進む先
第11章:魔王だって助けたいんだ。
--『進む先』--
あらすじ:兵士さんに見捨てられた。
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「アイツは前にも魔王の森で生き残ったんだ。今回もどうにかするんじゃねえか?」
アンクスの記憶の中で誰かが言った言葉が耳に残る。
見捨てられた。
きっとたぶん、前にも魔王の森から2度も帰ったボクなら大丈夫だという信頼だと思うけど、それでも置いて行かれたと思う気持ちが強くて、アンクスの記憶を見た後にヴァロアとアグドと話をしていても、ボクは暗い闇の中で震えていた。
あの時の助けの声は届いていなかったんだ。
いや、今はカプリオにヴァロアとアグド。それにいつも通り右手にはジルが居る。そう思えるまでに回復したのは眠れないまま森がぼんやりと明るくなってきた頃だった。
そうだよね。たとえ兵士さん達に見捨てられたとしても、ボクには彼らが一緒にいる。まだ、諦める訳にはいかないよね。せめて彼らが後悔しないくらいには頑張らなくちゃ。
とはいえ、これからどうしよう?
「アンクス達と同じ道を辿れば良いんじゃないッスか?魔獣もいないみたいッス。」
夜が明けても薄暗い魔王の森で、ヴァロアが火の魔法で炙った干し肉を水の魔法で飲み込む。彼女の言う通り、アンクスの記憶の中では魔獣に襲われる心配が少なそうだし、獣道とは言え藪を漕いで歩く面倒も無い。カプリオの大きな体を通すための道を作ろうと思ったら大変だものね。
たとえアンクス達に追い付けなくても、一番早く魔王の森を出られるんじゃないかな?
「でも、魔王の城の方が近いんだろ?そこまで行けば食堂のナントカって魔族に助けてもらえないか?」
アグドはすでに干し肉を食べ終えて手持無沙汰にしていた。ナントカって魔族は多分、アンベワリィの事だと思う。旅の途中で、ボクが魔王の城でアンベワリィという魔族にお世話になったことを話していたんだ。そんなに懐かしそうにアンベワリィの事を話していたかな…。
実際、彼女は良い魔族の人だったけど。
だからこそ、あんまり迷惑をかけたくないとも思う。ボクが独りで魔王の城に行って、人間が攻めてくると教えるだけなら魔族の人に負担はかからないけれど、3人でアンベワリィに匿ってもらったりすると彼女の負担になると思う。
魔王がアンクスに倒された時、魔族の人たちは人間を憎んでいたからね。
それに、魔王が生きていたとはいえ、アンベワリィが助けてくれるかも判らない。
「それじゃあ、ボクの村に来る?」
勇者の剣を探しに行った『賢者の居ない遺跡』と呼ばれたカプリオのいた村。彼の居た村はずっと昔に魔王の森に飲み込まれていて、そこなら魔王の城に行くよりも遠いけれど、ニシジオリに戻るよりは早く辿り着ける。
村には荒れてはいるけれど、作物の採れる畑があって沢山いるチロルもいるから食べる物にも困らない。ボクだけだったらチロルを捕まえる事も難しいけれど、アグドの『スペシャル★ミラクル★ウインド★ファイヤー!!』があればなんとかなるよね。
何より、村には魔獣が入れないように結界が張ってあるから安心して眠れる。
だけど、カプリオの村に行こうと思えば、今までの道を外れなければならないし、ニシジオリに戻るにしては遠回りをしなければならない。
少しの相談の結果、まずは再生したばかりの魔王の森を戻ることになった。
まず、魔王の城へは行けないよね。魔獣が残っている危険が高いし、何より人間が攻めてくるまで匿ってくれなんて都合の良いことなんて言えない。
それに昨日、魔王に襲われたばかりだ。魔王の森を拓いたボク達が悪かったのかも知れないけれど、空に浮かんだ魔王の顔は怖かったんだ。
そして、カプリオの村へ行ってもそこからまた魔王の森を歩かなきゃならない。
それに比べて、来た道を戻れば兵士さん達の使っていた馬車があるよね。そこにはたくさんの兵士さん達を賄うはずだった食べ物がある。朝食に干し肉をかじったけれど、昨日手に入れた食べ物は木の箱が壊れていて思ったよりも少なかった。
それに、黒い雨がボク達が切り拓いてきた場所を全部に降ったとは思えないんだよね。上手くすれば途中から『魔断の戦車』のために作った道を歩けるかもしれない。見通しのいい場所なら魔獣にいきなり襲われる心配もないよね。
アグドもカプリオも本気で勧めるつもりはなかったみたいで、すぐに話はまとまった。
壊れてしまったらしい幌馬車の位置は見つからなかったけれど、あの中にはボクのリュックサックが入れてあって、白い姫様に貰った白い鍋も入っている。他の物はともかく、魔道具の白い鍋は珍しいから、きっと『失せ物問い』の妖精が応えてくれると思うんだ。
近いと思っていたけれど、魔獣から安全に眠れるように前線から離れた場所に停めてあった幌馬車に辿り着くまでかなりの時間を使ってしまった。思った以上に茂みが深くて歩くのも大変だったんだ。魔獣が出るかも知れないけれど獣道を行く事も考えた方が良いかもしれない。
「お、あったッス。」
見上げるヴァロアの視線の先には、大きな木に貫かれた幌馬車があった。無数に生えた枝で幌はボロボロに破れていて、車輪は外れて無くなっている。ツルガルへの旅を助けてくれた幌馬車だけど、直せそうもない。
「オマエのリュックは無事だったぞ。」
アグドが『ふわふわりんりん』で足場を作って幌馬車の中身を引っ張り出してくれた。幌馬車の柱吊り下げていた道具は運よく外へ放り出されずに残っていた。ボクの荷物にヴァロアのブルベリ。それにアグドの使っていたビスたちの世話をする道具。
「やっぱりマティちゃん達は居ないッスね。」
ツルガルから連れてきた2羽のビスたちは消えていた。幌馬車の上から辺りを探してみても見つからなかったんだ。
「逃げていてくれれば良いんだけどな。」
呟くアグドの横顔が寂しそうだ。前線でビスに仕事が無いからと、幌馬車の近くで放していたのが悪かった。いや、魔王の森に連れてきたのがそもそもの間違いだったかも知れないけれど、アグドの愛鳥だったし、ニシジオリにはビスの世話を任せられる人がいなかったんだ。
「探そうか?」
たぶん、ボクならマティちゃん達を探す事ができる。『失せ物問い』ならペットは探せるんだ。
「ああ、それよりも先に食い物を探そうぜ。アイツ等を探す前に自分たちが先に飢え死にしちまう。」
しっかりと朝食をたべていたにも関わらずアグドのお腹がぐうと鳴る。
幌馬車は見つかったけれど、その中に積んでいた食べ物が無くなっていたんだ。幌馬車はボク達が寝るのに使っていたから少ししか食べ物を積んでいなかったけれど、幌馬車を突き破った木の幹が乗せていた木箱や樽をどこかに弾き飛ばしてしまったみたいだ。
3人で辺りを探して見たけれど、木箱どころか破片だって見つからない。
「食料を乗せた馬車があったじゃないッスか?アレは見つからないッスか?」
確か、もう少し南の方に兵士さん達全員の食事を賄うために持ってきた馬車が置いてあったはずだ。その馬車も残っていないだろうけど、載せていた食料は幌馬車よりも多いはず。ボクはすぐにジルに頼んで食料の詰まった木の箱を尋ねてもらった。
「あの木の上、あそこに引っかかってるよ。」
食料を入れた木の箱は、生えたばかりの木の上に、まるで果実が生るように散らばっていたんだ。
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次回:鈴生りの『木箱』




