村落が形成されていた跡が見つかっています。ですが、魔王の森に近いこともあり、その後の魔王軍の侵攻と共に森に飲み込まれています。」
その後もドゴ様は『賢者の居ない遺跡』の調査で判ったことを詳細に説明していた。
結局のところ、遺跡の調査をした時にはすでに誰もいなくて、どうして賢者の孫が魔王の森に近い場所に遺跡や村を作ったのか詳しい事はなにも解らず、王宮の支配から逃れるためだったのではないかと予想がされているだけだった。
そして、賢者の孫は賢者になれなかったから『賢者の居ない遺跡』と揶揄されるようになったと。
もちろん、なぜそんな場所に『勇者の剣』が有ったのかも不明のままだ。
「そうか、まぁ、オマエの『知識の白髭』の情報なのだから間違いはないのだろうが。」
王様が締めくくると、ドゴ様は白い髭を丁寧に撫でた。たぶん『知識の白髭』はドゴ様の『ギフト』なんだろう。
「つきましては、勇者殿のご一行に遺跡の探索、及び『勇者の剣』の回収をお願いしたいのですが。いかがでしょうか?」
「そうだな、今の勇者殿の持つ『雷鳴の剣』では相性が悪く本来の力を発揮できていないと、以前より問題ではあった。どうだ、やってくれるか?」
白髭を撫で終わったドゴ様の言葉を受けて、王様が勇者様に返答を促す。
『雷鳴の剣』はたぶん街の広場でやった勇者様のお披露目で見た綺麗な宝飾を付けた立派な剣の事だ。魔獣を黒焦げにして風にしてしまった恐ろしい剣だけど、あれでも勇者様の本来の力を発揮できていなかったらしい。
「この度は私のために貴重な情報をお与え下さいまして、感謝のしようがありません。この命に掛けましても必ずや『勇者の剣』を持ち帰って参ります。」
金縁に赤を基調とした鎧を着た勇者様が丁寧に謝辞を述べる。ボクと会った時の乱暴さは微塵も感じられない。勇者様の丁寧な謝辞で締めくくられて謁見が終わるかと思った時、僧侶様が声を上げた。
「恐れながら、陛下にお願いがあります。」
「なんだ、申して見よ。」
「先ほどの『勇者の剣』の情報源である彼は、街の裏路地で占い師をしていた者だと記憶しております。我々が彼の者に尋ねた時は、『何も知らない。』と申しておりました。」
「まことか?」
王様をはじめとする貴族の重鎮の人たちがボクを見つめた。
いやいやいや、まこともなにも本当の事だけど、今さらそんな事を持ち出して来てもボクには何も答えられない。偉そうな人たちから注目されて、女の子に詩を朗読するよりも緊張して、ボクの頭の中は真っ白になっていく。
「その子が街の占い師だったのは本当の事よ。」
静まり返った謁見の間に王妃様の凛とした声が響く。
助かった。緊張してボクには何も答える事ができなかったんだ。
「それで、彼が占い師だったからって、何が問題になるのかしら?」
続けて王妃様が僧侶様に尋ねた。
「問題は『何も知らない。』という点にあります。彼がどのようにして『勇者の剣』を見つけ出したのか存じませんが、私達が聞いた時には『何も知らない。』と言っていたのに、王様の前では『勇者の剣』のある場所が判るという彼の言う事が信用できません。」
「それは、アナタたちの問いが、『魔王の倒し方を教えろ。』という曖昧なものだったからよ。彼に質問する時はちゃんと探したい物を聞かないといけないのよ。」
あれ?ボクは王妃様に勇者様との一件を喋ったっけ?
「左様でございましたか、知らなかったとはいえ申し訳ありません。ですが、それを聞いて尚更お願いしたいと思います。我々が行く『賢者の居ない遺跡』に彼を同行させてください。」
いやいやいや、ボクを連れて行ったって何もできないよ。魔獣と戦う事なんてできないから、逃げ回って足手まといになるのが関の山だよ。考え直してくださいよ、僧侶様。
「理由は?」
「100年前の調査で見つからなかった『勇者の剣』を見つけてもらうためです。」
「ヒョーリに場所を聞くだけで済むことじゃない。同行までは許可できないわ。」
「同感ですね。彼は今、図書館では欠かせない存在になっています。資料を探す手間が省けるので報告書を作成する時間が削減されているのはもちろんの事、報告書の精度も確実に上がっています。彼を手放してはせっかく広がってきた図書館の利用を元に戻すことになってしまうでしょう。」
よかった。王妃様とドゴ様が反対してくれる。
「あら、あの子は私がお使いを頼もうと思っていましたのよ。図書館に閉じ込めておくなんてもったいないわ。」
いえいえ、お使いなんて話も聞いていないんだけど!
いつの間にか、謁見の間には険悪な空気が流れていた。
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次回:ボクの『争奪戦』




