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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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ドラゴンの記憶

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--ドラゴンの記憶--


あらすじ:ヴァロアが降ってきた。

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ツルガルの王都を乗せた巨大な魔獣、アズマシィ様がゆっくりと遠ざかっていく。何万人もの人が生活する王都を支える32本の太い足が上げる砂煙が輝いて風に消えた。


アズマシィ様の大きな背中から飛び降りてきたマティちゃんは大きく体を沈めて着地すると、背中から青いマントを翻したヴァロアが降りてきて、さわやかな顔で笑った。


レースでアグドに勝って渡されたビス、マティちゃんのお尻には荷物や毛布が縛り付けてあって、12弦のブルベリだけを持って旅をしていた時のヴァロアよりも、よっぽど旅の吟遊詩人に見える。


「追いついて良かったッス!」


「どうして?」


ヴァロアがボクといっしょにいたのは新しい歌を作るためだった。魔王の城まで行ったボクに付いてくれば、何か面白い題材にできると信じていたからだ。


そして、彼女の望み通りに冒険ができた。ニシジオリからツルガルへ、そして、ドラゴンの里へ。人間が存在すら知らなかった世界の果てまで行ったんだ。新しい歌を作る材料はいくつもあって、記憶の図書館では古い歌や物語も覚えた。


カプリオがそうだったように、ヴァロアもツルガルの王妃ツラケット様のお気に入りだった。彼女は男装の吟遊詩人。女の人が旅をするだけで珍しく、女の子ならではの景色の見方、美味しい物、旅の苦労、経験豊富な彼女は話題にも事かない。歌もうまくて話も面白いんだ。


ボクがしどろもどろと詩を朗読をするよりも喜ばれるのは当然で、新しい歌を見つける事に貪欲なヴァロアには他の吟遊詩人だって敵わないかもしれない。それに、彼女にはビスのレースで優勝した小樽いっぱいの金貨もある。大変な思いをして旅をしなくても自由に生きていける。


もう、ボクに着いてこなくてもいいんだ。


「どうしてって、兄さんについて行くって決めてるっス。もっと新しい歌を作るッス。歌えば平和になるッス。」


どうして当たり前の事を聞くのかと言いたげな鳶色の瞳は、まっすぐで輝いている。彼女は同じ人に繰り返し歌うのではなく、多くの人に聞いてもらいたがった。楽しい歌を広げれば世界はきっと平和になる。まっすぐな瞳は何も疑っていない。


「ボクがニシジオリに戻るように命令された理由はまだ解っていないんだよ。」


ボク達がドラゴンと出会って交流をしたと言う事をジルが王妃様に報告していた。だから、ドラゴンのニシジオリの王妃様が話を聞きたくて呼び戻されたと思うのだけど、違うかもしれない。


勇者アンクスを殴った事が忘れ去られるには早くて、ボクを快く思っていない人が居るかもしれない。もしかしたら、勇者アンクスを殴った件でボクを罰するために呼び戻されたのかもしれない。


ニシジオリの新しい噂話は聞こえてこない。


ボクはただ、戻るようにしか命令されていないんだ。


「大丈夫っス。兄さんひとりくらいならどうとでもなるっス。」


そう言って、ヴァロアはマティちゃんのお尻の毛布に刺してあった剣聖の剣をポンと叩く。剣聖の孫娘と言う彼女にソンドシタ様が送った一振りだ。それはまるで、ボクのためにニシジオリの王宮を敵に回しても、ニシジオリの国と戦っても構わないとでも言っているかのように聞こえた。


「それに、兄さんといれば記憶の本が読めるッス。」


「記憶の本?」


世界の果てにあった図書館には世界の記憶が記された本がたくさんあった。だけど、それは図書館の本であって、ボクが持っているわけじゃないんだよね。


「ヤイヤさんが言ってたっスよね。彼女の水色の魔晶石があれば、いつでも話す事ができるっス。」


ヴァロアは緑と水色の魔晶石が絡み合った耳飾りを指でピンと弾いたので、ボクは5つの魔晶石が嵌められた白い腕輪を見る。


記憶の図書館を管理するヤイヤさんにもらった水色の魔晶石の力と、世界の果ての宮殿の力が合わさった時、遠くにいるヤイヤさんと会話をする事ができる。ボクの『失せ物問い』で人間の物語を探す手伝いをして欲しいと言われたんだ。


《あら、お仕事終わったの?》


ヴァロアの耳飾りから、聞き覚えのある女の人の声が聞こえた。黒いドラゴンを相手に巨大な氷の柱の魔法を放った女の人の声。世界の果てで記憶の図書館を管理している司書、ヤイヤさんだ。


「終わったっッス。今、兄さんとツルガルの王都を出たっス。」


《え?ヒョーリくんもいるの?》


「ソッス。」


《今なら大丈夫かしら?》


「大丈夫っス。誰もいないッス。」


《ソンドシタ様の産まれた時の記憶の本はどこにあるの?》


話が見えなくて目を丸くするボクの左腕から声が聞こえる。5つの色の魔晶石が嵌められた白い腕輪。その水色の魔晶石からヤイヤさんが問いかけた。すぐに『失せ物問い』の妖精が応えるけれど、記憶の本を探す時に聞こえる妙な記号の羅列が聞こえるだけだ。代わりに…


《やった!やったわよ、ヴァロア。》


「ちょっと声がでかいッス。耳が痛いッス。でも成功して良かったッス。」


《もう、めちゃくちゃ可愛いのよ!》


水色の魔晶石が絡まった耳飾りからヤイヤさんの大きな喜びの声が上がった。耳元で大きな声を出されて痛かったのかヴァロアは耳を押さえてうずくまる。


ヤイヤさんは持て余した時間を潰すために人間の物語が書かれた記憶の本を探すのを手伝って欲しいと言っていたけれど、本当の目的は別にあった。


記憶の図書館では、世界中の人の記憶を見る事ができる。それはドラゴンだって例外じゃない。ボク達は赤いドラゴン、ネマル様の記憶を見て赤いドラゴンの絵を描いたんだ。黒いドラゴンのソンドシタ様の記憶だって見ることができるよね。


ソンドシタ様に興味があるヤイヤさんは、黒いドラゴンの記憶を見る事を楽しみにしていた。今まで待っていたのは、ソンドシタ様の前で記憶の本を見ることが恥ずかしかったかららしい。いや、恥ずかしいのはきっとソンドシタ様の方だよね。


《私の欲しい本を探す手伝いをしてくれたら、彼方たちの見たい本も貸してあげるわよ。》


記憶の図書館で『失せ物問い』を使って本を探したら、本はボクの手元に現れた。それは記憶の図書館の中だけで終わらないらしい。ヤイヤさんが途中で止めなければ世界のどこへ行っても記憶の本をボクの手元に引き寄せる事ができる。


記憶の本をどこでも読むことができるようになるんだ。


(とりあえず、やってみようぜ。コロアンの昨日の記憶の本はどこにある?)


少し怖い声のジルがニシジオリの孤児院の女の子の名前で問いかけると、ボクの手の中に1冊の明るい黄色の本が現れる。本を開くと記憶が流れてきて、少し大きくなったコロアンちゃんが友達と楽しそうに遊んでいる姿が見えた。



その日から夜にヤイヤさんの同じ質問を聴く事が日課になった。


《今日のソンドシタ様の記憶の本はどこ?》


質問の後にその日のソンドシタ様の様子を長々と聞かされる事になったんだ。



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次回:『半眼』の再会


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