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対話

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『対話』--


あらすじ:門番さんがかわいそうだった。

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「和平を結びたいと申すのか?」


問いかけた王様が座った玉座がある謁見の間には、たくさんの偉い人が集まっていた。目がくらみそうな豪華な部屋は広く天井も高くて、馬車よりも背の高い魔族でも余裕で立っていられる。


そう、畏まるボクの隣に堂々と立っている魔王でも。


門での騒ぎが少し大きくなり過ぎた頃、王宮からの使者がたくさんの兵士を連れてやってきた。魔王を王宮に招待するために。魔王よりも野次馬の人たちの対応に追われてしまった門番さんは安堵のため息を盛大に吐き、魔王を王都の中へと入れてくれた。


魔王は小さなコロアンちゃんを肩に担いだまま、大勢の街の人の集まる大通りをゆっくりと歩いた。コロアンちゃん魔王の髭を引っ張ったりした時はびっくりしたけれど、魔王は笑って許していたんだよね。


コロアンちゃんがいたから街の人たちも魔王を怖い魔族だと逃げ出したりしないで、見に来ることができたのかもしれない。さすがに話しかけに来るような勇気を持った人もいなかったけど。仇だと石を投げる人も居なくてホッとした。


「和平とは少し違うな。元からワシらにはこの国を攻めるつもりはない。謂れなき誤解を解いてお互いに平和に過ごそうというだけだ。」


「しかし、現在も魔王の森は我が国の領土を侵食しているのだぞ。」

「村も畑も呑まれてしまった!」

「一方的に侵略しておいて虫が良い話ではないか!」


落ち着いた魔王の言葉に偉い人の中のひとりが声を上げる。賛同するように周りの人たちが声をそろえる。


魔王が魔王の森や魔獣を操っているっておとぎ話がある。だから、魔王の森が有りえないくらい急激に広がって村や畑が飲み込まれれば、魔王の仕業だと疑われたんだ。


「それが誤解だ。ワシ等に森を操る術はない。」


「嘘だ!魔族が操ったのでなければ、たった数日で村が無くなるわけが無い!」


普通の森は少しずつ広がっていくもので、人間が薪や家具に使うために年に数本の木を切り倒していれば広がる事は無かった。だけど、魔王の森は急激に広がって村や畑を呑み込んでしまった。誰かが操っているようにしか見えないくらいに。


「魔脈を荒らした馬鹿がいるからだ。アイツ等を相手にするだけで精いっぱいで、ワシらに人間の国を襲う余裕など無かったわ。」


魔王がパチンと指を鳴らすと、魔王と王様の間に魔脈を荒らしたという悍ましい屍の民の姿らしい絵が現れた。魔族や魔獣の魂を切り離して体の小さくなった魔王だけど、『強すぎる共感する力』はまだまだ強くて、相手に幻覚を見せるくらいはできるのだそうだ。


「恐れながら、補足させていただきます。」


戦士ライダルが一歩前に出て魔族と屍の民との争いと、魔脈と魔王の森の関係を説明をしてくれた。事前に魔王から魔脈と魔王の森の関係を聞き出していて、簡潔だけど解りやすくなっていた。


「そして今回の魔脈の氾濫は、ここにいるヒョーリのお陰で終息を迎えた。誰かが再び魔脈を荒らさない限り、森も落ち着いくだろう。」


「おお!」

「これで魔王の森に悩まれずに済むのか。」

「勇者の力もあの者に移ったとか…。」


偉い人達がざわざわと騒ぎ、魔王が集めていた視線が一度にボクに突き刺さる。いやいやいや、ボクは何もしてないからね。自分でもここにいることが不思議なくらいだし、勇者の力がボクに移るなんて考えもしていなかったんだ。


「しかし、魔獣を暴れさせていたのはキサマではないか?!」

「そうだ、オレのオヤジも魔獣の餌食に!」

「オレの隊のヤツは全滅したんだ!」


森がこれ以上広がらないと知ると、今度は魔獣からの被害を訴えてきた。魔獣はあちこちにいるけれど、魔王の森から出てくる数が多くて、その向こうには魔王の城がある。


「アレは野生の魔獣だ。オマエは野生の獣が暴れたら、そこにいる王のせいにするのか?」


人間だって家畜を育てるしペットだって飼っている。育てている家畜やペットが被害をもたらしたら飼い主の責任かも知れないけれど、野生の動物が暴れるのは王様の責任じゃないという理屈らしい。


「魔族は魔獣を操れるのだろう?」

「そうだ、魔獣を連れているよな。」

「野生の魔獣だって操れるんじゃないのか?」


魔族は必ず魔獣を連れていて手足のように扱うから、人間を襲った魔獣も魔族が襲わせたに違いないと。


「世話もしない魔獣が言う事を聞いてくれるわけ無かろう?」


魔族が連れている対になる魔獣も世話をしなければ言う事を聞いかないことがあるらしい。魔族が魔獣の世話をするから、魔獣も魔族の手助けをしてくれるのであって、世話もしない魔獣が手助けをしてくれるなんて便利な力はないんだって。


「世話さえすれば操れるのだな?」

「ほらみろ。やはりボロが出た。」

「息子の仇はコイツだったんだ!」


「恐れながら、魔族が連れているのは『対の魔獣』と呼ばれていまして、野生の魔獣とは少し違う生き物らしいです。」


ともすれば言い争いになりそうな中、戦士ライダルが『魔脈』の時と同じように事前に聞いていた魔族が連れている対の魔獣についても説明してくれた。アンクスのお世話もしていたライダルは意外と苦労が絶えないのかもしれない。


「『猛獣使い』のような『ギフト』を使っているのではないのか?」


人間が神様から『ギフト』貰っているなら、魔族も同じように『ギフト』を貰っていると考える人もいたんだね。勇者だったアンクスも同じように考えていたから、魔王の『ギフト』を受け継ぎそうな白い姫様にまで手をかけていたんだ。


「我らの神はそこまで甘やかしてはくれぬ。」


だけど、魔族には魔族の神様がいるみたいで、その神様は『ギフト』をくれないらしい。その代わり強い体と相棒になる対の魔獣がいるから不満も無いみたいだけど。


「俄かには信じられん。」

「ならば、我々の努力はいったい…。」

「勇者とは何だったのだ…?」


パレードをしたり、魔族の悪評を広めたりして、少しずつ勇者の力を強くしていた。アンクスの力に疑問を持たれたりした時も巻き込んだりと知恵を絞っていた。


「隣同士とは言え深い森で阻まれていては、お互いの理解が浅いのは仕方なかろう。今回のワシはその誤解を解くことと、人間の街を攻め込むつもりはないことを言いに来ただけだ。ヒョーリのためにな。」


魔王が王都まで来たのはボクの為だ。


勇者に祈られる憎しみの声が聞こえないようにするため。


最初に提案された時はびっくりしたけれど、人間と魔族が争わなくなれば魔王を倒すために勇者に祈る時間も減と言われれば納得できる気がした。


祈りを全部聞こえなくすることは難しいだろうけど、魔王への恨みの言葉が減るだけでもきっと楽になるよね。できればその時間を使って、家族や友達の幸せを祈ってくれれば嬉しいかな。


勇者の耳に届く憎しみは魔王を倒して欲しいというような祈りの言葉が多い。だから、人間が魔王を恨まなくなれば、魔王が人間と仲良が良いようにすれば、恨みの言葉が減るのではないか。


「結論を急ぐ必要は無い。ワシはヒョーリに初めて娘を抱きしめさせてくれた恩を返すために来ただけだ。まあ、まいどまいど勇者とやらに命を狙われるのが面倒なのもあるがな。」


ざわざわと偉い人達が騒ぐ中、魔王はそう締めくくると白い姫様の肩に手を置いた。



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次回:にぎやかな『空き地』



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