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不公平

第12章:勇者なんて怖くないんだ。

--『不公平』--


あらすじ:少年が子供の頭くらいの大きさの琥珀を置いた。

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「あの、勇者が生まれたってどういうことですか?」


ちょっと興味が過ぎてしまって口を挟んでしまったけど、ボクは少しだけ勇者に関りがある。


勇者アンクスとの関りはもちろんの事、『愚者の剣』に変わってしまった最初の『勇者の剣』を持っているし、その剣を護っていた魔道具の魔獣、カプリオと旅をしている。最近ではアンクスといっしょに街でお芝居もしたしね。


『生まれてしまった』という表現が気にかかった。勇者を望んでいないようなその言い方に。


「ああ、まあただの愚痴だ。気にするんじゃねえ。」


樹王と名乗った少年は苦虫を噛み潰した顔をすると、通りがかった給仕に水を注文した。どうやら魔族や人間みたいな食事は彼らの口には合わないらしい。まぁ、畑の木に人間の食べ物を与えても枯れるだけだものね。となると、食堂にはボクに会うためだけに来てくれたんだ。


話が途切れてしまった居心地の悪い沈黙の中、ボクはさっきの言葉を反芻する。魔王が大きくなったのは、『魔断の戦車』で魔王の森を切り崩したように、魔爆発する男が森を壊したからだろうけど、『勇者』ってなんでいるんだろう?


「まあ、オマエ達の崇める神というのが、人間ばかりを贔屓するのが気に入らないだけさ。」


魔族が『ギフト』を授からないように、魔樹という彼らも『ギフト』という特別な力を神様から授からないらしい。人間に関わらないような森の奥にいるなら『ギフト』を授からない事も気にならなかったけれど、『ギフト』を授かった爆発する男が森をめちゃくちゃにした。


神様は人間だけに浄化の魔法に治癒の魔法も与えたのに、勇者の称号という新しいものを与えたんだ。


使えるのが当たり前だから、『ギフト』を貰えない人たちの事なんて考えた事も無かった。姫様だって魔族は『ギフト』を持たないって言っていたし、どこにでもある浄化の魔法ですら嬉しそうにしていたよね。


ただ『ギフト』を貰っただけのボクには神様の考えなんて答えられるわけも無い。だから、気にするなと言ってくれたんだ。ボクは口を挟んでしまったことを後悔した。


注文した水はコップに入れられてすぐに運ばれて来た。でも、少年は水を飲もうとせずに拗ねた子供のように弄ぶ。椅子に座っているのにテーブルの上が空いているのは居心地が悪いから。テーブルを埋めるためだけに水を注文しただけらしい。


「それよりも、オレの探し物はやってくれるのか?」


ボクが心の中でダラダラと冷や汗をかいていると、少年が覗き込んでボクの目を見つめて尋ねた。ああ、そう言えば、ズレてしまっていたけれど、今は探し物をして欲しいって話だったよね。勇者の話なんて聞かなければ良かった。


居心地の悪い空気から目を逸らして、ボクは机の上の人間の子供の頭くらいの魔樹の琥珀に目を戻した。


「あの、この琥珀を割って指輪が作れるくらいの欠片を頂ければ…。」


自分で提案した事だけど、喉がカラカラになったのが解る。いや、この綺麗な宝石を自分の都合で傷つけても良いのかな?


宝石は大きければ大きいほど価値が上がると聞いたことがある。大きな宝石は滅多に見つからないのに、小さな欠片を合わせたって大きな宝石にはならないんだよね。だから、琥珀を割ってしまったら価値が下がってしまうのは判っている。


同じ大きさで出回ればひとつの価値だって落ちてしまう。


でも、指輪に必要な大きさは小さいんだよね。だから、『木になる指輪』を作るなら、絶対に割ることになる。大きな宝石ほど価値があるのだから、自分で割って価値を下げる勇気なんてボクには無い。下手に手をかければ小さな欠片に砕けて全部の価値を失ってしまうかも知れない。


少年には価値が無い琥珀かも知れないけれど、人間の街に戻って琥珀を売れば、一生遊んで暮らせそうだと思う。まあ、これだけ大きな物だと価値がありすぎて売れるかどうかも怪しいんだけど。もしかしたら、王様に献上するくらいしか使い道が無いかもしれない。


ボクの無茶な提案に、少年は無造作に琥珀の大きな玉に手を伸ばした。


「これくらいで良いのか?」


少年は琥珀を粘土のように千切ってモンジの団子くらいの大きさで丸めて手の平に乗せた。同じように怪しい光を放っている。いやいやいや、琥珀だって宝石だから硬いんだよね?そんなに柔らかく千切れるものなの?


元となった子供の頭くらいの琥珀は少しだけ小さくなっていたけれど傷が無い。少し価値が下がったかもしれないけれど、傷が入って価値が下がり過ぎたようには見えない。


「もっと小さくってできます?」


元の琥珀を見てホッとして、調子に乗った。少年の手の平に乗った玉は小さくなっていたけれど、まだ指輪をたくさん作っても余るくらいできそうだよね。黒いドラゴンのソンドシタ様から指輪を作るために貰った球はひとつしかないんだよね。


ソンドシタ様を疑う訳じゃないけれど、予備としてもうひとつくらいあっても良いかもしれないけれど、それ以上は貰い過ぎだ。


(せっかくだから貰っておけば良いんじゃないか?)


(でも、これでも貰いすぎだよ。)


(何も騙して巻き上げようとしているわけじゃない。世界でお前しかできない仕事で、相手の提示した正当な報酬だぜ。)


(そうかな?)


確かに『失せ物問い』の『ギフト』を授かったのはボクだけで、ボクにしかできない仕事だけどね。少年が神様が人間にしか授けない『ギフト』は不公平だと言ったばかりだし、琥珀は少年にとって価値の無いものらしいけど、大金を騙し取っているような気がして居たたまれない。


(オマエはもう少し自分に自信を持っても良いと思うぜ。)


何度もジルに自信を持てと言われているけれど、『失せ物問い』の力を使っても裏路地での占いではお金を稼ぐことができなかった。それなのに、たった1回『失せ物問い』を使うだけで、一生遊べるくらいの宝石を貰っても良いのなのかな。


どちらも同じ1回なのに。


「面倒だ。これでよかろう?」


少年はテーブルの真ん中に琥珀の団子を無造作に放り出した。すでに琥珀は小さく切り取られてしまった。だから、ボクに断る事なんてできないんじゃないかな。それとも、粘土みたいにまた同じようにくっつけたりできるのかな?


「何をお探しているんですか?ここまでしてもらって申し訳ないですけれど、ボクにも探せないものがあるんです。」


魔王がボクを紹介したくらいだから、彼の探しているものをボクが見つけることができると考えているんだよね。目の前の大きな琥珀の玉も小さな琥珀をかき集めて丸めた物だったらいいな。人間のカサブタだって大きな物は少ないよね。


「おっと、そうなのか?オレが探しているのは、『魔脈の澱』だ。できるか?」


聞いたことない名前にボクは聞き返しそうになるけれど、それよりも先にジルが補って問いかけてくれた。


(『魔脈の澱』はどこにある?)


ドキドキしながらジルの声を聞くといつものように『失せ物問い』の妖精が囁きかけてくれてホッとする。でも、『失せ物問い』の妖精が囁くそこは魔道具の魔獣のカプリオが『勇者の剣』を護っていた村だったんだ。



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次回:樹王の『疑い』



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