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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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魔石の値段

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--魔石の値段--


あらすじ:山賊が目を覚ました。

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青い空。白い雲。水気を帯びた優しく涼しい谷風が吹いている。街道の脇の少し開けた草原は短くて柔らかい草が茂っていて横たわると気持ちが良い。2羽のビスがのんびりと草を食む。


アグドの『ふわふわりんりん』で作ったソリはしぼんで無くなっていて、地面に転がされていた山賊たちが、もぞもぞと動き出した。


「ここは…、どこだ?おい、起きろ、オクレ。」


最初に目を覚ました山賊は、辺りを見回して隣の男を起こそうと手を伸ばしかけた。だけど、手は縛られていて伸ばす事ができずに男を蹴る。


「なんだよ、トクワ。」


ひとりが起きると、山賊たちは次々と起こされた。名前を呼ばれて気が付く人に、頭を蹴られて起きる人。ロープが引かれて目を覚ました人もいる。


「生き残ったんだ。オレ達。」


「さっきから何なんだよ。なあ、何でオレ達縛られているんだ?」


まだ夢うつつの中なのか、8人の山賊たちはぼんやりとお互いの姿を見る。ロープで縛られた仲間の姿を見て困惑し、縛られた自分の腕を見て眉をひそめる。


そして、意識は外へと広がって、ボクの顔を見て目を見張る。アグドの顔を見て緊張し、ヴァロアの顔を見て震えだし、最後にカプリオの顔を見て泣きだした。


「ひっ!た、助けてくれ!」

「もう勘弁してくれ!オレはまだ死にたくないんだ!!」

「かあちゃん!おれがわるかった!!!」


ばらばらだった山賊たちが1か所に集まって震えた。


カプリオが彼らを運ぶとき何度も何度もカモノ大渓谷に放り出されてた。見えない空気のソリは頼りなさそうだし、あちこちにぶつかって御者席のボクの隣まで跳ねてきていた。


うん。カプリオの牽く『ふわふわりんりん』で作った空気のソリには絶対に乗らないでおこう。


「失礼だなぁ。まったく。」


「なに言ってんだ。オマエが振り回したせいだろ。」


アグドがカプリオを睨む。


「8人も増えると大変なんだよぉ。」


いくら魔道具の魔獣のカプリオとは言え、さすがに8人も運ぶ人が増えると大変だったみたいだ。車輪の無い空気のソリは扱いづらくて、一度石につまずくと始めると跳ね回って手に負えなくなったそうだ。


「今度は上手にできると思うよぉ、それより、そろそろ街に行こうよ。お腹ペコペコだよぉ。」


カプリオが顔を向けた先には遠くない位置に街の入り口が見える。入り口を護る兵士さんの表情を判別する事はできないけれど、なんだか慌ただしく人が増えているように見えた。


「おい!街だ!!街だぞ!!」

「おお!!助かった!」

「ああ、神様!ありがとうございます。」


カプリオに視線を誘導された山賊たちは、ひと繋ぎにまとめられたロープをものともせず走り出した。


「お~い!オレを捕まえてくれ!」

「早く捕まえてくれ!山賊なんてこりごりだ!」

「死にたくない!!」


山賊が捕まればどうなるか。それも兵士として集められ人が逃げ出して、魔獣と戦うために渡された武器や防具を使って山賊になっていたんだ。


軽い罰で済むとは思えない。


それでも、山賊たちはお互いを縛っているロープに足を取られながらも街へと一直線に走って行った。


カプリオを荷馬車に繋いで街の入り口まで行くと、山賊は手慣れた様子で捕まる手続きをしている。兵士だった頃に山賊を捕まえる仕事にしていた人がいるみたいで、動きが遅いと兵士さんが怒られていた。


気が付くとボクの手には賞金の入った袋が手渡されていて、山賊たちは先を争うように牢屋へと兵士さんを引きずって行く。


残されたボクの手にはずっしりと重い8人分の山賊の賞金が渡されていた。


カプリオにたくさん魔石を食べさせてあげられる。


バケツいっぱいの魔石を買っても余るよね。


魔石は冒険者ギルドで買うことにした。街の魔導具を扱うお店でも少し売っているけれど、もともと魔石の消費は少ないのでほとんど売っていない。魔石は冒険者が魔獣を倒す仕事を依頼されて、仕事が終わった証として冒険ギルドが買い取ることが多い。


この街の冒険者ギルドにはツルガルに行く時に、王都のギルド長のマッテーナさんからの手紙を渡していた。受付のお姉さんもボクの事を覚えていてくれたから愛想よく魔石を出してくれる。


「ごめんなさいね。魔獣は増えているのだけど、今はこれしか無いのよ。」


お姉さんはバケツを持ってきて底の方に少し溜まった魔石を見せてくれる。バケツの底にはモンジの団子ぐらいの小さな魔石が20個ほど転がっていた。


以前は何杯ものバケツから溢れるほどの魔石に頭を痛めていたけれど、今は王都で魔石が集められていて残っていないそうだ。


「あるだけ下さい。」


少しでも多くカプリオに上げたくて、ボクは全ての魔石を買うことにしたけれど、少ない魔石は値上がりしていてた。王都へ行けばもっと値段が吊り上がるらしい。


快くすべての魔石を売ってくれたお姉さんに挨拶をして、ボクは少しでも多くの魔石を買い集めるためにカプリオを冒険者ギルドに置いて大通りに出る事にした。


「食べ物もだいぶ値上がりしてるッスね。」


「悪いねえ。最近は扱う量が減っていてね。アタシたちも食べていけないんだ。アンタ達も旅人みたいだけど、どこから来たんだい?」


活気の少ない大通りを進むと肉や野菜の値段が上がっているのに気づく。ヴァロアが覗き込んだ店のおばちゃんが疲れた顔をして申し訳なさそうにヴァロアに話しかけてきた。


「ツルガルに行ってたッス。」


「そうかい。遠くからご苦労だねえ。こっちは魔獣の被害が多くなってきててね、店をたたむ人も増えているんだ。ねえ、向こうは良かったかい?安く食べ物が手に入ったかい?」


魔王の森が広がるにつれて魔獣が増えて、畑が荒らされる被害も増えているそうだ。魔王の森の伐採に駆り出されていて働き手が減っていて、被害を押さえる事もままならない。


魔獣に詳しい冒険者を雇って人手の要らない柵や罠を仕掛けるけれど、広い畑を守るどころか、村に魔獣を入れないようにするだけで精いっぱいだそうだ。


「向こうでは人のお世話になっていたので、よくわからないッス。」


ツルガルの王都では、王妃様やオイナイ様に頼り切って生活していたから買い物をすることも少なかったけれど、珍しい品物がたくさんある大通りを見て回ったことくらいはある。


お腹を満たすだけなら、アズマシィ様の恵みがあるツルガルの方がよっぽど安いのだけど、売っている商品が違うので単純に比較する訳にもいかない。ニシジオリの野菜なんて手に入れる事すら珍しいんだよね。


「そうかい。最近は生活が苦しくて、楽になるんなら移住も考えたいんだけどねえ。」


疲れた顔のオバちゃんによると、この先、ニシジオリの王都に向かうにつれて物価は上がっていくみたいだ。王都には魔王の森を伐採するために多くの人が集められていて、何もかもが足りていない。


なのに、魔獣も山賊も増えている。


品物が少なくて、商人が襲われて余計に物が高くなっている


あちこちを回って魔石を探したけれど、バケツに半分も集まらない。それに買えたとしても高い値段じゃないと売ってくれなくて、余るかと思っていた山賊を捕えた賞金も底をついてしまった。


「もうちょっと食べたかったなぁ。」


カプリオは頑張ってくれたのに、彼のお腹を満たす事ができなかったんだ。



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次回:効果の解らない『赤い魔晶石』



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