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涼やかな調

第11章:魔王だって助けたいんだ。

--『涼やかな調』--


あらすじ:姫様に期待されている。

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みんなで丸く輪になってベッドに座る。ベッドを入れるための場所を空けるために、机と椅子は片付けられてしまっていたけど、4つもベッドがあるからね。座る場所には困らなかった。


「ネマルの姿を見せるって?またオレが絵を描けば良いのか?」


「それもいいアイディアだと思うけど、ヤイヤさんにお願いしようと思うんだ。」


黒いドラゴン、ソンドシタ様に頼まれて、赤いドラゴン、ネマル様の絵を何枚も描いたアグドは、同じ絵を描かくことができるみたいだ。姫様が欲しいと望んだら、お願いしようかな。


ああ、ネマル様のために姫様の姿絵も描いてもらっても良いかもしれない。アグドの絵はドラゴンには小さいけれど、姫様を気に入っているネマル様なら喜ぶよね。ドラゴンの里に行くためには難しい条件があるみたいだけど、いつか条件が揃えば届くかもしれない。他人任せだけど。


「あ、なるほど記憶の本を借りるッスね。」


「記憶の本?」


姫様は知らないだろうけど、ボク達はみんながソンドシタ様の手伝いをして知っている。


世界の果ての図書館に集まった記憶の本は司書のヤイヤさんを通して借りられる。彼女は毎晩、その日のソンドシタ様の記憶を見るために水色の魔晶石を通して話しかけてくるんだよね。


日中に話しかけても応えてくれるけど、あまり昼間の会話を増やしたくない。


ヤイヤさんに昼間の魔王の森で話しかけられた時はびっくりした。魔獣が近くにいなくて助かったけど。それから少し考えて、腕輪を知らない人のいる場所でもいきなり声が聞こえると周りの人がびっくりするだろうからと、会話はできるだけ夜にして欲しいとお願いしたんだ。


だから、こちらからばかり昼に話しかけるのも気が引ける。


それが、ボクが夜に姫様を招いた理由で、それ以上の考えなんて無かった。ホントだよ。


いつもはヤイヤさんから話しかけられるのを待っているけれど、姫様の期待も高まっているしヴァロアもアグドも待っている。ボクは左手の白い腕輪の水色の魔晶石に指で触れて魔力を流し込んだ。


≪あら、貴方からは珍しいわね。どうしたの?≫


「ごめんね。またひとつ、お願いしたいことがあるんだ。」


ボクはヤイヤさんに簡単に姫様の事を伝える。魔王の城の白い姫様が幼い頃にネマル様にお世話になっていた。姫様にネマル様の今の姿を見せてあげたいから、ボクがネマル様に会った日の記憶の本を貸して欲しいとお願いしたんだ。


いままでも、ヤイヤさんには何度か記憶の本を借りているし、毎日その日のソンドシタ様の記憶の本を探す手伝いをしている。それに今日、貸してもらうのはボクの本だ。ボクの記憶に映っているネマル様の姿なら、断られる心配も無いよね。


≪ああ、そう言う事ね。ちょっと待ってね。≫


ヤイヤさんはすぐに意図を理解してくれたけど、ボクを待たせて席を外してしまった。いつもなら、すぐに記憶の本を貸してもらえるのに。彼女の声は聞こえなくなり、代わりに聞いたことが無い短い曲が水色の魔晶石から流れ出した。


ぴろりろり~♪ぴろりろり~♪ぴろ~ぴろ~♪


部屋に響く涼やかな音色に疑問が過る。今までヤイヤさんがボクを待たせたことは無いし、待たされる理由も思いつかない。食事の時間は外していると思うし、トイレでも無いよね。他に誰もいない世界の果てで、彼女は何をしているんだろう?


「良い調ッスね~。」


ぴろりろり~♪ぴろりろり~♪ぴろ~ぴろ~♪


ヴァロアが短い曲に耳を傾けて感心していたけど、ボクは曲が繰り返されるたびに募る不安を忘れるために、無心で何度目の初めかを数える。


ぴろりろり~♪ぴろりろり~♪ぴろ。


永遠に続くかと思われた曲が唐突に切れてボクはドキリとした。無心になって数を数えていたから、心の準備ができてないんだ。


≪お待たせ。でね、これに向かって喋ると。向こうに声が届くのよ。≫


あわてて耳に集中するけど、ヤイヤさんの言葉の後半はボクに向けられていない。


≪コレに向かって喋ればいいの?≫


声はふたつになっていて、ひとつはヤイヤさんで間違いない。そして、もうひとつの声は、少し離れた場所から通る大きな声で、でも、聞き覚えがある。


≪ヒョーリ聞こえている?何か喋ってよ。≫


「あ、あの隣にいるのはネマル様ですか?」


ボクの記憶が確かなら、ネマル様の声だ。向こうでも水色の魔晶石のようなものに話しかけているのかな。だとすれば、赤いドラゴンのネマル様の大きな頭では長い鼻が邪魔になって側に寄れずに遠くに聞こえるのかもしれない。


≪え!ホントだ。確かに里に来ていた人間の声よ。≫


≪でしょ。≫


驚く赤いドラゴンに得意げに誇る声が応える。記憶にある水色の薄衣をまとったヤイヤさんは普通の人にしか見えなかったけど、本当の姿はドラゴンだったりしないよね?


黙るボクにヤイヤさんはネマル様が居る訳を教えてくれた。


何でも、不審な動きをするソンドシタ様がドラゴンの里からコッソリ抜け出す所を発見して、ネマル様は後をつけたんだそうだ。


ヤイヤさんの元へ定期的に訪れる約束をしたソンドシタ様は律儀に守っていた。それは毎晩のヤイヤさんとの会話の中で惚気のように聞かされていた。


だけど、ドラゴンの里から世界の果ての図書館までは時間がかかる。図書館でも日をまたいで滞在をしていたから、里を抜け出していたソンドシタ様にネマル様も気がついていたんだ。


ちなみに、お姉さんのドラゴンの居ない世界の果ての図書館をソンドシタ様は割と気に入っていたみたいで、気が緩んだソンドシタ様がうっかり漏らした愚痴を、こっそり後をつけてきたネマル様に聞きとがめられて、今は頭を地面にめり込ませて反省しているらしい。文字通りに。


いやいやいや、普通はめり込まないよね。ネマル様がやったんだよね?


「あの、ネマル様、お久しぶりです。」


≪本当に姫ちゃんなの?≫


ともかく、お互いの姿は見えてないけれど、白い姫様と赤いドラゴンは久しぶりに言葉を交える。ボク達はソンドシタ様の事を忘れて口を閉ざした。


喜ぶ1人1頭にホッとすると同時に、ボクは今から見る自分の記憶の本に思いを馳せる。今までいくつかの記憶の本を借りたけれど、どれもこれも個性的で立派な装丁がされていた。


ボクの本はどんな風に飾られているのかな。


赤いドラゴンのネマル様は赤い表紙に赤い文字。黒いドラゴンのソンドシタ様は黒い表紙に緑の文字。人間ならアグドに特命を与えたという団長さんの表紙だって灰色の立派な本だった。


ボクの本だってそれなりの装飾がされているよね。


≪さあ、次はお互いの姿を見せあいましょ。ネマルだって姫ちゃんの成長した姿が見たいんじゃないの?≫


ネマル様と姫様の会話が落ち着いてきたところで、ヤイヤさんが声をかけた。いよいよ自分の本を探すんだ。ネマル様もいるしヤイヤさんも乗り気だからボクの本は問題なく借りられる。


≪とりあえず2冊をお願いできるかしら?ヒョーリがネマルに会った時の本と、ヒョーリの今日の本よ。≫


ボクがネマル様に会った時の本があれば、姫様はネマル様の姿を見る事ができるし、ボクの今日の本があれば、ネマル様は今日の姫様の姿を見る事ができる。


ボクはすぐにジルにお願いして、『失せ物問い』の妖精に訊ねてもらう。妖精が耳元で囁いたら、手には一冊の本が握られていた。もう一冊はヤイヤさんの手元に有るに違いない。


意気揚々と見た本の表紙には色が付いて無くて、灰色の文字は読みにくい。


背中が蝋で綴じられていて本と呼べなくもないけれど、背表紙の無い本の裏も表も中のページと変わらない普通の紙。他の人の本の表紙のように厚い紙や硬い紙を使ったりもせず、色も付いたりしていない。


題字も凝った文字で飾られているわけでも無く、箔を押してへこませているわけでもない。灰色の文字は、どこにでもあるインクを油で薄めたような色なんだ。高いインクを節約しようとして、油を混ぜたことがあるからね。間違いない。


いやいやいや、これは本じゃ無いよね?


ただの紙の束だよね。


姫様とネマル様が記憶の本から現れた見でお互いの姿に感声を上げる中、ボクの気分は落ち込んでいた。もっとカッコイイ本を自慢できると思っていたんだ。



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次回:魔族の『ハーレム』



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