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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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視察

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--視察--


あらすじ:王妃様に『秘密兵器』になれと言われた。

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王妃様の招待を受けてから5日後、ボクは勇者アンクスの隣にいた。


「おい見ろよ。噂の2人が肩を並べているぜ。」

「仲が悪いんじゃなかったの?」

「魔王の城からいっしょに戻ってきたんだろ?」


人の増えた王都で注目を浴びながらボク達は大通りを進んで行く。


ボクはカナンナさんに貰った皮の鎧の上に、立派な刺繍が全面に入った羽織を着て、手にはジルの代わりにゴテゴテとした飾りのついた杖を手にしている。立派な鎧と『勇者の剣』を持つアンクスに見劣りしないようにと着せられたんだ。


本当は、ボクも立派な鎧を着せられそうになったんだけどね。あまりにも重すぎて歩く事さえできなかった。アンクスはこんなものを着て魔王と戦っていたんだよね。凄いと思う。


そして、ボクたちが歩きやすいように騎士の人たちが道を作ってくれるので、後ろにいるカプリオも人ごみを気にせずに歩く事ができる。だけど、出来上がった隊列はとても目立ってしまうから余計に注目を浴びてしまうんだ。


いやいやいや、ワケがわかんないよ。


王妃様がボクに『秘密兵器』になって欲しいと言うから、ジルが詳細を尋ねたけれど、


「『秘密兵器』は秘密だから力になるのよ。」


とワケが判らない言葉で濁されてしまった。少しだけ教えてくれた事はアンクスが使う『破邪の千刃』よりも強い威力を持つものらしい。


ひとつだけ心当たりがあるのは、アンクスが魔王を倒した時に使った『破邪の一閃』。一度見ただけだけど『破邪の千刃』のたくさんの刃を一つにまとめて1枚の強い刃に変えていた。


愛想の無い顔で集まった人に手を振るアンクスの左の腰に下げられた豪華な『勇者の剣』をちらりと覗き見る。自慢じゃないけど、ボクでは『破邪の千刃』の一刃にすら及ばないんじゃないかな。


そのボクが今はアンクスの隣を歩いている。


最初に会った時には腰を抜かして言葉を交わす事さえ難しかったのに。


「おいこっちだ。」


アンクスに連れられてひとつのお店の前に立つ。店先には小麦や野菜が並べられている普通の食料品のお店だ。ボクたちの後ろから図書館で見たことがある若い文官がやってきて、今の物価の上昇をひとつひとつ説明してくれる。


表向きは視察ということになっている。


ボク達2人で街の様子を見て回り、行く先々で文官の人から色々な説明を受けるんだ。


裏では寸劇を催す事になっている。


今、街ではアンクスの『破邪の千刃』が魔王の森を切り拓く事ができなかった事が噂されている。


アンクスの力が疑われているんだ。


『勇者』の称号はたくさんの人たちの祈りを力に変えるから、疑われてしまったら勇者の力が弱まってしまう。


そこで、お芝居をすることになったんだ。


ツルガルからボクが戻ってきた事を知ったアンクスが急いで魔王の森から戻ってきて、力を借りるために街の状況を説明しているという設定なんだ。そのためにわざわざアンクスは魔王の森から呼び戻されたんだ。


そして、ジルはアグドに連れられて、人ごみの中に紛れている。


「おいおい、あんな細腕で大丈夫かよ?」

(あれでも、魔王の城から帰って世界の果てまで行ったんだそうだぜ。)


ジルは人々の疑問を見つけて『小さな内緒話』を使って答えていく。


「あのボロボロの鉄の剣で戦えるの?」

(あのグルコマを勇者にした剣らしいぜ。)


疑問を口にした男が声に振り返っても誰もいない。ジルの姿は見えなくても『小さな内緒話』で囁かれた高い声は耳の残る。答えを知った人はスッキリとして、耳にした答えを自慢げに広めていく。


「ひとり増えた所で魔王の森をどうにかする事ができるのか?」

(詳しくは知らねえが、2人そろったら『秘密兵器』が使えるようになるらしいぜ。)


そうした上で、『秘密兵器』の存在を刷り込んでいくんだ。


何か解らないけれどすごい『秘密兵器』があるって2人が力を合わせれば魔王の森さえも切り拓く事ができると刷り込んでいく。


そして具体的な詳細が判らないから、街の人たちは繰り返し『秘密兵器』の噂をするようになる。他の疑問が解消したように、すぐに『秘密兵器』の答えを知ることができるかと錯覚して。


それも、全てはアンクスの勇者の力を強めるためだ。


『秘密兵器』の噂が流れれば流れるほど、アンクスへの期待も高まる。期待が高まれば勇者の力が強くなって、余計に『秘密兵器』が強くなるそうだ。



ボク達は噂を広げるために街の隅々まで歩いていく。


大通りの他の小さな路地にも入り、最後に辿り着いた狭い裏路地にはスラムができていた。


近くで見ると遠目に見る以上に酷かった。


浄化の魔法があるから臭いは無かったけれど、細い木の枝を集めて柱にして、かき集めた布や毛皮を縫い合わせて壁にしている。中にはチェストもベッドも無く、地面に直接横たわっている老人がいる。


その向こうでは、足を失った男が壁に背を向けて寝ていた。もしかすると、彼は屋根を作る事さえできなかったのかもしれない。


「“オマエと会ったのはここだったな。あの時は何も無かったこの裏路地が今では避難してきた人であふれている。 “」


アンクスは抑揚のない声で喋り、ボクを見てくる。ここはボクが彼と最初に出会った裏路地だ。今日最後の劇をすることになっている。


初めて会った時は、腰砕けになったボクを見下ろしていたアンクスと同じ目線で話している。あの時は、ろくに口を聞けなかったボクは彼に返事を返さなければならない。


「”こんなに酷いことになるとは思ってなかったよ。あの時、ボクが未熟だったばかりに…。”」


ボク達を一目見るためか、『秘密兵器』の詳細を知るためか街の人たちが集まってボク達を追いかけてきている。ボクは緊張で頭は真っ白で上手く口が動いている自信がない。今も『小さな内緒話』でジルに言われた通りに繰り返すだけだ。


たくさんの人たちに見られながらボク達は話を進める。


ボク達が協力をして魔王の森を進んだ事、カプリオの村で勇者の剣を手に入れた時の事、そして、魔王の城で再会した事。かなりの脚色を含んだ思い出話をする。


誰が作った話か判らないけれど、拡大解釈がされた物語はすでに吟遊詩人たちが話を広めていて街の人たちはすでに知っているそうだ。


その話をボク達がすることで、更に真実味が付くらしい。


「“酷い目に遭った彼らを元の村に戻すためにはオマエの力が必要なんだ。この『勇者の剣』と共に遺跡に眠っていた、グルコマを勇者にしたという『羽化の剣』の力を見せてくれ。”」


アンクスが『勇者の剣』を抜いて掲げる。ボクは、薪割りの剣…いや、『羽化の剣』と名前を変えた剣を抜く。2本の剣が交わって太陽に光り輝くと、ボク達を取り囲んでいた街の人たちから歓声が上がった。



今日の出来事はグルコマが勇者になった物語といっしょに、ヴァロアを始めとする吟遊詩人たちが街のあちこちで弾き語ることになっている。



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次回:ベールに包まれた『秘密兵器』



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