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編みカゴの旅

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『編みカゴの旅』--


あらすじ:樹王が魔王の昔話を語った。

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魔王の肩の上は思いの他、快適だった。魔樹の人たちが作ってくれた編みカゴには長椅子が編みこまれていて座る事もできたし、大きな魔王の体だから見晴らしも良かった。ヴァロアが大きな声で歌ったのは耳元だったからか顔をしかめていたけれどね。


大きな体で進む一歩は、触手の歩みを一歩というのならだけど、大きくて勇者アンクスが使っていた森の木々の上を進む青い馬車よりも圧倒的に早い。


野宿も樹王が木の上に編みカゴを吊るしてくれたから、広い場所で眠る事ができて、たった2晩を魔王の森を過ごしただけで、カプリオの村が見えたんだ。


「あれが、お母様が育ったという村?」


人が住まなくなって長い時間が経ち、屋根は落ちて壁もボロボロの村。昔の賢者様が作った魔獣を退ける結界が張られていて、カプリオがボク達と旅立ってからは家畜として飼われるチロルの天国になっている。


「そうだ。勇者グルコマが作った村だ。」


昨晩の樹王の昔話が本当なら、勇者グルコマが作ったカプリオの村は白い姫様のお母さん、魔王の2番目の奥さんが育った村になる。人間に伝わるおとぎ話でもグルコマ様は魔族の娘を連れていたというし、間違いないよね。


「懐かしいなぁ、もう、戻らないかと思っていたよ。」


ボクが持つ『羽化の剣』を、あの時は『愚者の剣』と呼んでいたけれど、見届けると言って村を出たカプリオは、もう村に戻れないと覚悟を決めていたらしい。


「ワシも再びこの村に来るとは思っていなかった。」


魔王がこの村を訪れたのは、勇者グルコマが死ぬ間際だったそうだ。


最初は人間の街で疎まれた魔族の子供が気兼ねなく元気に暮らせるようにと森の奥に移り住んだグリコマ様の元に少しずつ人が集まって小さな村になったんだそうだ。その村では人間も魔族もいっしょに暮らしていた。


そう言われて村の様子を思い出して見ると、扉や窓が人間の物よりも少し大きくて魔族でも楽に入れるように作られていたような気もする。まあ、ほとんどの建物が壊れていてしっかりと残っている物は少なかったから仕方ないよね。


村には賢者様が張ったという結界があったけれど、魔王の触手が触れても拒みはしない。魔族の子供を育てていた村では魔族も結界にかからないんだね。セナ達もわけもなく村に入って来ていたんだもの。魔族を辞めたように見える魔王だとしてもそれは変わらないみたいだ。


「魔王の高さがあってもニシジオリは見えないね。」


カプリオの村は小高い丘の上にある。3階ほどの高さの魔王の肩からだと木にも邪魔されずに遠くまで見えて、一段と広がった森の端まで見えた。


「意外と森の端に近いッスね。あっちは『魔断の戦車』を通した道ッスかね。」


最初は魔王の森の入り口にあった苔生した岩の砦。今はもう森に呑まれてしまっているけれど、そこから4日でアンクスは村に来た。途中でボクが空飛ぶ魔物に攫われたし、他の魔獣とも戦ったりしていたから、時間がかかったはずだ。


赤い魔晶石の力を借りれば、広がった分と合わせても同じくらいで魔王の森を出られるんじゃないかな。自信ないけど。


「そんなことより、今は足元の村だろ。」


村の中央の広場にはケコケコと鳴くチロルが我が物顔で遊んでいたけれど、大きな体から伸びる触手が近づくと一目散に逃げて行った。魔王はしゃがむんで両手を使って編みカゴをそっと地面に置いた。


「ふ~体がバキバキっス。」


ヴァロアに続いてそれぞれが背を伸ばした。魔王は白い姫様の乗った編みカゴを大切に扱っていたし、肩の上は揺れも少なくて快適だったけど、同じ場所に5人と3匹の魔獣がいたからね。座ったままの3日で体は凝り固まっていた。


「ここが古い勇者が開いた村なのか。…ボロボロだな。」


声を漏らすアグドもそうだけど、ヴァロアも姫様もこの村に来るのは初めてだ。


『賢者の居ない遺跡』として有名な場所だけど、普通の村の残骸しか見えない。辛うじて残っていた青い屋根の家も教会のような建物も、ボクが前に来た時に勇者アンクスの放った『破邪の千刃』で崩れたんだよね。


「とりあえず寝る所を作るッス。」


姫様が参加した事で魔王は慎重に進んでいたらしく、予定より遅く村に到着した。本来ならすぐにでも『魔脈』を捕まえる作業をする予定だったけど、その大きな揺れは過ぎたばかりで3日は待たないと戻って来ない。


いやいいや、姫様が来なかったら、もっと早く移動していたって事だよね?ソンドシタ様の見えない空気のソファアを体験していたから怖くは無かったけれど、足元の編みカゴの隙間から2階以上の高さの地面が見えたからね。乱暴に扱われたら怖くて目も開けられなかったんじゃないかな。


「あの瓦礫の山の向こうが畑になっているから、そこに藁もあるよ。」


遠くに黒い雲が見える。


藁があればベッドに使えるし、簡単な屋根も葺ける。屋根の落ちた家ばかりなので、5人と3匹が雨をしのげるほど広い場所は無い。村にある建物で寝るにしても、編みカゴを利用するにしても、雨を気にしない場所があるとありがたいんだよね。


さすがに魔王が入れるほどの物は用意できないけど。


「私も行くわ。食べ物はどうする?」


白い姫様が率先して屋根藁を取りに行こうとしてくれる。姫様は料理が苦手だったけれど、ボクの作ったスープに塩を足して渡せば美味しそうに飲んでくれた。


樹王と魔王は食事を必要としなかったから一人分増えただけで済んだんだ。樹王は太陽と地面に含まれる魔力を吸っているらしく、魔王は大きな体の中にたくさんの栄養を持っているらしく、数日の間は食事を抜いても平気らしい。


まったく食べないわけじゃないけれど、ボクとカプリオで持てる食料だけじゃ絶対に足りないからね。調理する鍋だって小さいんだ。


「美味しそうな物があったら適当に採ってきて。ボクは火の用意をしておくよ。」


お日様に晒されて十分に乾燥した壊れた家の木材を集めれば焚き木には困らない。どこかの家の竈を使って時間をかけた煮込み料理だって作れるよね。


「よっし。オレがチロルを捕まえてやる。今夜は焼き鳥だ!」


朽ちた建物の側には大きな魔王を窺うようにたくさんのチロルがコケコケと鳴いて集まってくる。逃げ足は速くてやっぱりボクだけじゃチロルを捕まえるのは難しそうだけど、魔法が得意なアグドなら驚かせている隙に1羽くらい捕まえられそうだ。


姫様を追いこして、ギラギラと目を輝かせたアグドが走ると、チロルはバタバタと羽を羽ばたかせてチ逃げた。ボクがチロルの肉は当てにならないかなとアグドの背中を目で追いかけると、壊れた壁からひょっこり大きな影が飛び出してきた。


ぴぃ~!!


「マティちゃん!生きていたのか!」


黄色い羽根の大きな鳥。ボク達がツルガルから連れてきて、魔王の森に連れてきてしまったビス。まだ背中にはあの時のまま、ヴァロアとアグドの鞍を背負っている。はぐれてしまって心配していたけれど、魔獣から逃れて、ここまで逃げていたんだ。


マティちゃんの後ろから、もう1羽も顔を出す。


ボク達は嬉しくなって2羽の大きな鳥に抱きついた。



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次回:隠された『地下通路』



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