木箱
第11章:魔王だって助けたいんだ。
--『木箱』--
あらすじ:木にぶら下がった食べ物の入った木箱を見つけた。
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辺りを見回すと成長した木々に食べ物を入れた箱がぶら下がっている。たくさんの兵隊さんたちを賄うための食べ物を積んだ馬車が木々の成長で吹き飛ばされたみたいだ。馬車の車輪や破片が更に高い位置に引っかかっていたから、もっと高くまで。飛ばされたんじゃないかな。
「オレならラクショーで取れるぜ。」
アグドがずいっと前へ出る。箱を落とせば食べ物を手に入れる事ができる。昨日、カプリオに乗ったヴァロアが剣で枝ごと落とした時と同じようにすれば、簡単に手に入るし、アグドに『ふわふわりんりん』を使ってもらえば箱を壊す事も無い。
アグドの『ギフト』は元々、アズマシイ様から落ちる人を助けるために使われていたし、万が一落としてしまったとしても、もさもさと下草が茂っているので箱が壊れる事も少ない。
ここにたくさんの食べ物が残っていたので、勇者アンクスといっしょに逃げた兵隊さんたちの分が心配になったけれど、危険を冒してまで戻ってくる事も無いと思う。確か補給の馬車が来るはずだったから、上手くすればその馬車の食べ物を手に入れられるはず。
それよりも、ボクの小さなリュックだけじゃ運べる量が少ないよね。馬車には重ねるために箱か樽で積まれていたので袋が無い。あっても持ち手の無いずた袋で持ち運ぶのには使いにくい。荷物が増えるから何か運びやすい入れる物があれば助かるのだけど。
「昨日使ったハンモックを加工したらどうッスか?」
広い布に吊るすための紐が付いたハンモックなら食べ物をぐるぐる巻きにして背負う事ができる。少し大きいけれど、紐があるかないかで便利さが変わるからね。それに、昨日拾ったハンモックの他に、幌馬車に積んであった自分たちのハンモックも手に入れる事ができていた。
カプリオに背負ってもらえば森を出るまで困らない量を運べるよね。
それに、探せば兵隊さんたちの使っていた分もあるだろうから、失敗しても困らないかな。どこかに針と糸も無かったかな。あれば便利なんだけど。
「んじゃ、やるぜ!」
「ちょ、森の中で火はダメだよ!!」
荷物に向けたアグドの瞳に魔法陣の明かりが見えたので、ボクは慌てて彼を止める。魔法陣が空中に映し出される前で助かった。両方の瞳に違う色の光が見えたから、彼の得意な『スペシャル★ミラクル★ウインド★ファイヤー!!』だよね。
普通の火や風の魔法と違って威力のある彼の魔法なら当たれば木の箱を地面に落とす事ができるかも知れないけれど、火の魔法を風の魔法で補強して飛ばす魔法だから、燃えやすそうな木の枝や箱に向けて放ったら大変なことになりそう。
「大丈夫だって。枯れた枝も落ち葉も無いだろ。」
魔王の森は生まれ変わったばかりで、地面から生えたばかりの瑞々しい木ばかりで燃え移りそうな木の枝は無い。以前の森を切り拓いた時の木くずだって魔王が現れた時に吹き飛ばされていたし、黒い雨も降って地面もしっとりと濡れている。
こんなに遠くまで黒い雨が降っていたことに改めて驚くけれど、だからって、自分から危険な事をしなくても良いよね。昨日と同じようにカプリオとヴァロアに頼めば済むんだ。
「さっきから肉を焼いた臭いが漂っていて腹が空いてるんだ。さっさとしようぜ。」
アグドの言葉にスンスンと鼻を鳴らすと、雨上がりの土の香りに混じって、うっすらと干し肉の焼けた良い香りがする。
アンクスの記憶の本では見なかったけど、兵士さんの内の誰かがここで肉を焼いて食べたのかもしれない。ここを守っていた兵士さんか料理当番の人だったのかもしれないね。
ボク達も2回も干し肉を炙って食べていたから、お腹が空いた兵士さんが居てもおかしくない。獣道へ向かった人たちと別の方向へ向かった人もいたのかな。魔王の現れた混乱の中なら迷子になってもおかしくないよね。ボクみたいに。
「『スペシャル★ミラクル★ウインド★ファイヤー!!』」
考え事をしている間に無言のボクの態度を了解と受け取ったのか、アグドが今度は止める暇もなく魔法を打ち出した。いやいやいや、雨に濡れているとはいえ、やっぱり森の中で火の球を飛ばすのは怖いよね。
風の魔法で補強された火の玉は箱をぶら下げている木の枝へと吸い込まれて行ってボスンとぶつかる。ボクの心配に気を使ってくれたのか、細い枝の方が落としやすかったのか、アグドは枝を狙ってくれたんだ。
「ぎゃあぁあ!」
安心したボクの耳に濁った悲鳴が聞こえて、大きな2つの影が落ちてきた。最初は食べ物を入れた箱が叫んだのかと思ったけれど、その影は毛むくじゃらな腕で枝を掴んで落ちないように踏ん張っているんだ。
ガサガサと木の枝を揺らす毛むくじゃらはボクの背丈の倍以上の大きさがあって4本の腕を持っていた。上に付いている腕で枝と焦げた干し肉の塊を掴んで、下に付いている腕で落ちそうになった木箱と仲間を掴んでいた。
アグドの火の球で落とされた仲間を助けながらも、食べ物の入った木箱も落とさなかったんだ。
その太い指は硬い木箱を突き破ってしっかりと握られている。木箱の中に何が入っているのか解っているみたいだけど、驚くのはその指の力だ。固い木箱に穴を空けられるなら、人間の腕なんて簡単に捻じ曲げてしまいそうだ。
「なんだこいつ?!」
「しゃあああああ!!」
アグドがドラゴンナイフを抜いて構えると、毛むくじゃらは赤い歯茎を見せて威嚇した。火の玉が当たった方の毛むくじゃらはぶらぶらとぶら下がっていて、背中に一筋の黒い鬣が見えた。魔獣だ。見た事もないけれど、黒い鬣は魔獣に間違いないんだ。
「自分たちが来てから動く音は聞こえなかったッス。」
ヴァロアが剣聖の剣に手を掛けて身構える。
「もしかしてボク達が来る前からいたのかな。」
ボクも『羽化の剣』に手を掛ける。いや、手を掛けたからって使えるとは思えないんだけどね。木の上から4本の太い腕で襲い掛かってこられたら、1本の剣で捌けるとは思えない。人間とは違うし1本の剣相手だって大変なんだよ。
それでも不安で手を掛けずにはいられなかったんだ。
よく見れば魔獣の手にした焦げた干し肉の塊からピンク色の肉が見えていて歯形が付いている。口元が脂で光っているから食事中だったのかもしれない。静かに食事をしていた魔獣のいる所にボク達は入り込んでいたんだ。
ヴァロアの耳で気が付けなかったんだから、ボクたちが来て隠れたんだよね。それなのにアグドの魔法が当たったから怒っているんだ。
「へっ!魔獣の1匹や2匹、なんてことないぜ!『スペシャル★ミラクル★ウインド★ファイヤー!!』」
アグドの火の玉が飛ぶと、4本腕の魔獣は別れて太い腕と尻尾を使って器用に枝から枝へと伝って逃げた。彼の放った火の玉がボンッと木の幹に当たると魔王の森が揺れた。いや、森?アグドの火の玉にそんな威力は無いはずだけど。
「ぎゃああぁぁああ!」
「しゃあああ!」
「ぎゃぎゃあ!」
森が揺れたと思ったら、何十匹もの4本腕の魔獣が生い茂る木の葉の影からぶら下がってきて、威嚇の声を森中に響かせたんだ。
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次回:『4本腕の魔獣』の攻撃。




