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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第1章:占い師を辞めなくちゃならなかったんだ。
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相棒

--相棒--


あらすじ:勇者様コワイ。

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勇者様に(から)まれてしまって机は真っ二つになっていた。当然そこに乗っていた書類の束も…って、うわあぁ。大事な書類が!


本業の方はまだ良い。占い師なんて売れていないし机の上に乗せていた物もない。


でも副業の方はマズイ。


「なあ。」


「うるさいな。」


ああ、インク瓶も割れて…これじゃ原本が読めないぞ。マズイな。お客さんから預かった大事な書類がグチャグチャだ。


「なぁってば!」


「何だよ!」


顔を上げてみても、そこには誰も居ない。


「オレだよ。オレ。」


声はするので、きょろきょろと辺りを見回してみるけど、見慣れた裏路地の石畳(いしだたみ)の風景にボクの持ってきた机と椅子の残骸(ざんがい)が2つ転がっているだけだった。


「さっきモンドラが投げていただろ。棒だよ。」


は?


声をたどると、勇者様たちが持ってきた王宮の占い師から託されたという木の棒が、僧侶様が壊した椅子の残骸に突き刺さっている。


「お前か?」


木の棒を引き抜こうとしてみても地面までしっかり突き刺さっている。クソッ。どれだけの力を込めたんだあの僧侶様は。


やっとの事で引き抜いた木の棒は、ボクの身長よりちょっと短いくらい。木の皮も()いてないちょっと長いだけの何の変哲もない木の棒で、こげ茶に白い粉が吹いていて汚く感じる。


杖…とは呼べそうもない。変な形に曲がっていて途中で枝も出ている。杖としても使えなくも無いだろうけど、売っていても買わないだろう。森を歩いていて疲れた時に拾ったら使っても良いかな?程度の代物だ。


「ああ、オレだ。良かったら拾ってくれよ。役に立つぜ。」


棒から聞こえる声は低めの可愛い女の子みたいだ。『オレ』とか言ってるけど。


「どんな役に立つんだよ。」


宮廷占い師がワザワザ勇者様に持たせた棒だ。何かあるのかもしれないから興味はある。ついでにお金になってくれれば良いのだけど。


「オレも『ギフト』が使える。なぁ、オレを持って行ってくれればオマエに『ギフト』を使ってやるぜ。」


なるほど、『ギフト』は誰もが神様から1つもらえる特殊能力だ。それを1人で2つ使えればできる仕事の幅が増える。


神様から貰える『ギフト』を使えば農家なら土の声を聴いて畑を豊かにできるし、狩人なら森の声を聴いて獲物の位置を知ることができる。他にも商人なら計算が早くなったり、鍛冶屋なら火の扱いが上手くなるなんてのもある。


14歳の頃に自分の仕事や目的に合わせて貰う事が一般的で、代々その家に伝わるギフトをそのまま世襲(せしゅう)することが多い。


人間は『ギフト』を生かした仕事をしながら今まで発展してきた。


親から子へ仕事を教えるのと同じように『ギフト』も伝わってきたし、まったく知らない『ギフト』を願ってしまうとボクのように使い道がよくわからなくて安定した仕事に就けなくなってしまう。


だから『ギフト』を選んだ時点で、その後の仕事や生活、あるいは人生が決まってしまう。


まぁ、『愛の紬糸』みたいな女の子に人気の『ギフト』も有るから完全には決まらないんだけどね。


「どんな『ギフト』だよ?」


当然、使えない『ギフト』だと宝の持ち腐れだ。商人が農家の『ギフト』を持っていてもあんまり役に立たないからね。


「『小さな内緒話』って言ってな、まぁ便利なもんだよ。商人なら金が稼げるし、もちろんオレもこの『ギフト』稼いでいたさ。おっと、こっから先は持って行ってくれたらの話にするぜ。」


商人の稼げる『ギフト』は(のど)から手が出るほど欲しい。なにせ本業も副業も(もう)かっていなから毎日を食つなぐのが精いっぱいなんだ。それが棒を持って行くだけで稼げるなら嬉しい限りだ。


「変な事とか無いよな?例えば呪われてしまうとか。」


「呪いか。まあこの体は呪われて棒っ切れになっちまったんだがな。オレも元はちゃんとした人間だったんだよ。まぁ、オレを持っていても呪われたりしないぜ。んじゃなきゃ宮廷占い師の婆さんの部屋に長い事置いてあったりしないからな。」


確かに人が持っていて呪われるのなら、棒を持っていた宮廷占い師はとっくに呪われていておかしくない。


「お前にはどんなメリットが有るんだよ?」


ボクにしかメリットが無い話は詐欺の手口だよね。


「おいおい、お前の目は節穴か?オレは手も足も無いただの棒なんだぜ。こっから動けねーんだよ。ただ持って歩きまわってくれるだけで良いぜ。婆さんの部屋で退屈してたから、娑婆(しゃば)は久しぶりだから見て回るだけでも楽しいんだよ。」


なるほど、このまま放って置けば棒はここで()ちてしまいそうだ。ボクだって歩き回れなければ退屈で死んでしまうかもしれない。連れて歩くのが棒のメリットだと言われると納得してしまう。


そうするとボクのデメリットは見栄えの悪い喋る棒を持ち歩くってだけになりそうだ。少し胡散(うさん)臭い奴だけど持っていても不都合は無いよな。


「もう1つ聞かせて。ボクを選ぶ理由は?」


「まだ有るのかよ。疑い深いな。まぁ、嫌いじゃないぜ。簡単な事さ。今のところオレの出所を知っている奴がお前だけなんだよ。他の奴がココに来るとは思えねぇからな。」


「なんだそれ?」


出所って事はこの棒が王宮から持ち出されたって事だよね。


「オマエはオレが勇者が王宮から持ってきた物だと知っている。だけど、ここに放置されてみろ。変な喋る棒が転がっているんだぜ。お前なら近づくか?」


なるほど、確かに出所も知れない喋る棒が転がっていても、よっぽどのことが無い限り近づきたくないな。気味が悪い。


「こんな場所じゃ人だって通らないだろう?」


「少しは有るよ。んじゃなきゃここで商売なんてしないよ。」


表通りで営業出来れば良いのだけど、表通りでは場所を借りるのには高いお金が要るから、稼ぎよりショバ代の方が高くついてしまう。だから、なるべく人通りの多い裏路地を選んでいるのだけど、それを否定されちゃいたたまれない。


「それでも出会いは少ない。違うか?変な奴に拾われたらオレはゴミ箱行きだ。オレはスライムの(エサ)になるなんてまっぴらゴメンだぜ。それに少ない出会いの中で多分お前が一番オレを優遇(ゆうぐう)してくれる。なんせオマエはオレが王宮から来た棒だって知っているからな。」


王宮の宝箱に入っていれば大事にしてもらえたかも知れないけれど、道端に落ちていた薄気味悪い木の棒ならいつ捨てられてもおかしくないって事か。


「それにな、王宮占い師の婆さんの『ギフト』は運命を観る事だ。人と人に繋がる運命の糸。そいつを見る事が出来るらしい。だからオレはお前の所に来た。」


運命の占い師とか王宮の占い師はすごいな。絶対、儲けられる『ギフト』だ。ボクの『ギフト』と交換してほしい。


「だから頼むよ。連れて行ってくれ。」


「解かったよ。持って行くだけで良いんだな。」


胡散臭い棒だけど特にデメリットもなさそうだし、これでお金が稼げるなら儲けものだよね。


「おう!ありがとう!相棒!」


棒から女の子のような嬉しそうな声が響く。



それにしても、棒に相棒って呼ばれるのは変な気分だな。



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次回:役に立たない『ギフト』



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