表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
319/343

魔王の過去

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『魔王の過去』--


あらすじ:魔王が魔族を辞めていた。

------------------------------



「あれは、どれくらい前だったか。」


水気を含んだ焚き木がパチパチと香る中、樹王と名乗る少年は静かに口を開いた。


------------------------------


むかし、昔。


魔王が生まれた時は、他の魔族達と同じように小さな赤子だった。


今のオレでも抱けるような小さな、な。


もちろん、その両親も普通の大きさだったぜ。代々一族をまとめる王の息子としての責任はあったが、その重責にしっかりと耐えてすくすくと育った。


成長しても今のように屋根を越えるほど背は無くて、大樹の幹のような太い指も、尖った大岩のような角も牙もなかった。王族の子として生まれた彼は普通の魔族と同ように1頭の黒い魔獣を対として、共感する相手もその1頭だけだった。


育った子は皆に認められ王になり、そして結婚した。


ああ、姫さんの母親じゃない。


前妻というヤツになるのか?オレ達には結婚という習慣がないから詳しくねえんだ。子供なんて皆で育てれば良いじゃねえか。まぁ、オレらが食いモンに困らねえから言えるのだと魔王なら目くじらを立てるだろうがな。


結婚相手は言わば政略結婚であったが、なに、小さな国の話だ。幼い頃からの知り合いで気心も知れていた。魔王は妃を大切に扱い、妃は魔王を立てて寄り添った。


皆に祝われ子を期待されている時、最初の爆発が起こった。


そうだ。魔樹の琥珀を取りに来た馬鹿が起こした爆発だ。幸いにして、あの馬鹿の目的は琥珀だったから、オレら魔樹の土地を壊す事が無かったが、多くの木々が粉々になり、多くの魔獣が縄張りを離れた。魔族のヤツ等も警戒して軍を出し、魔王の城は手薄になっていた。


爆発は日ごとに森を進んで行く。


それに乗じて魔王の国を襲ったヤツ等がいた。


屍の民だ。


ああ、このあいだヤンコの民といっしょに喧嘩を吹っ掛けてきたヤツ等だな。この時はヤンコの民を巻き込まずに、彼らだけで襲ってきたのだが、ヤン子の民と共闘した時よりも勢力を持っていて危ないヤツ等だった。


苦戦を予想した魔王は全軍を率いて前線へと赴いた。先王も生きていたし、アイツも若くて血気があったんだな。手柄を求めて焦ったのかもしれねえ。ところが、屍の民というのは土の中を好む性質があってな。地中にトンネルを掘り、魔王が率いる軍を欺いて城へとなだれ込んだんだ。


存命だった先王が先頭に立って応戦したが城は壊滅。


慌てて戻ってきた魔王の前に妃の亡骸が転がった。


魔王は狂ったように屍の民を手にかけた。


不思議なことに魔王が拳を振るうたびに体は少しずつ大きくなった。もともと魔族の王にそんな素質があったのか、その時覚醒したのかは知らねえが、魔王は殺した相手の魔力を吸収したんだ。


いや、殺した奴だけじゃねえ、殺された魔族の魔力も魔王に力を貸すように集まっていった。折しも、爆発する男が多くの魔獣を殺して森を荒らした後だ。爆殺された魔獣の魔力で魔脈が溢れていて、魔族の魔力が大地に戻れずに辺りに漂っていたんだ。


たぶん、妃の魔力もな。


城に残した妃を無くしたから、アイツにとって姫さんを城に残すってのは苦渋の選択なんだよ。ついてくると聞いた時、内心では胸を撫で下ろしてたんじゃねえかな。城の方が安全だと頭では解っていても。


ん、魔族や魔獣ってのは死んだときに、人間の心臓に当たる魔核を魔石か、魔力が多ければ魔晶石にして落とすだろう?残りの体はぐずぐずと崩れて魔力に戻り地面に浸み込んで魔脈へと戻るんだ。魔脈に戻ればオレら養分となるんだがな。


魔王が吸い込んだ魔力に魂が宿っているかどうかは定かじゃねえ。魔石や魔晶石の方に魂が宿っているというヤツもいる。魔樹であるオレらが吸っても他の魔力と変わらねえからな。だが、魔王の引かれて少しずつ吸収されていく姿は魂が宿っていると考えたヤツが多かったんだ。


それ以来の魔王は強い感情を持って死んだ魔族の魂を引き寄せるようになった。それがアイツが魂を吸っていると言われる所以さ。


そして、魔力を吸うごとに魔王は大きくなって、『強すぎる共感する力』を得た。


魔王の中の魂がアイツを助けようとしているのかねえ。魔族ってのは、誰でも対になる魔獣と共感する力があるが、多くの魂が集まっていく中で誰とでも共感できるようになったんだとさ。


だが、その異形な体躯と能力は、生き残った魔族から恐れられた。その力で魔族を守ったはずなのにな。


時は流れて、魔王は姫さんの母親と出会った。


妃を無くし異形の姿になった魔王は新しい妻を娶らなかったし、恐れて近づく娘もいなかったんだがな。献身的な彼女に絆されたと聞いている。知っての通り姫さんの母親は人間に育てられたからな。魔王の異形にも臆さ無かったんだ。


あ?知らなかったって?


先の屍の民との争いで孤児になった娘が森で迷ったところを、グルコマという人間が保護をしたんだ。たしか、人間の国では勇者って呼ばれていたよな?ヒョーリ。グルコマの手によって育てられた娘は、彼の死の間際に魔王に託された。


魔王は娘を同胞の魔族として快く迎え入れたが、人間に育てられた娘はなかなか魔族に馴染めなかった。仕方なく、魔王は他の魔族から恐れられている自分の世話をさせた。人間に育てられた娘は異形になった魔王を見ても怖がらずに世話を焼いたんだとよ。


いや、母親なら自分の娘に過去の苦労を自慢しないだろ。母親にだってプライドってもんがあるからな。アンタの母親も色々苦労したって聞いたし、娘の教育で悩んでいるとも聞いたぜ。ドラゴンの里で甘やかされて、わがままになった娘が馴染めない。たしなめても聞かないってな。


残念なことに、魔王と結婚した娘は少しずつ体が弱ってしまった。人間と魔族では摂取する魔力の質も塩の量も違う。人間と暮らしているうちに普通の魔族と変わってしまっていたが、馴染もうと無理をして魔族に合わせていた事が原因と考えている。


体調を崩しながらも娘のためにとドラゴンの里まで行ったんだから驚きだよ。


娘が最後まで体調不良を隠していたからはっきりと原因は解明されていないが、姫さんがヒョーリを人間の国に戻そうとした理由のひとつもそうだろう?


はっはっは。赤くなるな。


弱った娘が死んだとき、魔王は初めて自分の意志で魔力を吸った。


アイツは理由を語らねえが、オレも聞こうとも思わない。


今回の一件で『魔脈の澱』に触れることによって、魔王に集まっている魂がどうなるのか判らねえ。もともと、魔王が吸った魂は魔脈に戻る定めだから、オレ達は魔王が魔脈に直接手を触れれば魔力が魔脈に戻るんじゃないかと予想している。


その方が魔王の体にとっても良いだろう。体が大きくなったり、雲になったり、触手が生えたりと目まぐるしく変化しすぎているからな。元に戻す方法があった方が良い。


魔脈に戻る魔力の中に姫さんの母親の魂も含まれているかも知れねえが、魔王は中で魔力を分別できているわけじゃねえ。もうすでに魂は他の魂と溶け合って魔王に吸収されている。姫さんの母親の魔力だと断定できるものは何もない。


ただの感傷でしかねえ。




が、悪いとは思っている。



------------------------------



「まあ、そう言う事だ。解ったかヒョーリ?」


一通り話し終わって満足したのか、少年の姿の樹王は笑うと姫様から逃げるようにボクに話を振った。


いやいやいや、話が大きすぎて頭の整理が追い付かないんだけど!



------------------------------

次回:魔王の運ぶ『編みカゴの旅』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ