安心
第11章:魔王だって助けたいんだ。
--『安心』--
あらすじ:魔王の森は魔樹から溢れた魔力で広がっていた。
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魔王の森が急激に広がる原因を知って、ボクは少し安心した。
魔王が森を操っているわけじゃないんだよね。魔王を助けても大丈夫なんだよね。人間は魔王が森を操っていると考えているし、ボクもずっとそうだと信じていた。だから、魔王を助けても良いのかと迷う時があった。
信じたくないけれど、白い姫様の言葉が嘘だったかも知れなかったんだ。
だけど、魔樹が貯めていた魔力が溢れたことが原因なら、魔法使いウルセブ様なら何とかしてくれるかもしれない。ボクには理解できない事だけど、『魔断の戦車』や魔道具の魔獣、アラスカを作れるんだから、魔力を減らす道具ぐらい作れるんじゃないかな。
そうすれば、人間と魔族は争わなくて済むんだよね。
少しだけ見えた希望にボクが耽っている間も、魔族のリーダーのアルッタとヴァロアの話は続いていた。
「黒い雨は解ったけど、赤い光の方も知っているんだろ?」
アルッタたちのチームは赤い光の源を探してボクたちの所に来たからね。赤い光の原因を知っているとは思っていたみたいだけど、黒い雨の理由を知っていたのは意外だったらしい。もしかすると余計な事をしてしまったのかな。
「それはネマル様の御加護ッス。」
ヴァロアはボクの左手を取ってアルッタに白い腕輪を自慢気に見せた。
いやいやいや、別に腕輪を見せなくても良かったんじゃない?赤魔晶石があれば魔獣を近づける事なく魔王の森を出られるんだ。腕輪が無くなったらボク達は帰る事が難しくなるよね。
ボク以外には使えない腕輪だけど、それを知らないアルッタが欲しがるかもしれない。ボクの『ギフト』は知られているからヴァロアの『ギフト』だとでも嘘を言っておけば良かったのに。
「ふむ、強力な魔力を含んだ魔晶石だな。これが赤い光を…おお、これは魔王様の魔力。姫様の石まであるのか。」
アルッタは赤い魔晶石よりも黒い魔晶石と白い魔晶石を見て驚いていた。彼は赤いドラゴンを見たことないのかも知れない。ネマル様は白い姫様の事を知っていたから、もしかすると魔王の城に訪れているのかとも思ったんだけど。
「黒い雨の翌日、四本腕の魔獣の群れに襲われたッス。それを追い払うためにネマル様に助けを求めたッス。」
「四本腕と言えば、魔樹の近くで暮らしていた魔獣か?」
「細かいことは知らないッス。自分はこの森に入るのは初めてッスから、どれも初めて会う魔獣ばかりッス。」
いや、ヴァロアじゃなくても、どこにどんな魔獣が住んでいるなんて知らないよね。人間が魔王の森に入ることなんて滅多にないんだ。
でも、ジルを人間に戻すためには魔樹の所まで行かなきゃならないんだよね。そうしたらまた四本腕の魔獣と会うことになるのかな?
詳しく聞こうとしたところで、アグドの呻きが大きくなった。気絶から目を覚ましたみたいで、みんなで注目すると彼は起きて頭を振った。
「う、ここはどこだ?」
「大丈夫か?」
「ま、魔族!!?」
森を警戒していてアグドに一番近い魔族が彼を心配して問いかけると、アグドは腰のナイフに手を掛けながら、2色の魔力の光を目に宿した。
そう言えば、アグドが気絶してから魔族の人たちが現れたんだっけ。今、彼に魔族の人を攻撃されたら、今の雰囲気が水の泡になる。
ゴチン。
アグドを止めるより早く、大きな音を鳴らして魔族は槍の石鎚の一発で彼を再び気絶させた。痛そうな音がしてたから、アグドの頭にタンコブができたかもしれない。
「器用な人間だな。2系統の魔法とナイフの3つを同時に使おうとしていたぞ。うん。」
魔族がしどろもどろにアグドを褒めるけど、あまり嬉しくない。3つの動作を同時にするよりも先に、ボク達が魔族と話し合いをしていることを観察して欲しかったかな。
アグドがタンコブを作ったけれど、一歩間違えれば彼が魔族を傷付けていたかもしれない。ボク達は目をあわせてタメ息を吐き、そして、今の出来事を無かった事にした。
「話は戻るが、その、赤い光を見せてもらっても良いか?」
「うん。あの、怖い思いをするみたいだから、気を付けてね。」
赤い光を浴びたヴァロアは『もう浴びたくない』と涙を流して振るえていた。今もビクンと体を震わせてボクの腕にしがみつくくらい怖がっている。
「ふん。調査隊とは言えオレ達は森に入る事を許される程度には鍛えているのだぞ。マブル。試しに浴びてみろ。」
「え、オレですか?いや、まあオレも気になるから良いですけど。」
アルッタは大丈夫だと言いつつも、アグドに手を貸そうとしてくれた魔族に命令する。
万が一、赤い光に害があった時にボク達をどうするか判断する人が残るようにとの配慮みたいだ。赤い光を遠くから見た時は怖いとも感じなかった事、ヴァロアが無事だった事、なにより四本腕の魔獣の魔石が残ってない事を理由に挙げ言い訳をしていた。
「えっと、あの、やっても良いですか?」
「ああ、頼む。」
たぶん、最初に現れる赤い膜の中にいれば赤い光の効果を受けないよね。幌馬車で試した時は赤い膜の中にいたヴァロアもアグドも怖い思いをしてなかったからね。それで効果を知るのも遅れたのだけど。
ボクは白い腕輪を見せながら赤い魔晶石に魔力を流した。赤い膜が広がって、ボクと隣にいたヴァロアを包み、近寄ってもらったカプリオと魔族の3人、それに彼らの魔獣を入れていく。
どれくらい入れられるのかな。
四本腕の魔獣を追い払った時はボクとジルだけを包むだけだったけど、幌馬車で試した時は並走していた2羽のビスも入るくらい大きな膜を作っていた。
だけど、四本腕の魔獣に囲まれた時は、ヴァロアとアグドを膜の中に入れる事ができなくて、彼らに怖い思いをさせてしまった。
「確かにオレ達が見たのはこの色の光だ。」
悩みながら作った赤い膜を見上げたアルッタが手を伸ばすと、赤い膜はシャボン玉のように弾けて轟っと大きな音を立てて赤い光を走らせる。
「くっ。…思ったより堪えるな。」
赤い膜の中にいた魔族も魔獣も変わりないけれど、光を浴びたマブルと呼ばれた魔族の顔色は悪くなっていた。魔族だから解りにくいけれど、食いしばった歯はギリギリと鳴り寄り添っていた魔獣も丸くなって尻尾を隠していた。
やっぱり赤いドラゴンに威嚇されたように感じているのかな。訓練をしているからか膝をついただけで留まっている。怖くても逃げられない兵士さんなら、誰かを守るために赤いドラゴンにも立ち向かう必要もあるんだよね。
赤い魔晶石を使っても、兵士さんは魔獣みたいに逃げないかもしれない。
「ううう…。」
気絶しているアグドにも光が当たっていて唸り声をあげる。考える事が多すぎて彼を膜の中に入れるのを忘れていたんだ。失敗を取り消そうとアグドの様子を窺うために近寄ると、彼の頭の上からガサガサと音が鳴った。
空を埋め尽くす森の葉の隙間に黒い筋が入った長い尻尾が垂れている。
「魔獣!」
背中を通る黒い鬣が尻尾にまで続いている魔獣は珍しくない。何より魔王の森にいるんだから魔獣だと断定できる。
魔族の人たちと話している間に別の魔獣が近づいていた?いや、ボクなら魔獣が逃げるような場所は避けるし、魔族の人たちがずっと見張っていた。こんなところに居るはずがない。
いや、今は悠長に考えている暇も無い。
魔獣なら逃げないと!
そう思いながらも足を動かせないボクの耳に知らない声の悲鳴が聞こえた。それも、魔獣の方から。
「く、ダメだ。もう、腕が…うわあああ!」
尻尾がするりと滑り落ち、魔獣に引きずられて黒い塊が降ってくる。
ゴツン。
タンコブの数が増えたかもしれない。
そこにはアグドと頭をぶつけた魔族が転がっていた。
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次回:アグドの『裏切り』




