朗読
第2章 書類整理だけをしていたかったんだ。
--朗読--
あらすじ:図書館にカナンナさんとドゴ様が来た。
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「…以上が、シモトク村の村長についての報告です。」
天井まで届く本棚にハシゴをかけて、ドゴ様が資料を探している。
その横に立って彼が探していた資料を3冊とも読み上げたのだけど、ボクが読んでいる間もドゴ様は声なんて聞こえていないかのようにずっと棚を探していて、手には本や資料がいくつも積みあがっている。
「ああ、ありがとう。聞きやすかった。その資料も貰えるか?」
本当に資料の内容まで聞いていたか怪しいけど、ドゴ様が顔を上げてボクにお礼を言ってくれた。顔をよく見ると眉間のシワが深く刻まれているから、何か悪い報告が混じっていたのかもしれない。ちゃんと聞いていたのかな。
「お役に立てて光栄です。他に御用は有りますか?」
「いや、私の探していた方はついでだから、もういいぞ。」
ついでの割には沢山の本や資料を持っていて重そうなので、読み終えた資料をその上に乗せるのに気を使ってしまう。
「あの、その資料を部屋までお持ちいたしますが。」
「なに、これくらいなら軽いもんさ。」
ドゴ様はボクを気遣うように笑うと、ホレホレと手に持った資料を上下に揺さぶる。無理をしていなきゃ良いのだけど。
「それでは、また何か有ればお申し付け下さい。ボクは仕事に戻らせていただきます。」
ドゴ様は自分の部屋に帰るようなので失礼して、さっさとカナンナさんの言っていた王女様の希望する本を探してしまおう。
「あら、ドゴ様?お茶を淹れたので飲んでいきませんか?」
話を終えて立ち退こうとした時に聞こえた声に振り返ると、カナンナさんが立っていた。
いつもならすでに本を探し終わっているハズのボクが戻っていないので探しに来てくれたのだろう。別に早く本を見つけろと催促しに来ているワケじゃなくて、ボクの分までお茶を淹れてサボりの共犯者に仕立て上げようとしているのだ。
まぁ、ゆっくりと美人の女の子とお茶が飲めるのだし断る理由も無いから、すでに何度も共犯者になっているんだけどね。天気の良い日に王宮の庭園の景色を見ながら彼女とお茶休憩をするのは、ここの食堂で客待ちを気にしないでゆっくり夕飯を食べるのと同じくらい楽しみな事のひとつだ。
お茶に付き合わされた最初の頃は、資料を探しに来る貴族の人が来る事にビクビクしていたけど。カナンナさんはあっけらかんと「来た貴族もお茶に誘えば良いのよ。」と言っていた。侍女とは言えカナンナさんほどの美人にお茶を誘われれば、貴族の若い使いっ走りが断ることも無いのかもしれない。
それに、ジルの荒っぽい男口調と違って、明るい女の子の言葉もなかなか良いもんだ。聞いているだけで気分が明るくなる。まぁ、話の内容が時々突拍子もない方向に飛ぶので、理解するのが大変だけど。
以来、彼女が来る時間はボクの休憩時間にもなっている。
「カナンナか。いや、悪い。すぐに戻らなければならなくてな。私に気にせずに、ゆっくりしていけと王女にも伝えて欲しい。」
実際には王女様のお使いでカナンナさんだけが来ているのだけど、侍女がお茶を用意しているのだから王女様も一緒に居ると勘違いしたのだろう。訂正するとサボりが見つかってしまう気もするので、何も言わずにカナンナさんと一緒にドゴ様を見送った。
「それにしても、アナタって読むのが上手なのね。」
占い師ならお客さんが結果を聞き取りやすいようにはっきりと喋れと師匠に言われて、声を出す訓練をさせられていた。師匠の声は聴きやすいけど、占い師らしいミステリアスな雰囲気を出せないから、一時は悩んだことも有ったんだけど、こういう時に役に立つとは思わなかった。
「少しばかり、声を出す訓練をしていましたので。」
「ふ~ん。そんな訓練も有るんだ。」
「カナンナさんのようにハキハキと話すことができれば必要ないと思いますけど。」
元気よく明るい声で話すカナンナさんの声は聴きとりやすい。ちょっとばかり王宮で話す言葉にしては蓮っ葉な感じがしてしまうけど、ボクは好きだ。
「当然ね。私には必要のない訓練よ。ねね、さっき返した本を読んでくれない?『ナンギ物語』。王女様が楽しそうに読んでいたんだけど、私も話の内容を知っていれば、もっと王女様とお喋りできるじゃない。」
共通の話題が有れば話が弾む。いつもジルと一緒に話をしているから、ものすごく共感できた。
「では、ご自分で本をお読みになれば良いのではないでしょうか?」
街では文字を知らない人が多いけど、王宮では必要になることが多いと思うし、ジルがメイドさんにはスパイが多いって言っていたから読めてもおかしくない。わざわざボクが読まなくても自分で読めば良いんだ。
「いやね。本を読んでいると眠くなるのよね。この間なんて3行読み終わる前に寝ていたわ。」
カナンナさんが自慢にならないことを自慢する。3行も読めるんだから文字は解っていて全部読めそうなものだけど、どうして寝てしまうのだろう?でも、ボクだって冒険者ギルドで懲りているから本来の仕事にと関係ない事はしたくは無い。
「ボクにも仕事が有るんですよ。」
「そんな事言わないでさ。ほら、毎日お茶を淹れてあげているじゃない。」
それを言われると困る。実は淹れて貰っている茶葉はカナンナさんがどこかから持ってきているんだ。街で飲むより良い葉を使っているようなので、買っていたりすると結構な値段になるはずだ。
それに、美人の女の子が淹れてくれたお茶をテラスで一緒に飲めるなんて他ではできない体験なんだし、彼女と話しているのもジルと話している時のように楽しい。
「ヒョーリの声を、もっと聴いていたいな。」
「仕方無いですね。紅茶の分だけですよ。」
ボクだって男だ。
女の子に声を聴いていたいと言われて悪い気がするわけない。もしも、カナンナさんの誘導だとしてもボクには悔いはない!
ハズだった。
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次回:侍女と『第一王女』




