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白い刃

第11章:魔王だって助けたいんだ。

--『白い刃』--


あらすじ:首筋に白い刃が押し当てられた。

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ボクの首筋に当てられた白い刃の持ち主が知りたくて振り返ろうとすると、「動くな!」という声といっしょに鋭い刃はボクの肌を強く押した。


押し込まれた刃がツプリとボクの首の皮膚を割く。


白い魔獣の骨を削った刃がこんなに冷たいとは思わなかった。


死ぬとぐずぐずと崩れてしまう魔獣を利用する事は難しくて、人間では一部の人しか使えない。それも体の表側にある皮を使えるだけで、骨で武器を作るなんて聞いたことが無い。


だから、魔獣の骨を武器として使うのは、魔族。


魔王の森の向こうがわ、魔王の治める国に住む魔族なんだ。


口を開いただけで白い刃は奥深くへと刺さりそうなので、ボクは両手を挙げて歯向かうつもりがないことを示した。ヴァロアも悔しそうにしながらも同じように手を挙げてくれる。


「自分が居ながら…申し訳ないッス。」


しょんぼりとするヴァロアは耳が良い。調子が良ければ、いくら魔王の森の中とは言え刃が首筋に当てられるほど近づく前に気が付いていたんだと思う。彼女はここに居もしない赤いドラゴンの殺気に負けて調子を崩した事を後悔しているみたいだ。


でも、ネマル様の殺気だからね。


ボク達は赤いドラゴンのネマル様と、黒いドラゴンのソンドシタ様の姉弟喧嘩を見たんだ。空を舞って炎の息を撒き散らす2人の喧嘩は恐ろしくて、とても人間なんかが太刀打ちできそうじゃなかった。


殺気と言われてもピンとこないけど、ネマル様が目の前でいきなり威嚇のために吠えたらボクもアグドみたいに気を失っていたんじゃないかな。それに、ネマル様がここに居なくても、あのブレスを思い出すだけで体が縮こまる。


ヴァロアだって心の準備をしていればしていればこんな泣かなくても済んだんだと思う。不意打ちで脅されたような物だから仕方ないよね。いくら助けるためだとは言え、赤い魔晶石を使うと決めたのはボクなんだ。


「おとなしくしろよ。」


手を挙げたヴァロアが体の力を抜くと、近くの木の陰から3人の魔族が魔獣に乗って白い槍を構えて出て来た。慣れたと思っていた魔族の顔も久しぶりに見ると怖い。動けば血が出そうだから振り返れないけれど、ボクに刃を向けている魔族もきっと怖い顔をしているんだよね。


そして、まごまごしている間に増えた魔族の槍がヴァロアにカプリオ、まだうなされているアグドにまで向けられた。緊張する雰囲気の中、ポコポコという音間の抜けた音がボコボコになりがグツグツと変わっていく。


「ん?鍋?これは最新式の魔導鍋じゃないか?」


お湯が沸いてぐつぐつと音を鳴らす白い鍋に目をやった魔族が驚く。そう言えば、鍋をくれた白い姫様は『鍋にするなんて初めてだ』と言われたんだっけ。


「この模様は見覚えがある。魔族の街で作られている物を、どうして人間が持っている?どうやって手に入れた?」


ただの黄みがかった白い鍋なら人間が作った物と考えたけれど、縁に描かれた赤い模様は魔族特有の物らしい。人間と交流の無い魔族の国で作られた鍋を人間が持っているのはおかしいと彼は不審に思ったみたいだ。


「あの、姫様に…。」


確か人間の街でも陶器で白い鍋が有ったはずだ。だけど、陶器は割れてしまうし旅で持ち歩くには重い。それに比べたら、火を使わずに調理できるこの鍋は軽くて丈夫で雨の中でも使えるし、焚き木を集める必要もない。木の少ないツルガルでも活躍した自慢の品だ。


隠す必要も無いと素直に答えると、ボクの顔を覗き込んだ魔族が驚いて首にかかる刃の圧が緩まった。


「まさか、おまえはアンベワリィが飼っていた人間か?」


飼っていたと言われるとペットのようで嫌だったけど、アンベワリィにお世話になっていたのは間違いがない。それに今は命がかかっている。ボクは黙って頷くと刃は首を離れて空を向いた。


「あ~、あの食堂で占いをしていた人間か。確かにこんな顔をしていたよな。」


「あの時は助かったよ。オレの母ちゃん怒るとおっかなくてさ。」


よく見ると占いで助かったという魔族の右の角の先が欠けていた。たしか、ボクが小さいからと、しょっぱい魔族の料理をいつもやたら食べさせたがって世話を焼いてくれた魔族だ。たぶん。


いや、魔族によって毛並みや角なんかが違うけど、人間と違って見分けがつきにくいんだ。名前も教えてもらわなかったし、しょっぱい料理を食べて顔をしかめるボクを面白がっていた魔族の名前をボクも聞かなかった。他にもたくさんの魔族がいたからね。覚えきれなかったんだ。


「でも、魔王様を殺す手引きをしたんだろ?」


「バーカ。あれは勇者ってヤツが勝手にやったんだよ。聞いてないのか?」


「まあ、コイツなら怖くねえよ。薪割りにだって苦労していたんだぜ。」


誰も来ないと思っていたアンベワリィの食堂裏の薪割り場だけど、人間のボクが珍しいらしくて、上の階から覗き見していた人が思った以上に多かったみたいだ。


念のために言っておくけど、魔族の斧が大きすぎて使えなくて、剣で割ろうとしていたから大変だったんだよ。


それに、剣で薪を割るのは意外と難しい。斧と違って先端の方に重りが無いから四苦八苦して、剣の先端を重くしたり振り方を変えたりと工夫をしていたんだ。きっとその時のボクを見たのであって、ボクだって普通に剣を振る事くらいはできるんだ。


剣の上手いヴァロアなら薪も簡単に割ってしまうけど。


「あ、自分も聞いていいッスか!アンベワリィさんの食堂での話を詳しく聞きたいッス。兄さんは魔族からどういう風に見られてたッスか?」


「なんだ、お前は?」


目を輝かせたヴァロアが手を挙げると魔族達はきょとんと眼を丸くする。緊張が解けたとはいえ、穂先が出たままの槍の間を抜けてヴァロアはブルベリを拾って笑った。


「自分は吟遊詩人ッス。新しい歌を作るのが目的ッス。魔族に伝わる歌も聞きたいッス。」


和んできた空気が変わって、魔族の人たちの口もぽかんと開く。いやいやいや、今はそんな場合じゃ無いよね。質問とかしなくて良いからね。ボクの隠していた失敗がバレちゃう。


「まあ、待て。昔話の前にオレ達の用事を終わらせてもらうぜ。」


ボクに槍を向けていた魔族のリーダーだという人はボクを座らせた。ヴァロアも黙ってボクの横に並んだ。硬い顔の魔族のリーダーに比べてヴァロアはどんな話が聞けるのかとワクワクしているけど、ボクは気が気じゃない。


「オレ達は森の魔力の流れが急激に変わった原因の調査を命じられてここに来た。簡単な調査だと来てみれば、不思議な事ばかり起きて理解が追い付かない。」


昨日の昼過ぎボク達が空に魔王を見た頃に、魔族の人たちには『強すぎる共感する力』が逆流して苦しむ魔王の声が聞こえたそうだ。苦しみながらも魔王の森にいる彼らを心配していたらしい。


手助けが必要かと思い声のする方向へと向かうと、黒い雨が降り出して魔王の声は聞こえなくなった。


不安のまま一夜を過ごし黒い雨の調査をしていると、今度は彼らを今度は赤い光が目に入った。それも2回。木々に遮られて弱まっていた赤い光に恐怖を感じたけれど、それこそが魔王を苦しめた原因かも知れないと光の源を探した。


せめて起こった事を知らなければならない。


今、魔王の森にいるのは自分達だけだ。


決死の覚悟で赤い光の出所を目指すと、周囲への警戒もしないで休憩しているボク達を見つけた。動きが緩慢で周囲への警戒をしていない。調査のための部隊はそれほど強くないけれど、今なら首を狙う事ができる。先手を取れば犠牲を出さずに何か解るかもしれない。


魔王を苦しめた原因を。


魔族のリーダが聞く。


「いったい何があったんだ?」



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次回:答えられない『質問』



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