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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第2章:書類整理だけをしていたかったんだ。
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侍女

--侍女--


あらすじ:こんなに良い仕事場って無いよね。

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図書館の入り口を護っている衛兵さんと挨拶をして中に入ると本の持つ独特の香りがする。トイレに行きたくなる不思議な香りだ。


本の香りを掃き出せるように、図書館の窓を全部開けて掃除を始める。他に人なんて居ないから埃が口から入らないように布を巻いて準備をすると、風の魔法で一(あお)ぎして床に舞い落ちた埃を(ほうき)で丁寧に集めるんだ。


(毎日やっているけど、室内でやる掃除方法じゃねぇよな。)


窓から入る陽の光にきらきらと反射する埃を見ながらジルが言った。この街の家だと室内の食べ物とかに埃がかかってしまうのを嫌がって、風の魔法で掃除をすることが少ないみたいだ。それに、室外でする時と同じように風の魔法を使使ってしまうと自分も埃を吸ってしまう。


(そう?ボクの田舎だとみんなやっているし、誰も居ないならこの方が早いんだよ。)


虫除けの魔法と同じ要領で、自分の方に埃が来ないように強めにするのがコツだ。ボクの田舎では良くやっていたのだけど、煙突なんかの汚れの(ひど)い所をする時はもう少し気を付けなければならない。


(大掃除の時くらいしかやらないかな。まとめてやるから埃がすごいんだ。)


(少しずつやれば、そんなに溜まらないよ。)


図書館も最初に掃除をした時は煙突の掃除をする時くらいに埃が舞ったけど、毎日やっていれば少しずつ舞い散る埃の量も減ってくる。


埃をまとめて、ゴミ箱に捨てて仕上げに浄化の魔法をかけてやる。埃の量が多いと浄化の魔法が効かないのは何でだろう?浄化の魔法だけで済めば埃を吸い込むことなんて気にしないで掃除ができるのに。いちいちゴミ箱のスライムに食べさせなきゃならないんだよね。


掃除を終えたら資料整理を始める。昨日の続きから棚を見て間違って入り込んだ資料を探していくんだ。ボクの前に図書館の整理をしていたメイドさんが資料を整理してまとめてあるので、見つけた資料を元の場所に戻していけば良いんだよね。


また使われるかも解らない資料を戻していく作業は、無駄な事をしている気分にもなるけれど、次に探す時の事を考えると、やる気が出てくる。まぁ、ボクには『失せ物問い』が有るから探すのには苦労しないんだけど。


それに、他の人が居ない室内でジルと2人で話しながら気ままに出来るので楽しいし、資料についてあれこれ話せば話のネタは尽きる事はない。何より、ご飯の心配もしないで良い。


時々来るお貴族様も、ここに来るのは同じ若い人が使い走りに来ることが多いので、少しづつ慣れてきた。


「おはよ~!」


ジルと2人きりで『小さな内緒話』をしていた静かな図書館に大きな声が響き渡る。第一王女様付きの侍女、カナンナさんだ。


「相変わらず静かだね。耳が痛くならない?」


「おはよう。カナンナさん。窓を開けていると耳も痛くならないですよ。」


図書館の静かな雰囲気と冷たい空気は耳を痛くすることが有ったけど、窓を開けて暖かい空気が流れるとそんな事も気にならない。


「そんなもんかな?前はここに来るのが嫌だったけど、ヒョーリが来てから嫌じゃなくなったし、そんなもんかもね。それじゃコレ返しておいてね。」


と言うと1冊の本を渡して来る。『ナンギ物語』。別にカナンナさんが読んでいたワケではない。彼女の仕えている王女様が読んでいて、王女様付きの彼女は返却をしに来ているだけなんだ。王女様は読書が好きらしく、カナンナさんはほとんど毎日新しい本を借りに来ている。


「次の本は要るの?」


「今度は『ハバカリサン』って題名の物語みたいなんだけど、場所は判る?」


カナンナさんの言葉に、『失せ物問い』の妖精が囁く。


「うん。すぐに持ってくるよ。」


「よろしく~!んじゃ、私はお茶を淹れて来るからね。」


そう言うと、彼女はエプロンドレスの裾を(ひるがえ)して給仕室に入って行く。図書館には秘密の相談をする時のために立派な応接間や会議室もあるから給仕室が有ってお茶の道具くらいは有るんだよね。そして、いくつかある部屋の中でもカナンナさんのお気に入りはバルコニーだ。天気のいい日はお茶を淹れてしばらくのんびり庭を見ている。


王女様に付いてなきゃならない侍女がそんなにのんびりしいて良いはずはないんだけど、本来なら彼女が大きな図書館から1冊の本を探すハズだった時間をボクが短くしてしまったので、彼女はその時間を使ってここでお茶を飲むようになってしまった。


ボクが来る前はお茶が3杯も飲めるくらいの時間を使って本を探していたんだから、少しくらい王女様の元を離れていても問題ないらしい。


要するにサボっているのだ。


カナンナさんが給仕室に消えると、また図書館の扉が開いた。いつも来る若い貴族様かと思って振り返るとそこには老齢な男の人が入って来ていて、立ち止まりもしないで話しかけてきた。


「お前がホンコトが新しく雇った司書か?ちょうどいい、シモトク村の税金と風土の資料、あと村長についての調査報告書が有るはずだから探してきて欲しい。私は向こうで別の資料を探して来るから頼んだぞ。」


男の人はボクの挨拶も聞かずに早口でまくし立てると行ってしまった。白い髭を(たくわ)えていて服装を見ると黒い紫がかった布地にさりげなく金糸で刺繍がしてある。始めて見る人だけど、上質の衣装から察するに、とても偉い人なのだろう。


まぁ、ボクの挨拶も返事も聞かずに行ってしまったから他に何かできる事もなく、言われたものを用意しよう。今から挨拶に行くと怒られそうだし、資料を見つけてから挨拶すればいいよね。


一応、まだ冒険者ギルドを通しての依頼だけど、そんな事は貴族の人にはどうだっていいことかもしれないし、ボクの名前だってどうでも良いことかもしれない。


(ジル、問い直ししてもらえるかな?)


(なんだ、聞き漏らしたのか?)


(はじめての人だったから挨拶しなきゃと焦ってたんだよ。返事をする前に行ってしまったけど。)


ジルの非難の声に言い訳をする。『失せ物問い』の妖精は囁いていたけど、歩みを止める事もない男の早口にあっけに取られてしまって聞き漏らしていたのだ。忙しそうな貴族様に聞き直すのは怖いのでジルが居てくれて助かった。


(まぁ、良いけどな。アイツはいつも(せわ)しないしな。とりあえず問い直すぞ、シモトク村の税金の資料はどこだ?)


ジルの声に『失せ物問い』の妖精が囁く。


(ありがとう、助かったよ。知っている人なの?)


(占い師の婆さんの所にも良く来ていたんだよ。いつもお茶を淹れる間もなく帰ってしまうけどな。)


どうやら占い師のお婆さんに政治的な質問をすることが多かったそうだ。例えば、外交先の国に誰を派遣するのが良いかとか、どの騎士をどの部署に配置すれば良いのか、人と人との繋がりを視れる運命の占い師ならではの仕事だね。


(それで、「あいつが勇者で良いのか?」と聞いたアイツに婆さんが、「魔王と縁があるようだから、詳しく占ってあげよう。」と普通の占いもしようとしたんだけど、アイツってば「それだけで十分だ。」と言って座りもしないで帰って行ったんだぜ。)


さっきの男の人の資料を探しながらジルにエピソードを教えてもらう。いくつかのエピソードを教えてくれたけど、最初は誰と交渉するのが良いのかしっかり占いを聞いていた男の人もだんだんと聞く時間が短くなっていって、最後の勇者様の時には二言で終わってしまったらしい。


本当に忙しない人だ。


(そうだ、あの人の名前ってなんて言うの?)


ジルの話を聞いている間に言われた資料を見つけたんだけど、真剣な表情で棚を探している男の人に声を掛けづらくて、ジルに聞いた。だって、偉そうな人なんだよ。適当に呼びかけられないじゃないか。


(ん、ああ、名前か。ドゴで良いと思うが。)


(ありがとう。)


名前で声を掛ければ話しかけやすいよね。


「あの、ドゴ様。お探しの資料を集めてまいりました。」


「ああ、ありがとう。そこに置いて…、いや、去年の税金の個所と、村長についての報告書を読み上げてくれないか?手が離せなくてね。」


ドゴ様は棚の資料を探す手を止めずに言った。



まぁ、読むだけだし、良いよね。



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次回:資料だけで済まなかった『朗読』



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