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裏切り

第11章:魔王だって助けたいんだ。

--『裏切り』--


あらすじ:木の上から魔族が降ってきた。

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「浄化の魔法は止めてくれ。そいつはオレの仲間だ。」


ヴァロアがアグドのタンコブに浄化と治癒の魔法をかけたあと、落ちて気絶した魔族にも同じように魔法陣を浮かべて魔族のリーダーのアルッタに止められた。


ボクだったら怖くて近づくのも嫌だけど、魔族の優しく頭を支えて撫でてタンコブの位置を探していた献身的な彼女が気を悪くしないかとハラハラする。二人とも悪気はないんだよ。


「でっかいタンコブッス。浄化の魔法をかけないと、中に溜まった血を巻き込んでしまうッスよ。」


怪我をした時は必ず浄化の魔法と組み合わせて治癒の魔法を使う。浄化の魔法を使わずに治癒の魔法を使うと砂やゴミを巻き込んでしまって、かえって悪くしてしまうんだ。タンコブを作った時は、皮膚の下で血を流している事が多くて、溜まった血が原因で死ぬこともあるらしい。


「浄化の魔法はオレ達の体調を悪くするんだ。」


浄化の魔法は女神様から人間が授かった物で人間以外に使うと体調を悪くする。昔、白い姫様に頼まれて彼女に浄化の魔法をかけた事があったけれど、5日も寝込んでしまったんだ。あの時は生きた心地がしなかったよ。


「オレ達は人間よりも丈夫なんだ。そっとしておけばすぐに治るさ。」


魔族は治癒や浄化の魔法が使えない代わりに人間より体が強くて早く怪我が治るらしい。まぁ、

魔獣のうようよいる魔王の森で5日も寝込む訳にはいかないから、ヴァロアだって解ってくれるよね。


ちゃんと理由を話したら優しい彼女は気を悪くせずに納得してくれて、代わりにアグドを縄でぐるぐる巻きにしはじめた。うん。治癒の魔法をかけたから、目を覚ます前に暴れないように縛っておこうね。目隠しもして魔法も使えなくしておこう。


「もうひとりの木の上にいた人も大丈夫ッスか?」


「気付いていたのか?」


「赤い光が通った後に枝の軋む音が聞こえたッス。それに魔王の記憶の中で呼んだ名前は6人分だったッス。」


観念したようにアルッタが手を振ると、少し離れた木の上からもう一組の魔族がが現れた。魔族の方は無表情だったけれど、連れている魔獣は気分が悪そうにして尻尾を丸めている。ネマル様の魔晶石の赤い光で怖くなったみたいだ。


「あの轟音の中で気付くとは人間は凄いな。」


「吟遊詩人ッスからね。」


ヴァロアがブルベリを見せてエヘンと胸を張るけれど、吟遊詩人の皆ができる事じゃ無いよね。たぶん。


隠れていた魔族の2人は、アルッタたちに何か有れば魔王城に報告に戻る役目を持っていたみたいだ。アルッタは言わなかったけれど、もしも、ボク達が変な動きをしていたなら不意を突いて襲われていたかもね。


ヴァロアの指摘に素直に出てきたのはボク達を信用してくれたからなのかな。


アルッタたちの知りたいことは伝えたから軽い雑談をして、ボク達は四本腕の魔獣に盗られそうになった食料を集めた。リュックサックとハンモックとカプリオにもくくりつけたて詰められるだけ詰めたから帰りに飢える事もないと思う。


「それじゃあ、ボク達はそろそろ街に戻ろうか。」


魔族の人たちも食べ物集めを協力してくれて、人間の食べ物に興味を持ってくれていた。味の濃い食べ物を好む彼らには人間の食べ物は薄味で変な顔をしていたけれど、お互いそれを笑えるくらい和やかな時間だった。


アグドが目を覚ました時は少し騒ぎになったけどね。


「そッスね。」


急がないと日が暮れる。赤い魔晶石の力を知った今では魔王の森でも不安は減ったけれど、野宿をする回数は減らしたい。ハンモックも悪くはないけれど、できればベッドで体を伸ばして寝たいよね。


「おう、悪かったな。今度は人間の酒を奢るぜ。」


アグドも短い時間で魔族の人と仲良くなれた。喧嘩っ早い性格を直してくれれば愛想も良くて良い人なんだけどな。いや、少し慣れ慣れしすぎるかな。


「手伝ってくれてありがとう。魔王様にもよろしくお伝えください。」


ボクはアルッタに別れを告げる。


人間の軍隊が魔王の城へ攻め込もうとしていたと伝言するのは止めた。せっかくの和やかな雰囲気が壊れてしまいそうだし、魔樹が貯めていた魔力をどうにかすれば魔王の森が広がる事を防げるのだから、もう、人間は魔王の城へと攻めて行かないよね。


このまま良い雰囲気で離れられたら、お互いに平和だよね。


「ああ、悪いがヒョーリ達には魔王の城まで来てもらうぜ。」


魔族の6人は槍を構え、ボク達に緊張が走る。


ボクは白い腕輪の赤い魔晶石に魔力を流そうとするけれど、すっかり魔族に気を許していたアグドの背筋にぴったりと白い刃が当てられて止まる。


「諦めろ。赤い光はもう通じない。」


赤い魔晶石が光れば怖い思いはするけれど、それはただのコケ脅しで実際に怪我をするわけでも、本物のネマル様が現れる訳でも無い。アルッタたちはもう知っているから少し我慢すればボク達を襲う事ができる。


赤い光で怯ませて、黒いもくもくで隠れて、距離ができれば緑の膜で守られる。そうすれば倍の数の魔族からも逃げられるとジルと考えていたんだ。


「どうして?」


和やかな雰囲気だった彼らがボク達に槍を向ける理由が解らない。ボクはまだ、ボク達が魔王の森にいた理由を話してないよね。


「魔王様の記憶を覗けるヤツを野放しにできると思うか?」


実際には、プロテクトがかかっていたり、ヤイヤさんが許してくれなければ記憶の本を見る事はできないけれど、それでも彼らには通じなかった。


魔王の記憶を見る事ができれば、魔族の人たちの重要な秘密を知る事ができるかも知れない。些細なことが人間に有利になるかもしれない。彼らはそれを心配していた。


「ボクは、そんな事に使わないよ!」


「悪いが、判断はオレがするんじゃない。」


「せめて、ヴァロアとアグドだけでもニシジオリの街に戻してあげて。」


ボクなら赤い光で魔王の森を抜けられる。それに、魔王の城には白い姫様やアンベワリィにセナと知り合いがいる。だけど、ヴァロアとアグドは怖い思いをするかもしれない。


「そいつの耳飾りが必要なんだろ?」


そう言えば、今回はヴァロアの耳飾りに付いた魔晶石を使ってヤイヤさんにお願いしたんだ。ボクの腕輪の水色の魔晶石が同じだと思ってないのかもしれない。


「大丈夫っス。自分は魔王の城に行ってみたいッス。」


ヴァロアは歌の種になると朗らかに笑うけれど、ボクが彼女を巻き込んだようにしか思えない。だって、ボクに着いて来なければ彼女は魔王の森に来る事も無かったんだよ。


「ん?オレか?オレはヒョーリの護衛なんだし、オマエが行くならオレもいくぞ。」


目配せをして助けを求めたアグドにも裏切られた。彼にはヴァロアを連れて帰ってもらいたかったのに。


そして、どうせニシジオリの街に戻っても知り合いもいない。それどころか護衛の仕事を放棄したと知られたらツルガルの国にも戻れない。最後までボクに着いてくるつもりだと言い放つ。


そう思うなら、魔族の人たちが槍を構える前に助けて欲しかったけれど、魔族を信じてアグドを言い含めたのはボク達だ。あまり彼を攻める事はできない。


「それに、おまえたちが森にいた理由も聞いてないからな。」


アルッタは最後に、ボクが言わないように気を付けていた事を呟いた。



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次回:招かれる『魔王の部屋』



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