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白い火花

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『白い火花』--


あらすじ:ヴァロアとアグドが戦士と魔法使いを止めた。

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勇者アンクスとボクの間で4人が戦っている。


戦士ライダルが奇声を上げて振り回す諸刃の斧を、ヴァロアはひらりひらりと躱している。魔法使いウルセブ様は雷鳴の剣を構えて、アグドはドラゴンナイフを構えてお互いの隙を見計らっている。二人とも瞳に魔力を集めていまにも沈黙が爆発しそうだ。


ボクの背後には不安そうな白い姫様がいるけれど、ヴァロアもアグドも目の前の相手が強すぎて、他を見ている余裕もない。いやいやいや、勇者アンクスの隣に立てる戦士と魔法使いと対峙できるだけでも凄いんだけどね。


「ちっ、吟遊詩人とツルガルの足手まといだろ?それくらい簡単に片付けろよ。」


勇者アンクスは苦戦する2人を見て不機嫌に悪態を吐いたけど、『勇者の剣』をだらりと下ろしたまま手助けに向かう様子はない。あくまでもボク達の後ろの土煙。魔王にだけ目を向けている。


「やめようよ。姫様も魔王も何も悪いことをしてないんだよ。」


カタカタと震える『愚者の剣』を向けたままボクは提案する。刃物を向けての交渉なんて対等では無いと思うけれど、切っ先を下げた瞬間にアンクスがボクの横を通り過ぎて魔王のいる土煙に向かいそうだったから。アンクスは剣を下げたままなのに、そう思わせる迫力がある。


「邪魔するな!オマエに勝ち目なんて無いぜ。」


アンクスが剣を構える事も無く足を一歩を踏み出した。


「来ないで!」


彼の足はそのまま二歩、三歩と進むけれど、ボクは剣を両手で握りしめたまま動く事ができなかった。


先手必勝と言うように、どんな戦いでも先制攻撃を仕掛けた方が勝ちやすい。後手に回って自分の思い通りにするなんて、なんてそれこそ本物の剣聖か相当の修行を積んだ人しかできない。


力でも技術でも剣の質でも上回っているアンクスを止めるには、ボクから仕掛けないと可能性が消える。だけど、どうしても剣を構えてもないアンクスに切りかかる事ができない。いや、アンクスが剣を構えもせずに歩き出した時から負けているのかもしれない。


ゆっくりと歩いているだけのアンクスが大きく見える。


(相棒。ネマルの魔晶石を使え。)


(でも、ヴァロアとアグドが…。)


赤いドラゴンのネマル様に貰った魔晶石に魔力を流すとドラゴンに威嚇された木になるような光が広がる。魔力を込めれば広い範囲にネマル様の威嚇の光が行き渡る。だけど、ボクの後ろにいる姫様は大丈夫だけど、前に出てしいるヴァロアとアグドの2人は光を浴びてしまう。


前にヴァロアがネマル様の赤い光を浴びてしまった時は、涙を流して嫌がった。ライダルの諸刃の斧を紙一重で避けている彼女には致命傷になりかねない。


(オレが伝える。)


ジルが『小さな内緒話』でボクの言葉を伝えれば、ヴァロアとアグドは心構えをする事ができる。赤い魔晶石を使うと知っていれば、心構えができて耐えられると魔族の将軍のセナは言っていた。それに、心構えができていないライダルの隙を突けるかも知れない。


(でも…。)


ジルはずっと自分の存在を隠したがっていた。それは、自分の存在を知っている人が増えると、色々な人達の会話を聞くという目的に不都合が出ると言っていた。だけど本当は、ヴァロアやアグドがボクの悪口を言う事も考えていたのかも知れない。


(時間が無い!急げ!)


(ネマル様の魔晶石を使うよ!)


(了解ッス。)


(え?え?どこから声が?)


ジルに急かされたている間にもアンクスは進んでいる。急いでボクはジルの言う通りにヴァロアとアグドに赤い魔晶石を使うことを伝えると、2つの返事が頭に聞こえる。


すでに勇者アンクスはひと蹴りして手を伸ばせば、剣が届いてしまう距離にいて時間が無い。紙一重で斧を避けているヴァロアと違って、アグドは見合って隙を探しているだけだから大丈夫だよね。


赤い魔晶石に魔力を流すボクと姫様を包む赤い膜が膨らむ。膜はパチンと弾けると、ドラゴンが叫ぶような轟音といっしょに赤い光が広がった。


アンクスの歩みが止まる。


ネマル様の赤い魔晶石の効果は勇者をも止める事ができてホッと胸を撫で下ろすと、ヴァロアはライダルの大きな体を盾にして光の影響を避けていた。心配したアグドも魔法を打つための2つの魔法陣を浮かべている。


(おい、ぼさっとしていないでアンクスを止めろ!)


アンクスの動きが止めっている今のうちなら、剣を避けて素手で押え込めるかもしれない。アンクスが近づいていて時間が無かったから打ち合わせができていなかったけれど、ジルは最初からそれが目的だったらしい。


(うん。)


やっとジルの作戦に理解が追い付いたボクが走り出そうとすると、目の前を光る白い筋が通った。


「これが盗賊たちを脅かして投降させたっていうドラゴンの魔法か?思ったよりも効かないな。」


平然と腕を降ろすアンクスが言い終わると同時にボクの前髪がはらりと落ちる。白い筋に見えたのはアンクスが振り上げた『勇者の剣』の軌跡だった。あまりにも早すぎてボクには見る事もできなかった。


ライダルは諸刃の斧を地面にたたきつけて威嚇の声を上げ、ウルセブ様が雷鳴の剣を振るって雷鳴を轟かせた。アンクス達は盗賊たちに話から推測して赤い魔晶石を警戒していたんだ。


「邪魔をするならぶった切る!!」


怒りの形相のアンクスは高く跳ぶと、上段から『勇者の剣』を叩きつけてきた。慌てて『愚者の剣』を交差するように引き上げるけど、風のように早いアンクスの振り下ろす剣に間に合いそうもない。


「わああぁぁあああ!」


ボクは死ぬんだ。


そう思った瞬間に『勇者の剣』と『愚者の剣』の間に緑の膜が張られた。


黒いドラゴンソンドシタ様に貰った緑の魔晶石の力だ。緑の膜は頑丈で大きな岩が落ちてきてもビクともしない。ボクの体を二つに分けようと、『勇者の剣』に体重をかけていたアンクスは緑の膜に遠くに弾き飛ばされて膝をつく。


「くっ!まだ変な力を持っているのか!?」


ボクはフルフルと首を振り、怯えてアンクスを見る。膝はついたけど怪我は無いようで、彼はすぐに立ち上がった。仮に怪我をさせられたとしても、膝をついた程度の小さな怪我なら治癒の魔法で治してしまうだろう。だけど、アンクスは考えを改めたらしい。ボクにとって悪い方向に。


「オマエのような雑魚にはもったいないが、オレの力を見せてやる!喰らえ!『破邪の連斬』!」


聞き覚えの無い言葉を叫びながらアンクスは『勇者の剣』が振り降ろした。振り下ろされた剣の軌跡が白刃になって飛んでくる。


一面に千の刃を広げて振り下ろす『破邪の千刃』とも、千の刃をひとつに集めて大きくした『破邪の一閃』とも違う。『破邪の連斬』は白刃を何本も何百本も同じ軌道で飛ばしてきた。


ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!


一点に白刃を受けるソンドシタ様の緑の膜はじりじりとへこんでいった。ボクは『愚者の剣』で身を庇いながら緑の魔晶石に魔力を注いで押し返そうと、ソンドシタ様に祈りをささげた。


緑の膜はたわんでへこんだけれど、がんばって耐えてくれた。ソンドシタ様の加護はアンクスの千の刃に負けなかったんだ。


「まだまだだ!!」


千の白刃を打ち終わってホッとする間も無くアンクスが飛んでいた。人とは思えないほど高く飛んで空に消えた彼は太陽を背負って剣を振り降ろしながら叫ぶ。


「破邪の光刃!!」


『勇者の剣』に白刃が集まって白く輝くとボク達を護ってくれている緑の膜が大きくへこむ。ドンという音が幾重にも重なってひとつに聞こえた。


ぱりん。


ソンドシタ様の緑の膜がアンクスの持つ白く光る剣に耐え切れずに割れた。悲鳴を上げる余裕さえ無いボクは、庇うように構えていた剣を必死に握りしめるしかできない。


太陽を背負ったアンクスの剣は止まらない。


『勇者の剣』と『愚者の剣』が白い火花を散らして交差した。



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次回:アンクスの『一振り』


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