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父娘喧嘩

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『父娘喧嘩』--


あらすじ:白い姫様が一緒に行くと言い張った。

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「ダメだ!」


「なんでよ?!」


カプリオの村まで一緒に行きたいという白い姫様を魔王が拒否すると、彼女は強く反発した。短い言葉だけじゃ姫様の言い分は判らないけれど、魔獣のうようよいる危険な魔王の森に娘を連れて行きたくないと言う魔王の気持ちは誰にでもわかると思う。


魔王もそう思うからこそ、他の人たちに姫様を止めてもらいたくて城から出てきたのかもしれない。


魔王なんかの肩を持つ気にはなれないし、そばに寄り添ってくれた姫様に力添えしたい気持ちもあるけれど、苦労するのは多分、ボクたちなんだよね。だって、ヴァロアの腰よりも太い魔王の指で姫様のお世話なんてできないよね。


姫様は料理できるのかな。アンベワリィの料理を食べている姿は見た事あるけど。寝る場所だって森の中では作らなきゃならないし、道が整備されているわけでもないので歩くだけでも大変なんだ。


姫様には悪いけど、ボクは少しだけ魔王を応援した。もちろん心の中だけだけど。


「森の中は危険なんだぞ。魔獣だってカガラシィたちのように懐いてはくれん。」


「お父様を襲う魔獣なんて考えられないわ。」


人間でもそうだけど、大きな体はそれだけで武器になる。魔獣の世界では滅多なことが無い限り大きな相手を襲おうとはしない。3階より大きな魔王に立ち向かおうとするなんて動物でも人間でもいないよね。勇者か愚者でもない限り。


「何度も言うが、今の森は魔脈が荒れて縄張りが崩れておる。行き場を失った魔獣がどういう動きを取るか予想がつかない」


「ヒョーリがネマル様の加護も持っているのよ。」


「帰りはどうするのだ?」


「う…。」


カプリオの村への道中はボクがいるから腕輪の加護を使う事ができるけど、ボクはニシジオリの王都に帰るからお別れすることになるんだ。樹王様はどうするか判らないけれど、もしかしたら魔王と姫様だけで森を帰らなきゃならないかもしれない。


「なにより2人で城を開けるわけにはいかん。ワシに万が一の事があった時はどうするのだ?」


優勢になったと感じたのか、いつもは口数の少ない魔王が更に畳みかけた。城の最高責任者である魔王がいなくなれば、魔王の城は混乱するけれど、姫様が残っていれば彼女を中心にすることでまとまれる。姫様を蔑ろにして意見が分かれる事を避ける事ができる。


「お父様は自分の仲間を信用していないの?」


「ワシのいない間はオマエが決定を…。」


「魔樹の間では言葉を伝える事ができるのでしょ?」


姫様の反撃に今度は魔王の顔がゆがむ。


樹王によると遠くの景色も見られる便利な魔脈ほどじゃないけれど、森に生える木々をいくつも通して短い言葉くらいは伝言できるらしい。つまり、樹王がいれば魔王の城に残った魔樹の誰かを通して多少のやり取りはできるって事だね。魔樹の少年に担当が手を挙げて挨拶した。


「赤いドラゴンがまた甘やかすからワガママがぶり返しているのではないか。以前はもっと聞きわけが良かっただろう?」


「ネマル様は関係ないでしょ。」


渋い顔の魔王が絞り出した声を姫様が両断する。ネマル様の住むドラゴンの里には他に子供も居なくて、ネマル様はもちろん、ソンドシタ様もドラゴンの世話をする森の人たちも、みんなが姫様のことを可愛がってくれたそうだ。


魔王の城に戻って同じ世代の子供と付き合うようになってワガママは少なくなったけれど、ボクがヤイヤさんの水色の魔晶石を通してネマル様と話をさせてしまったから、その時を思い出して少しワガママが戻ったと魔王は言うのだ。


いやいやいや、とばっちりだよ。


確かに、ネマル様と話をせるようにしたのはボクだけど、姫様は変わったように見えない。ボクが魔王の城に再び来る前には争いの前線まで押しかけたと聞くし、姫様はボクのせいで変わったわけじゃ無いよね。


「おヒゲの手入れはどうするのよ?」


魔王の口元にあるヒゲ。それは体の大きな魔王を映す鏡が無いので、姫様が毎日手入れをしているらしい。


「短い間だ。伸ばしても構わないだろ。森に誰かが待つわけでも無い。」


「顔だって洗わなくなるわよね。牙磨きは?角の手入れはどうするのよ?まさか一国の王であるお父様が適当に撫でて終わりにするわけじゃ無いわよね?」


あ、魔王の顔が赤くなって目に涙が浮かんでいる。いつもの威厳に満ちた顔が、実は娘が手入れをしていたと知られたから恥ずかしいのかな。魔族の人たちも魔樹たちも、そこに居る人たちがみんなが表情を固める。


「お願い。お母様の…最後を見届けたいの。」


俯いた姫様の呟きは風に掠れていたけれど、その場にいたみんなの心に響いた。沈黙の中、少年の姿でニヤニヤと笑う樹王が間に入る。ボクを巻き込んで。


「もうよかろう。そろそろ行かぬと日が暮れる。ヒョーリもひとりくらい増えたって構わないよな?」


姫様のお母様は亡くなったと聞いているので、姫様の言う『お母様の最後』の意味は解らない。手間は増えるだろうけれど、姫様にはお世話になっているし、腕輪には本当に助けられた。ヴァロアもアグドもいるから何とかなるよね。


「もちろん。」


ボクたちの同意に顔をぱあっと白い頬を紅潮させた姫様。魔王は見た事もないほど顔を険しくしてボク達を睨みつけたけれど、最後には諦めて姫様の同行を許した。


「それじゃあ、おまえたち頼むぞ。」


樹王が魔樹の人たちに向けて声をかけると、10人を超える彼らの手元からツルが伸びて大きな編みカゴを作った。カゴは広い部屋くらいの大きさがあって、ボクたち3人にカプリオ、樹王に姫様と連れている2頭の魔獣を乗せても余裕がある。


「後は頼んだぞ。」


魔王は城に残る魔族の人たちに留守を頼むと、ボクたちの乗った編みカゴを手に取り肩に乗せた。


あ、これってソンドシタ様の時と同じ方法だよね。黒いドラゴンの時はアグドを真似て空気を固めた乗り物を用意して運んでくれたけど、今回は、魔樹の人たちが作った編みカゴを魔王が運んでくれるんだね。


ボクが思っていたよりも早く魔王の森を越えてカプリオの村まで行けるんじゃないかな。体の大きな魔王なら人間の小さなボク達よりも大きな歩幅があるものね。


「ふん!」


ボク達が乗ったツル籠を持つ時でさえ軽々としていた魔王が気合を入れる。


魔王の間の地面の下からメキメキと響く音が鳴った。


編みカゴの端によって訓練場を見下ろすと、魔王の背中から太い触手が何十本も伸びていてうねうねと動いていた。勇者アンクスと戦った時は魔王の背中にこんな物無かったよね。たぶん。


「この間、お父様が雲のようになった時に、また多くの魂を背負い込んでしまったの。」


何十本もの触手に支えられて魔王の足が地面を離れると、ボク達を乗せた編みカゴも同じだけ宙に浮いた。何十本もの触手が蠢いて滑るように魔王は動き出したんだ。


「樹王様!ご健闘を!」

「魔王様!万歳!」

「姫様をよろしくお願いします!」


魔族の人たちや魔樹の人たちが大きな声を上げてボク達を見守る中、魔王は背中越しに手を振って、樹王は両手で手を振って応えた。ボクもアンベワリィを始めとしたみんなに感謝をこめて両手を振る。


細かくうごめく触手のおかげで魔王の肩にのる編みカゴも揺れる事は無い。背の高い建物も軽々越えた。魔王の太い足では踏む場所も無い魔王の森を、触手は木々を潰さないように避けて進んで行く。


いやいやいや、魔王って魔族を辞めているんじゃないかな。



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次回:樹王が語る『魔王の過去』



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