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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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山賊壊滅の噂

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--山賊壊滅の噂--


あらすじ:久しぶりのコロアンちゃん回。

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鎧戸の閉じた薄暗い会議室で、コロアンちゃんがボクをお兄ちゃんと呼ぶ理由に頭を抱えていると、コツコツと足音が聞こえてくる。ひとつ。ふたつ。足音はたくさんあって、どたどたという重い音も続く。


「早かったわね!」


バタンとドアを開けたマッテーナさんに続いて、ソーデスカとアーノネネ。懐かしい冒険者ギルドの人達の後ろからヴァロアとアグドも続いて入ってきた。


「あ、あの、ただいま戻りました。」


「おかえり。無事で何よりよ。」


再会の挨拶の感動も無いままにマッテーナさんはボクの横を通り過ぎると会議室の一番奥の椅子座り足を組む。ソーデスカとアーノネネが手分けして鎧戸を開けて暗かった室内に光が差し込んだ。


ふわりと白いカーテンが揺れる窓の向こうは冒険者たちの訓練場になっていて、無人の白いグラウンドがお日様に照らされている。ボクを追いかけて騒いでいた街の人たちはソーデスカが上手に追い払ってくれていたみたいだ。


「ありがとうございます。それで、帰りにそれぞれの街の冒険者ギルドから預かった手紙が馬車にあるので後でお渡しします。」


「ああ、そこの2人から受け取ったわよ。これ以上、仕事を増やしたくなかったのに。」


マッテーナさんは顔を歪ませるけど、大切な手紙を無事に届けられてホッとした。世界でたった1つしかない手紙を預かるのは意外と気を使うんだ。重要な事が書いてあるかもしれない手紙は、失くしたり雨に濡らしたら、それで終わりだからね。幌馬車の奥に入れて大切に扱っていたんだ。


ヴァロアとアグドはカプリオの仲介ですでにマッテーナさんに自己紹介を済ませたらしい。彼らを馬小屋で紹介したカプリオは幌馬車から手紙とお土産を降ろした後に、見世物になりたくないと先に王宮へと行ってしまったそうだ。


ソーデスカに追い返された人たちが、カプリオを見に集まっていたみたいだからね。王宮へ行けば彼の入れる部屋もあるから好奇の目で見られる事も減るよね。


マッテーナさんがボク達を長机の席に座るよう促すと、食堂を切り盛りしているハイデスネが入ってきてお茶を勧めてくれた。


ボクの前にカチャリとティーカップを置くと、マッテーナさんに見えないようにウインクをくれた。挨拶の代わりなのだろうけど、ボクはウィンクなんてできないからね。軽く会釈を返すしか無かった。


ハイデスネはヴァロアグドにもお茶を淹れると、席に座って足をぶらぶらさせ始めたコロアンちゃんにはお菓子も付けてくれた。


「あの、それで、ボクが山賊を退治したって噂を知っていますか?」


「ああ、アナタが山賊を壊滅させて血の街道を作ったという言うアレね?」


マッテーナさんは鼻で笑った。ボクが血の海を作れると全然思っていなかったみたいで安心した。


「血は一滴も流れてないですけどね。」


「!!?本当に山賊を退治したの?」


マッテーナさんに加えてソーデスカにアーノネネ、ハイデスネもびっくりするくらい目を見開いてボクを凝視する。


「あの、山賊を捕まえたのはアグドで、それもたった8人なんです。」


「ふん。時間が有れば本当に全滅させたんだけどな。」


マッテーナさんの切れ長の鋭い瞳に値踏みされたアグドが顔を赤くして強がりを言う。マッテーナさんは怖いけど、美人さんだからね。見つめられるとドキドキしちゃう気持ちはよく分かる。


「山賊が次々と投降しているという噂が3日ほど前から広まったのよ。」


マッテーナさんが噂の出所をアーノネネに調べさせたところ、王宮にそれらしい伝令を伝えた兵士さんが居る事が判ったそうだ。


勇者アンクスが魔王を退治したという話以来、王都にはめぼしい噂が無かったらしい。


しかも、魔王が倒されて森が広がるのが止まるかと思っていたのに、森はさらに広がって魔獣の被害が増え続けた。


魔獣が減った魔王の森を切り拓き、増えた木を簡単に売りさばく、そんな商売を夢見て集まった人たちは、魔獣に邪魔されて仕事に手を付ける事すらできなくなった。


恵み豊かだった王都の畑は魔獣に荒らされて収穫が減り、往来する商人さんは増えた魔獣や兵士が脱走して増えた山賊を恐れて寄り付かなくなり、モノの値段が上がっていく。


ついにはアンクスが魔王を倒したという話まで否定され始めた。


魔王を倒したのに森は広がり続けて魔獣は増え続けていたからね。魔王の森が広がる脅威を覆すために魔王を倒しに行ったのに、被害が増え続けるなんておかしいよね。


そこへ、久しぶりの吉報が訪れた。


ボクが山賊を退治したという噂だ。


魔獣の脅威は残るけれど、街道を巡回する兵士さん達の負担は減って魔獣の駆除も捗るんじゃないか。魔獣が駆除されれば王都へ来る商人さんの数も増えるだろうし、自分たちも安心して仕事ができる。


いや、それよりもこの機会に自分たちが王都から離れた方が良いのでは?もしも魔王が生きていたとしたら、命を狙ったアンクスを放っておくはずがない。


今や、王都ではボクの噂で持ち切りだ。


暗いニュースしか無かった王都に久しぶりに訪れた希望として、山賊が居なくなったという噂は凄い速さで広がった。


魔王の森は以前より早く広がっている。


今が決断の時。


「いやいやいや、ボクが言うのも何だけど、山賊が居なくなったなんて嘘ですよ。」


「まあ、ヒョーリを知っていれば嘘だと思うわよね。」


「ですよね。」


ボクの細い腕を見てマッテーナさんが頷く。同意してくれるのは嬉しいけれど、頼りないと言われているようで傷付く。


アンクスが魔王を倒したのが嘘だったと噂されるように、ボクが山賊を壊滅させたのも嘘だと思う人達がいたんだ。


ニシジオリの兵士さん達でも苦労していた山賊退治が魔道具の魔獣を引き連れているとはいえ、ただの占い師が山賊を壊滅なんてできる訳ないよね。衛兵さんにマッテーナさん、文筆ギルドの人たちに占い師ギルドの人、ボクの細い腕を知る人は王都には沢山いた。


だから疑心暗鬼の中、街の人たちは自分の未来を掴むためにボクを見定めなきゃならなかったんだ。そのために帰ってきたばかりのボクに人が集まっていたんだね。


「私達も苦労しているのよ。」


ボクの事を良く知っているマッテーナさんは山賊が壊滅したとは思えなくて、噂を信じて街の外に出ないように注意を呼び掛けていた。


犠牲者が出れば悲しい事だし、行方不明者でも出れば兵士や冒険者からも人手を集めて捜索することになってしまう。あちこちの町や村に冒険者を派遣していてただでさえ少ない人手が更に減ってしまうかも知れない。辛うじて務まっている今の仕事ですら崩壊してしまうかも知れない。


だけど、唯一の希望として街中に広まってしまった噂は簡単に消す事ができなかった。


「もう少しアナタが帰ってくるのが遅かったなら、こんなに噂が広がらなかったかも知れないのに。」


「?」


疑問符しか浮かばないボクに「未確認情報だけど」と前置きをしてマッテーナさんは続けてくれた。


「秘密兵器が計画されているわ。」



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次回:『王女様の侍女』のお迎え


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