メイド
第2章 書類整理だけをしていたかったんだ。
--メイド--
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(そう言えば、メイドに気を付けろって、どういう意味だったの?)
図書館での打ち合わせを終えると、ホンコト様は仕事が溜まっているからと出ていってしまった。
だから今はジルと2人きり。
国家機密になるような書類が有るはずなのに不用心だと思うけど、ボクの相手をしている暇も無いのかもしれない。あるいは信用されているのか?いや、それは無いか。ボクに情報を売る相手なんて居ないと思って、軽んじられていると考えた方が納得できそうだ。
やっと2人でゆっくり話せるようになったので、コーテクルさんに会った時にジルが警告してきた意味を聞くことができる。
(ああ、この城のメイドの大半は諜報訓練を受けているんだ。)
(諜報?スパイって事?)
(そうだ。特にメイドでも上の方のヤツ等や、侍女なんかはな。うっかり変な事を言えばそのまま御用になりかねない。オレの『ギフト』は諜報にはもってこいだからな。アイツ等とは良く一緒に仕事をしていたんだ。)
(そういう事は先に言っておいてくれよ。ボクは変な事を喋らなかったよね?)
コーテクルさんとの会話を思い返してみるけど、大体はボクの王宮での生活や仕事について教えて貰うばかりで、大した世間話もしていないと思う。どうせ、知られて困るようなことは無いと思うんだけどね。
(悪い。ヒョーリが城に慣れていない事を忘れていてな。まぁ、相手がコーテクルだったら何とかなったさ。)
(そう言えば、ジルって王宮から来たんだっけね。ホンコト様やコーテクルさんの事も知っているの?)
(ああ、ホンコトのヤツはオレの事を知らないだろうけど、コーテクルは知ってるぞ。オレの『小さな内緒話』を使って何度か一緒に仕事をしたことがある。)
(その割にジルを見ても何も言わなかったけど。)
(諜報に優れているって言っただろ。その程度で顔に出したりししていれば相手に警戒されてしまって話を盗み聞きしに行けなくなるんだよ。今頃、オレがヒョーリと一緒に居た事を勘ぐって占い師の婆さんの所にでも聞きに行っているさ。)
(コーテクルさんには言わずに城を出たんだね。でも、ジルをどうやって諜報に使うの?)
(『小さな内緒話』を使えば遠くで会話しているのも聞こえるし、なんなら、オレを部屋の見えない場所に置いておけばいい。ヒョーリが冒険者ギルドで言っていたようにな。)
そう言えばマッテーナさんに、ボクが捕まったらジルをギルドの食堂の見えない場所にでも置いて欲しいと言ったっけ。
(客に見えない場所、そうだな、タンスの後ろでも天井からぶら下げてもいいや、後は好きに聞き耳を立てられるって寸法さ。)
(それは、役に立ちそうだね。)
ジルを部屋に置いておけば堂々とお客さんの会話を盗み聞きすることができるし、聞いてすぐに部屋の外にいる人間に『小さな内緒話』で内容を伝える事ができる。
(まぁ、外交なんてするヤツ等は『ギフト』を警戒しているけどな。逆に外交先にオレを持って行って『小さな内緒話』で密談するって事もしていたんだぜ。)
外交先で相手の『ギフト』を気にせずに密談できるのはとてもありがたい事らしい。ジルが一例をあげて
自慢してくれた。
(じゃあ、役に立つジルを手放した理由って何なの?)
王宮ではとても役に立っていたようだ。なら、ジルを勇者様に渡して、ボクのところに来させる理由が無いよね。
(なに、元々の約束さ。手助けをする代わりに、オレを運命の相手に渡して欲しいってな。)
(ボクが運命の相手なの?)
ちょっと、いや、すごく落ち着かない。苦虫をかみつぶした顔をしてしまった。
(いやいや、勘違いするなよ。運命と言っても男女の仲の話じゃねぇ。あの婆さんの『ギフト』は運命の繋がりを見れるが、男同士でも運命が有れば繋がって見えるらしい。)
(男同士?)
男同士で結婚をするのだろうか?と言うか、ジルってやっぱり男だったのか…。
(だから、そういう方面じゃねぇ!オレには呪いが掛けられている。棒になる呪いがな。その呪いを解くための運命ってヤツだよ!)
ちょっとホッとした。女の子の声で男言葉を話すのでどちらか判らないのだ。いつもふざけた感じで話しているので、このまま楽しく友達をしていたい。
(そっか、ボクが呪いを解くカギになるんだね。何かを探せば良いのかな?)
(たぶんな。と言うか、呪いを解く方法は判っている。ただ、簡単にはいかないんだよ。)
(どういう風に解くの?)
(簡単だ。オレをこんな姿にした指輪を探してもう一度はめれば良い。正確には棒になる呪いって言うよりも、棒になって身を隠すための道具を使っていたんだよ。身の危険を感じてソイツを使ったんだが、変身を解除する前に指輪だけを取られてしまって、それからこの姿なのさ。)
(じゃあ、その指輪を探せば良いんだね。なるほど、ボクの能力ならすぐに見つけられるよ。)
(いや、その指輪自体は失われてしまったんだ。オレが見ている目の前で岩に潰されてぺちゃんこだよ。)
(それじゃあ人間に戻れないんじゃないか?)
(婆さんの『ギフト』でヒョーリが見えたんだ、何か方法が有るのかもしれない。まぁ、実際には婆さんにもよくわからないらしいんだ。人間同士の運命の繋がりは見えても、どんな風に何が起こるかまでは判らないらしい。)
(でも、『失せ物問い』の『ギフト』を持つボクの所に来たって事は何かを探すんだよね。ジルのためにも何かできれば良いんだけど。)
(まぁ、オレは、もうしばらくはこの姿で良いさ。ヒョーリといるのは結構楽しいからな。それと、婆さんの言う事だと、これから先にオマエと勇者の間に何かあるようなんだ。相棒が城に来てしまったのも、その運命に流されてきたのかもしれない。)
(勇者様と?何が有るのかな?)
ジルと会った日に勇者様にも会ったけど怖かった思い出しかない。できればもう2度と会いたくない。
(さてね。おっと、この話を知っているのは婆さんとお偉いさんの一部の人間だけだからな。他言無用で頼むよ。)
(解ったよ。ボクも好きこのんで勇者様とかかわりあいになりたくないからね。さて、さっさとリストの物だけでも見つけておこうか。)
怖かった勇者様はともかくジルのためには何かしてあげたい。ジルが人間に戻れば、きっと2人でどこにでも歩いて行けるだろう。
そんな未来を思い浮かべながら、新しい仕事を始めるのだった。
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次回:恥ずかしい『着替え』




