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お客様

第11章:魔王だって助けたいんだ。

--『お客様』--


あらすじ:姫様を部屋に招いた。

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「ひゅ~、こんな時間にお姫様を部屋に招くなんて、ヒョーリも隅に置けないぜ!」


魔王の城で借りているボクの部屋のドアを止める間もなく開いたアグドが、下手な口笛に下卑た薄ら笑いを浮かべて肘でボクをつついた。その肘には力が入っていてかなり痛いけど、それより心の方が痛む。


ドアの外には柔らかそうなパジャマに着替えて枕を抱えた白い姫様が、白と黒の2匹の魔獣を従えてうっすらと頬を染めて立っていた。


いやいやいや、ボクはそんな事まったく考えていなかったよ。確かに夜に女の子を部屋に招いたから誤解が生まれた。だけど、相手は魔族で魔王の娘で、ボクなんて相手にしないよね。こんな時間に部屋に来たのもボクをまったく警戒して無いからだよね。


それに、ボクの部屋の魔獣用のベッドはカプリオが使う予定だ。カプリオとジルと夜通し同じ部屋にいるから、変な事にはならないよ。絶対。


でも、どうして姫様は枕を持ってきているんだろう?パジャマまで着て完全に寝る姿だよね。部屋には誘ったけど、ボクはネマル様の姿を見せるだけのつもりだった。姫様は後で部屋に帰るんだよね?


「止めなさいよ。男の子はすぐに冷やかすんだから。ヒョーリはやましい事なんて考えていないわ。絶対!」


姫様に庇って貰えるのは嬉しいけれど、『絶対』と言い切られると少し悲しい。姫様がボクを男だと思っていないような気になるので落ち込むんだよね。いや、ボクも変な事をするつもりはないけど。


ボクは少し傷付いて、俯いた。



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発端は夕食の時、ネマル様の姿を見せて姫様を驚かせようと彼女をボクの部屋に招いた事だ。知っているよね。食事も終わりヴァロアの歌も落ち着いたので、ボク達はそれぞれの部屋に戻った。


つもりだった。


魔王の城に用意された3つの部屋の真ん中。ボクに割り振られた部屋のドアを開けたら、ベッドが4つになっていた。ぼくに用意されたベッドと魔獣用のベッドはそのままに、新しく2つのベッドが増えていたんだ。


「え?」


狭くはない部屋だったけど4つもベッドがあれば隙間が無い。ベッドでいっぱいになった部屋を見て唖然としていると、ボクの横を平然とヴァロアとアグドがすり抜けて入る。彼らに割り当てられた部屋は隣に有るのに。


「あ~疲れた~。やっぱり魔族しかいねえと、緊張するぜ。」


「でも、久しぶりに歌えて楽しかったッス。」


アグドはボクの部屋に入るなりベッドに体を投げだすし、ヴァロアは遠慮なく座って丁寧にブルベリの手入れを始めた。和気あいあいと会話までして。


「いやいやいや、どうして2人ともここにいるの?」


隣同士だから疑問を持たずにいっしょに部屋まで来たけれど、それぞれに個室が割り振られている。ひとりずつ別の部屋で気を使わずに寝た方が疲れも取れるよね。アグドなんて疲れたと自分で言っているんだよ。


「護衛のオレが、お前の部屋にいるのは当たり前だろ?」


ここは魔族の本拠地、魔王の城。魔族しかいない城では何が起こるか解らないからアグドは護衛としてボクの傍を離れるつもりは無いらしい。


いやいやいや、アグドは今朝も熟睡していたし、お風呂でもボクを放って遊んでいて、そのうえ先に食堂に行って夕ご飯を食べていたよね?護衛する気なんて無いよね?


「ひとりだけ別は寂しいッス。兄さんたちが楽しみたいなら、邪魔をしないッス。後学のために見させて欲しいッス。」


涙をぬぐう仕草をしたヴァロアが顔を赤くして鼻息を荒くする。いやいやいや、ボク達が何を楽しむのかな?お風呂で体も洗ったし、食堂でお酒も飲んでいるし、明かりをつけるのももったいないから部屋で寝るだけだよね。


コンコンコン。


ボクの心の叫びが表に出る前にノックの音がした。誰が来たのかすぐに解る。アンベワリィはまだ食堂で働いているし、セナはボクに用事なんて無い。


そこで冒頭のアグドの言葉に戻るんだ。



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「自分が誘ったッス。今日も兄さんの部屋で寝るつもりだったッス。みんなで寝た方が楽しいッス。」


白い姫様は魔王の城のお姫様だし、幼い頃はアルビノの白い肌と、生きるためにドラゴンの里に行っていた事で、友達に恵まれなかった。


友達といっしょに夜更かしをすることに憧れていたらしい。


ボクたちの旅の話の間や、今朝の様子を羨ましそうにしていた姫様に気付いたヴァロアが、お風呂の間に誘ったそうだ。


だから、枕まで持っていたんだね。


いやいやいや、ボクの部屋じゃ無くて良かったんじゃないかな?ヴァロアにも部屋は割り振られているんだから、女の子ふたりだけで夜更かししても良かったんじゃないかな?仮にもお姫様なんだから、噂になるような事をしちゃダメだよね。


それとも、人間と感覚が違うのかな?


増えていたベッドは、ヴァロアがお風呂に入るために部屋に置いていたブルベリを取りに行くついでに、ボクの部屋にベッドを運ぶようにお世話をしてくれる魔族の人に頼んだらしい。その数が2つ。


最初から部屋にあるベッドはボクが使い、魔獣用のベッドはカプリオが。そして、ヴァロアと姫様の分のベッドを運び込んでもらったんだ。


「オレのベッドは?」


「昨日みたいに床で寝れば良いんじゃないッスか?」


数の上では4人だからベッドが4つで合っているけれど、ひとつは魔獣用のベッドだしカプリオが使うのが正しいよね。何よりアグドのベッドは隣の部屋にあってボクの部屋に運んでないし、ボクの部屋には、もうベッドを置ける場所が残ってない。


「廊下でも良いわよ。」


護衛なら扉の前の廊下で寝ずの番をする事も珍しくない。護衛される方だって寝ている時くらい自由になりたいよね。ボクだって今そう思っている。


位の高い人を迎える部屋なら護衛のための部屋が用意されているけれど、ボク程度を迎えるのに、広い部屋は用意されるはずもなく、この部屋もひとつだけだ。その代わり、3つも部屋を貸してくれているんだから文句はない。


「オレだって客だろ?ベッドで寝る権利があると思うぜ。」


「あら、護衛じゃなかったの?」


アグドは迎えたお客様に不便な思いをさせるのはおかしいと主張するけれど、護衛は迎える側が招いたお客様ではなく、招いた人が自分の都合で護衛を連れてきていると言える。お客様のために護衛にも十分な配慮はするけれど、護衛をお客様ほどに優遇する必要は無い。


普段は迎えたお客様のために護衛にも気を使うだろうけど、アグドのためにしたくは無いって事だよね。


都合によって護衛と言ったりお客様だと言ったり、コロコロと立場を変えるアグドを笑顔で姫様がやり込める。隣ではヴァロアも応援しているからアグドに勝ち目はなさそうだ。女の子が徒党を組むと怖いからね。こういう時は静かに大人しく、そっとしておくのが一番だ。


触らぬ神に祟りなし。


ボクもアグドが自分の都合で立場を変えるのは気になっていたし。


結局アグドは負けるしかなかった。ボクはいつもジルとカプリオと一緒だから、今さら3人と2頭が加わっても変わらない。いや、ちょっと部屋が狭いかな。ホントはベッドが4つでは、4人と3頭が寝るのに少ないんだよね。


ボクも明日の朝には床で目覚める事になるかもしれない。


「そんな事より、ネマル様よ!どんな形で見せてくれるのかしら?」


アグドをやり込めて笑顔の姫様は、次の約束を楽しみにしていたんだ。



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次回:不安を掻き立てる『涼やかな調』



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