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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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おじちゃん

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--おじちゃん--


あらすじ:勇者のお兄ちゃんになった。

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「勇者のお兄ちゃんだ!」


「え、え?」


コロアンちゃんがボクの呼び方を『迷子探しのオジちゃん』から『勇者のお兄ちゃん』に変えた理由が知りたくて口を開いたけれど、周りにできた人垣が騒然となって言葉は噂話に呑み込まれてしまった。


「おい、どうしたんだよ?」

「勇者だってよ。」

「嘘だろ。」


山賊を殲滅したという物騒な噂話に、勇者という言葉が混じってボクは混乱する。『勇者』という言葉は、ニシジオリの国にとって重要な意味を持つ。下手に『勇者』を名乗ったら死刑になるだけじゃ済まない。


それに、ボクが勇者になれるわけが無い。


ざわざわと騒ぎが大きくなって、建物の中や脇道からも人が押し寄せる。ボクを見るために屋根に上った人までいる。


「と、とりあえず落ち着ける場所に行こうよ!おいで。」


これ以上、騒ぎを大きくしたくない。ボクの手の中にすっぽりと納まる小さな手を引いてコロアンちゃんを幌馬車に乗せると、ボクは自分の知っている一番近い建物を目指すことにした。


マッテーナさんがギルド長を務める冒険者ギルド。


冒険者が出入りするので門からほど近い場所に建てられていて、幌馬車を停める場所もある。ギルドには知り合いがいるし、マッテーナさんなら山賊についての噂話も知っていると思うんだ。


王妃様に呼び戻されたのだから、最初に王宮に行かなければならないのだろうけれど、広い王都の真ん中にある王宮に辿り着ける自信がない。


どの道、王宮にコロアンちゃんは連れていけないし、魔石を買うために途中で寄った冒険者ギルドから、ギルド長のマッテーナさんに宛てた手紙も預かっている。


「ホントにあんな細い腕で魔王と戦えるのか?」

「見ろよ、ただの鉄の剣を差しているぜ。」

「となると、後ろの鳥に乗っている頼りなさそうなのは仲間か?」


ざわざわと騒めく人垣から失望の声が聞こえる。どうしてコロアンちゃんがボクを『勇者のお兄ちゃんと』と呼んだのか解らないけど、ボクがみんなの期待していたような強そうな勇者ではなく、ただのひょろひょろの占い師だ。


魔王と戦うなんてできないよ。


カプリオに繋いだ形ばかりの手綱を手に取ってご満悦なコロアンちゃんの横で、ボクは恥ずかしさに真っ赤になって、たくさんの人に見られながら冒険者ギルドに急いだ。


冒険者ギルドの入り口で、馬の世話をしている人にカプリオを預けると、ボクはコロアンちゃんの手を引いて滑り込む。後ろからカプリオが『小さな内緒話』を通して文句を言っているけれど、大きな体の彼は建物の中に入れないから仕方ないよね。


「あら、おかえり。早かったわね。って、どうしたのよ?」


ギルドの扉を開くと受付のソーデスカが迎えてくれた。まるで、朝に出かけたばかりのように、当たり前に迎えてくれたのが嬉しかったけれど、ボクの後ろからたくさんの人が野次馬としてついて来てしまっている。


「あ、あの。どこか落ち着ける場所を借りられないかな?」


「ん、とりあえず会議室に行って。マッテーナさんには伝えておく。」


ソーデスカはギルドの窓から覗く黒だかりにため息を吐いて会議室を指差すと腕まくりをした。

「ありがとう。」


冒険者たちが出払っているのかギルドの中は静かだったけれど、誰でも入ることができる食堂だと街の人たちも入ってきてしまう。とっさの判断で案内してくれたソーデスカに感謝して、ボクは会議室のドアを閉めた。


「ほら、ギルドに用がないなら仕事の邪魔よ。入り口を塞がないで!」


扉の向こうからソーデスカが街の人たちを追い返そうとする声が聞こえる。普段から冒険者たちを相手にしているからか、迫力のあるソーデスカの声に街の人たちのざわめきも遠のいていく。


ボクは静かになった扉を背にして深く息を吐いた。


日の翳る薄暗い会議室にはボクとジル。そして手をつないだままのコロアンちゃんしか居ない。ヴァロアもアグドも途中で置いてきてしまったことにやっと気が付いて、心配になったけれど、その前に確認しておかないといけないことがある。


「あの、『勇者のおにいちゃん』って何だったのかな?」


「その前に、ただいまは?」


「え、あ、ただいま。」


よっぽど嬉しかったのかコロアンちゃんは顔を崩して笑う。見ているだけで嬉しくなるような笑顔に、王都に戻ってきたという実感が溢れてくる。


「えっへっへ~。お土産は?」


「うん。幌馬車に積んであるから、後で孤児院に戻る時に持って行ってあげるね。」


コロアンちゃんだけにお土産を買うなんて贔屓はできないから、孤児院のみんなに行きわたるように大きなお土産を買ってきた。とは言っても、こちらでは珍しいモンジの団子とかアマフルの干し肉とか


「わ~い!ありがと、お兄ちゃん!」


お兄ちゃんと呼ばれて抱きつかれると、小さな女の子なのにもぞもぞする。いやいやいや、そんなにのほほんとしている場合じゃ無いよね。お土産なんて後でいくらでも渡せるんだ。


「それで、どうしてボクを勇者って呼んだの?」


「えっへっへ。だってそれは『勇者の剣』でしょ?カプリオに聞いたの。」


それから始まった脱線ばかりするコロアンちゃんの話によると、ボクが孤児院を訪れた時に、荷物を運んでくれたカプリオと遊んでいる間に『勇者の剣』と『愚者の剣』の話を聞いたらしい。


カプリオによって守られていた2本の剣。昔の勇者、グルコマ様が村を襲った魔獣に立ち向かって勇者になった時に持っていた剣と、魔王を倒すために賢者様が勇者様のために作った剣。どちらも『勇者の剣』で、両方が『愚者の剣』だった。


ボクの持つ鉄の剣はグリコマ様が勇者になった時の剣だけど、もともとは彼のお父さんが使っていた普通の剣だ。勇者の剣は2つも要らなくて、今の勇者のアンクスが持つ、すごい力を持った剣がひとつあればいい。だから僕はこの剣を『薪割りの剣』と呼ぶことにしたんだ。


でも、コロアンちゃんはボクの持つ剣こそが『勇者の剣』に見えたらしい。


アンクスが広場で『勇者の剣』で『破邪の千刃』披露しても、どこか違う世界の見世物にしか見えなかったけど、迷子になって心細い時に迎えに来てくれたボクの方がよっぽど勇者に見えたそうだ。


「いやいやいや、迷子を見つけただけで勇者にはなれないよね?」


「でも、街道の山賊を全滅させたんでしょ?魔王の森からカプリオを連れてきたし、魔王の城からもツルガルって所からも帰ってきたし、アンクスって人よりすごいのよね!」


山賊は自分から捕まっただけでボクは何もしていない。他の所も行っただけで帰ってくるのだって精いっぱいだった。きらきらと目を光らせるコロアンちゃんにボクはぐったりと疲れてもうひとつの疑問を訊ねる。


「何となく分ったけれど、お兄ちゃんなったのはどうして?」


ボクを勇者と呼ぶ理由は判ったけれど、それなら『勇者のおじちゃん』で良いよね?


「お兄ちゃんって呼ぶと、みんな喜んでお菓子をくれるのよ。」


不器用に片目を閉じたコロアンちゃんは、お使いの途中で貰ったという大きな飴を見せてくれた。



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次回:マッテーナさんと『山賊壊滅の噂』


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