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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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悲鳴の数

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--悲鳴の数--


あらすじ:山賊を生きたまま連れて行くことになった。

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「オレが悪かった!!!」

「死ぬ!死ぬ!死ぬ!!!!」

「オクレ!手を離すな!!腕が、腕がもげる!!」

「もう悪い事なんてしません!!許して神様!!」


「「「「うわあああああぁぁぁっぁぁぁっぁあああ」」」」


魔王5人分もの高さのあるカモノ大渓谷深い谷に、山賊たちの4つの悲鳴が幾重にも木霊して聞こえる。最初は8人の山賊たち声が聞こえていたはずなのに今は半分だ。


ヴァロアが8人の山賊を生かしたので、彼らを連れて次の村まで行く事になった。だけど、カプリオの牽く幌馬車には8人もの男を乗せる場所は無いから山賊達は歩いて進むしかない。そうなればボク達も彼らに合わせてゆっくりと進むしかない。


そう思っていた。


「なぁ、『ふわふわりんりん』でソリを作って引っ張ろうぜ。その魔獣ならできるんじゃねえか?」


アグドの提案はこうだった。『ふわふわりんりん』で作った大きな空気の塊をソリのような形にすれば8人の山賊を載せる事ができる。車輪は無いけれど、柔らかな空気は雲のように形を変えてデコボコな地面でも牽く事ができる。


そのソリをカプリオの牽く幌馬車の後ろにロープで繋げれば、山賊たちは歩かなくて済むし、ボク達も早く次の村に着ける。



「カプリオだよ。ねえ、山賊たちを乗せても大丈夫なの?」


カプリオを魔獣と呼ばれるのが嫌なので、アグドの言葉を訂正してカプリオに訊ねた。今だって重い幌馬車を引っ張っているから、いくらカプリオでも8人もの男を引っ張る事はできないと思っていた。


「下り坂ばかりだし、なんとかなると思うよぉ。だけど、いつもよりたくさんの魔力を使うから魔石をたくさん食べさせて欲しいの。」


魔道具のカプリオが動くためには、他の魔道具と同じように魔力が必要になる。人間が空中の魔力を息を吸う時に集めているように、カプリオも普段は空気中に漂う魔力を集めて体の中の魔晶石に溜めているので魔石を必要としない。


だけど、たくさんの魔力を使う時は魔石や魔晶石を使って体内の魔力を補う必要がある。魔石は魔獣が死んだときに残る魔力の塊で多くの魔道具を動かす力の源として知られている。魔晶石は魔石よりも魔力を多く含んで結晶化したもので貴重な物だから使い捨てるのは勿体ない。


普段の生活では魔力を使いすぎる事は無いから、魔法が使える人たちが魔道具に頼る事は無い。多くの魔道具に魔石は使われるけれど、魔道具を使うことが少ないから魔石は使い道が少なくて値段も安い。自分の食べ物にも困っていた昔ならともかく、今なら安い魔石を買うお金もある。


思ったよりも簡単にカプリオに引き受けてもらえた。


それどころか2頭のビスが疲れないように、ヴァロアとアグドも幌馬車に乗るように勧めてきてくれたんだ。2頭のビスにカプリオの後ろを空荷でついてきてもらえば彼らの負担も少ない。休む回数が減ってそれだけ早く進めるんだ。


大きな街に着いたらたくさんの魔石を食べさせると約束して、ボク達は幌馬車に乗り込んだ。


幌馬車の御者台にボクとヴァロア。荷台の荷物を整理して空けた場所にアグドが座って山賊とソリを見てくれる。見えないソリに怖がる山賊たちを乗せて出発した。振り返れば2羽のビスがちょこちょこと付いてくる。


「ごっはん~♪ごっはん~♪」


たくさんの魔石を食べられるのが嬉しいのか、カプリオはすぐに足を早めて行った。大渓谷の長い下り坂の小さなデコボコを拾った車輪が幌馬車を躍らせる。幌馬車が踊れば後ろの山賊たちの乗ったソリが跳ねた。


がたん。


右後ろの車輪が街道を外れた。


ガガガガガ。


大渓谷の街道はぐにゃぐにゃと曲がっていて、勢いの付いたカプリオは「えいや!」と踏ん張って急な曲がり角を曲がる。幌馬車の車輪がズルズルと滑り、山賊たちの乗ったソリは街道を外れて宙を舞う。


ソリとはいってもアグドの作った見えない空気のソリだ。山賊たちが大渓谷にロープ一本で投げ出されたようにしか見えない。


幌馬車が斜めに傾いて、街道の路面が真横に見える。隣では目を回しながら縛られた手で必死にロープにしがみつく山賊たちが見えた。向こうの山賊は泡を吹いている。幌馬車のさらに後ろに繋がれている山賊たちの顔がこんなにはっきりと見えるなんておかしい。


「「「うわああああぁぁぁぁあああ」」」


悲鳴の数がひとつ、またひとつと減っていった。聞こえる悲鳴が3つになった時、御者台に乗せたお尻が宙に浮いたので、ボクは背もたれにしがみついていた手にさらに力を入れる。


「うわはははははっ!早いッス~!」


ボクの隣に座っていたヴァロアはいつの間にか立ち上がって笑っていた。ガタガタと不規則に跳ね回る御者台の上で立ち上がるなんて信じられないけれど、彼女は器用に膝を曲げてバランスを取っている。


『帆船の水先守』は元々浅い海で船を岩礁に乗り上げないように航海させるための『ギフト』だと言っていた。もしかすると、荒れ狂う小舟よりも今のカプリオの馬車の方が安全なかもしれない。いや、海なんて見た事ないけれど、物語では必ず荒れて船から人が落ちるよね。


「オマエの魔獣だろ!?どうにかしろよ!!」


幌馬車の荷台に乗っているアグドはグラグラと揺れる荷物を押し返しながら怒鳴る。


どうにかしろと言っても、カプリオはボクの物じゃなくて大切な友人だ。善意と好奇心でボクを運んでくれるのだから、あまり嫌われるようなことは言いたくない。でも、もう少し静かに走ってくれると嬉しいかな。


ガコンと幌馬車が大きく跳ねた。


「カプリオ!もう少しゆっくり!!」


舌を噛みそうになりながらボクはカプリオに声をかけた。魔王の森でカプリオに乗っていた時も木々の間を駆け抜けてもらったけれど、あの時は彼の背中に乗っていた。もこもこの背中は安定感があって、長い毛に包まれたボクは安心感さえあったんだ。


だけど、幌馬車には掴まる所さえない。つるつるの板に腰を痛めないように申し訳程度のクッションを結びつけてあって、背もたれ以外に掴まる所はない。しがみ付いた背もたれだって、指を掛ける場所が無くてつるつると滑る。


ガコンと幌馬車が跳ねた時には、ボクは完全に空を飛んでいた。


そもそも、幌馬車でこんなにスピードを出す事なんて無いんだからね。こんな事になるなら、御者台から放り出されないように体と馬車をロープで結んでおけば良かった。


「え~、もう止められないよぉ。」


ゆったりとした下り坂なのだけど、ツルガルの王妃様達からニシジオリの王妃様へと沢山の荷物を積んだ幌馬車は重たくて、その上に8人もの山賊を引っ張っている。


いちど転がり出した車輪を止めるのは難しくて、転がる岩を止められないのと同じように馬車を止める術をカプリオも持ち合わせていなかった。


がったん。


「「うわあああああぁぁぁっぁぁぁっぁあああ」」


大渓谷に絶叫が響き渡り、曲がり角が終わるたびに数が減っていく。


大渓谷の中空に飛ばされた山賊たちは街道に戻る時に崖にぶつかって弾む。対向する馬車が来た時にはカプリオは崖の側面を走っていた。ボク達を見て暴れる馬を引く馬車には商人さんが声も無く目を見開いて見上げている。


柔らかい空気が山賊を守らなければ壁にぶつかって死んでいたし、対抗する馬車に乗る商人さんの頭の上を通った時にはぶつかるかと思っていた。


「うわあああああぁぁぁっぁぁぁっぁあああぁぁぁぁぁっぁっぁ・・・・・・………」


長い長い大渓谷の街道を少しも行かずに、山賊たちの声は聞こえなくなっていた。



その日を境に、カモの大渓谷から山賊が居なくなったという。



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次回:便利な『ふわふわりんりん』


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