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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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ふわふわりんりん

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--ふわふわりんりん--


あらすじ:カプリオが街道を暴走した。

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数日をかけてゆっくりと進む下り坂を、カプリオは荷物の詰まった幌馬車とボク達3人と8人の山賊を牽いてたった数時間で駆け抜けた。


小石の混ざる同じ道を同じ速さで馬を走らせたら脚を痛めるだろうし、無理をさせた馬車だって痛んでしまう。街道を行くいくつもの商人の引く馬車を追い越して3つの村を越えて、狭い街道から横道に入って平坦になった辺りで、カプリオの足も穏やかになった。


目の前に大きな街が見えてきた。


もう少し渓谷は続くけれど、この辺りは山側が開けていて街がある。あそこまで行けば駐在する兵士たちが居るはずで、捕まえた山賊を引き渡す事ができる。


だけど、ボクは疲れていた。


御者台の背もたれにしがみついていただけだけど、商人を避けるために崖の側面を走った時には振り落とされそうになっていたし、村の中では人を轢きそうになってヒヤヒヤしていた。体も心も疲れていて、幌馬車の上でぐったりとしていたんだ。


街まで行ってベッドでゆっくりと休みたいけれど、山賊の分の宿代は払いたくないし、宿がすぐ見つかるとも限らない。


背の低い草の上に寝転がるとさわやかな谷風が抜けていく。


ああ、まだグラグラと地面が揺れている。


「あ~楽しかったッス!ありがとうッス。面白かったッス。」


「ボクも楽しかったよぉ。こんなに走ったのは久しぶりだぁ。」


幌馬車に繋いでいた金具を外しながら元気にヴァロアがカプリオを労う。手にはクシを持っていて金具から解放されたもこもこの毛を腕まくりして梳いていく。


ヴァロアが担当するクシ梳きも今日はたくさん走って埃が絡まったり毛が捩れていたりして大変そうだだ。だけど、彼女は鼻歌を歌いって楽しそうだしカプリオも気持ちよさそうに目を細めている。


「ちっ。魔道具は暢気だよな。こっちは大変だったっていうのに。」


丸太を地面でこするとゴリゴリと削れてしまうように、『ふわふわりんりん』で作った空気のソリも少しずつ削れてしまうみたいで、アグドは削れたところに空気を継ぎ足したり、気絶した山賊が落ちたり、岩にぶつからないように無いようにと空気のクッションを作って大忙しだったらしい。


幌馬車の後ろに乗っていたアグドの姿は見えなかったからけれど大変だったらしい。


「キミのおかげで誰も傷付いていないッス。ありがとうッス。」


ヴァロアが細い白い二の腕を覗かせてもこもこの影からぴょこんと顔を出す。


幌馬車から伸びたロープの先には宙に浮いた8人の山賊が繋がれている。みんな気絶していて目を閉じているけれど傷はない。もともとボロボロの鎧を着ていたから変化があっても気が付かないだけかも知れないけれど。少なくとも血は見えない。


「姐さんに言われたら苦労も報われるけどよ。」


アグドは顔を真っ赤にして鼻先を掻く。


アグドが赤くなったヴァロアの二の腕は女の子らしく細くて、とてもドラゴン殺しの剣を見えないほど早く振って彼の喉元に突きつけたとは思えない。やっぱり彼女には冷たい剣なんかよりも、12弦のブルベリの方が似合うと思う。


ヴァロアにドラゴン殺しの剣を喉元に突き付けられたアグドはすっかり大人しくなっていた。自ら彼女の事を姐さんと呼んで、空気のソリを作る時も自分から提案してくれて、おかげで誰も傷付かずに済んだ。


「姐さんと呼ばないで欲しいッス。せっかく男装しているのに台無しッス。」


「男装する必要なんてないだろ?姐さんの力量ならどんな男もブッ飛ばしてしまえば良いんだ!」


「乱暴は良くないッス!!」


「でも、山賊を倒すつもりだったんだろ?」


「逃げるつもりだったッス。カプリオなら簡単に逃げられたッス。でも、キミが自分を山賊から助けてくれたのには違いないッス。ありがとうッス。」


もともと山賊から逃げるつもりではあったけれど、確実に逃げられたとは限らない。だから、アグドがボク達を助けてくれた事には感謝しなきゃならない。それに、山賊を捕えることができれば、他の商人さん達も安全に街道を使うことができるし、安全な街道なら商品も安くなるかもしれない。


「へへ、大したことじゃねえよ。特命護衛のオレにかかればあんな山賊の10人や20人。楽勝だぜ!」


「そう言えば山賊が出てきた時、崖の上に貼りついてたッスけど、あんな所で何してたッスか?」


山賊に襲われた時にアグドはビスに乗って空から降ってきた。アグドは街道の崖の見えない場所に『ふわふわりんりん』で壁に貼りついて待っていたそうだ。ヴァロアは『帆船の水先守』で、アグドの存在に気付いていたけれど、山賊とボク達の間に振ってくるとは思っていなかったらしい。


「う。気が付いてたのかよ。姐さんも意地が悪いや。」


せっかく特命を受けて護衛に来たのに、ボクはアグドを必要としていなかった。だから、アグドはボクとヴァロアに自分の事を護衛だと認めさせようとしていた。


ツルガルの国境の街の酒場で最近山賊が増えている事を耳にしたアグドは、山賊にボク達を襲わせようと考えたんだ。


たくさんの荷物を積んでいる幌馬車には細腕の人間が2人。魔道具の魔獣は脅威だけど、同業者が増えて獲物を取り合っている山賊ならきっと襲うはず。山賊に襲われて困っているボク達なら自分を必要とするに違いない。


そう考えてアグドは山賊の跡を探して彼らが襲う場所に目星をつけて『ふわふわりんりん』で崖に貼り付いて見張っていたそうだ。


「回りくどいことをしなくても、一緒に居れば良かったッス。」


「ピンチの時に颯爽と現れるからがカッコいいんだよ。」


「守るべき相手を危険な目にあわせた時点で護衛失格ッス。」


「う。それに、オレがいたら国境を越える事ができなかったしな。」


「師団長さんからの手紙を待っていれば国境を越えられたんじゃないッスか?」


「特命を受けたオレが、途中で団長の手を借りるなんて恥ずかしいだろ?」


特命を受けるほどの技量があると認められているのに、国境ひとつ越えるのに師団長の手を煩わせることはアグドにとって恥ずかしい事らしい。自分は国境くらい自分の手で超えられる。誰の手を借りなくてもスマートに任務をこなす事ができる。


それを証明するためにアグドは師団長さんに宛てた問い合わせの手紙を盗んで、自力で国境を越えることにして、ついでに山賊に襲われている最中のボク達を助ける事で恩を売ろうと考えていたそうだ。


「それなら、どうやって国境を越えたっスか?ビスで飛び降りるにしても高すぎるッス。」


ヴァロアもアズマシィ様から飛び降りてきたけれど、それは十分に低い所まで降りてからであって、高すぎるとビスの羽の力が尽きて落下してしまうらしい。国境の崖はビスの羽で降りるのには高すぎた。


人間を乗せたビスが国境を飛び降りられないからこそ、長い坂だけを監視していれば国境は守られる。夜通し見張る人は少なくて済むし、


「それも『ふわふわりんりん』で解決だぜ。姐さん。」


『ふわふわりんりん』のやわらかい空気で包まってしまえば、どんな高い所から落ちてもケガをしないし、一瞬で落ちてしまえば見つかる事も無い。


もともと、大きなアズマシィ様から落ちそうになった人を助ける仕事をしていたアグドは、自分が崖から落ちる事も想定して色々と試していた。


国境の崖から飛び降りるなんて簡単な事だったんだ。


ボクのタメ息の先で、すやすやと眠る山賊の顔からは凶悪な雰囲気は出ていなくて、それどころかぼさぼさの髭が生えていても穏やかな人達に見える。つい先日まで村で仕事をしていて、広がる魔王の森のために兵士になった人たちだ。山賊になりたての男たちは、怒っていなければ普通の村人にしか見えない。


穏やかに吹く谷風に彼らが目を覚まし始めた。



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次回:バケツいっぱいの『魔石の値段』



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