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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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手紙

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--手紙--


あらすじ:ニシジオリに戻るよう命令が届いた。

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まだ、早い。


ボクが勇者アンクスを王都の人たちが集まる広場で殴ってから半年も経っていない。


勇者の力はみんなの応援を受けて強くなる。勇者であるアンクスが応援されればされるほご、勇者の力は強くなる。だから、裏路地でしか営業できない占い師に殴られたと噂が立つだけで勇者の名前に傷が付いてしまう。


まだ噂が消えるには早いよね。


アンクスの力が強くなれば、急速に広がっている魔王の森もどうにか出来るかも知れない。だから噂が消えるまでボクはニシジオリに帰れない。


その間、ボクは魔王の森に行かなくて済む。


震える手に渡された手紙には飾られた文字で王妃様の名前が書かれていて鮮やかな赤の印象が押されていた。間違いなくボクにニシジオリに戻るよう命令している手紙だ。


「心当たりはあるのか?」


オイナイ様の問いかけに、ボクはぶんぶんと首を振る。


ニシジオリへはペンを握れないジルの代わりに手紙を書いたけど、ボクをツルガルに逃がしてくれた王妃様への定期的な報告みたいな内容で、今までも何度か同じようにしたためている。


だけど、ドラゴンの里の話はおろか、アズマシイ様のオデキだって秘密だからね。報告だって嘘ばかりだったんだ。嘘だと言う事が分かっちゃったのかな。それでも呼び戻す理由にはならないよね。


「王宮で何かあったのか?」


心臓がドキドキと痛くて、ボクは言葉に詰まる。


オイナイ様にはドラゴンを探しに行くと言えなかったから、屋敷に戻れない間はツルガルの王宮で生活していたと伝えていた。王宮の夜会に呼ばれて、詩の朗読や占いの余興を頼まれていたと伝えていたんだ。


その時にボクが何かをしてしまって、ツルガルの王宮からニシジオリに直接連絡が行ってしまった可能性があるけれど、大使としてツルガルに駐在しているオイナイ様を通さずに直接手紙が行く事は、ボク程度の不始末ではありえない。


「オマエからの手紙にも何も書かれていなかったしの。」


ボクが書いた王妃様への手紙もオイナイ様にお願いしないと手紙も送れない。


街に出て行商人に頼む方法もあるけれど、行商人が魔獣や山賊に襲われたり、何かの都合で目的地が変わってしまったり、悪くすれば最初から高いお金だけ取って手紙は捨てられてしまうこともある。


それに、王都の方でも、通りすがりの行商人が運んだボクの手紙なんて王妃様に渡せないよね。


オイナイ様に渡せばタダで手紙が送れるけれど、ボクの書いた手紙は確認される事になる。


裏路地で仕事をしていた占い師だと手紙のマナーも知らなくて王妃様に失礼な事を書いているかも知れない。それに、戦争になりそうな今、ボクがニシジオリに嘘の報告をすれば、オイナイ様の立場が悪くなるかもしれない。仕方ないけれど、手紙を見られるのは少し恥ずかしい。


だから、手紙に書かれたのは、長い長い時候の挨拶と、ツルガルの王妃様に呼ばれた嘘の夜会の事。王宮での嘘の生活についての他愛ない話に、最後は王妃様の体を気遣って結んだ。


「まぁ、ニシジオリに帰ってみるしかないのじゃな。」


「その前にツルガルの王宮へ行かないと。」


ボクは王宮に行ってジルの話を聞かなきゃいけない。手紙の内容はジルが考えたものなんだ。いつだってボクはジルに支えられていたし、長い間、宮廷占い師のお婆さんの所に居たジルの方が王宮の事に詳しい。


ジルに聞けばすべてが解決する。


「ああ、帰るならお世話になった人たちに挨拶をしなければならないの。じゃが、身だしなみは整えていけ。だいぶ痛んでおるぞ。」


資料庫に閉じこもるようになってから着替えたことの無いお仕着せは、あちらこちらが擦り切れて痛んでいた。浄化の魔法を使えば綺麗になるからと、いつもの癖で昼も夜も同じ服を着続けていた。


だけど、王妃様に会うのに解れた服で行くわけにもいかないよね。オイナイ様に新しいお仕着せを貰って、髪に櫛を通すとスッキリとして少しだけ気分が変わる。


陽の良く当たる大通りを進んで門番さんに挨拶をする。短い時間だったけど、何度も通ったおかげで顔を覚えてもらった。宮殿の中でビスのレースで知り合った人たちや浮揚船の兵士さんとすれ違えば気さくに言葉を投げかけてくれる。


「お、ニシジオリの占い師様。久しぶりだな。どうした?今日はあの杖を持っていないのか?」

「今度また占いをしてくれよ。気になる娘がいるんだよ。」

「ばか、恋愛の占いはできないって言っていただろ。」


ボクが返事に詰まっていると、他の兵士さんが調子よくボクの答えを伝えてくれる。オイナイ様の屋敷の資料庫に閉じこもっていた間にボクの口は錆付いたように動かなくなっていた。ずっと喋っていないと声を出すのも言葉を探すのも大変になるんだね。


ボクのたどたどしい返事でも気分を悪くした様子もなく根気よく聞いてくれる優しい兵士さんとの会話でボクの気分は少しだけ晴れていた。


「こんどニシジオリに戻ることになったんです。今日はその挨拶に。」


「なんだよ、寂しくなるな。」

「あの時はホント助かったよ。」

「え?もう占い聞けないの?」


もう少し、屋敷の外に出て話をしていれば良かったな。


ニシジオリに戻るように命令されたボクは、もう彼らと話す機会も無くなってしまうんだ。


兵士さんとの会話が途切れ別れを告げると、ボクの脳裏にジルの高い声が聞こえた。遠くから『小さな内緒話』を使って話しかけられるのは久しぶりでびっくりした。


(ヒョーリ。何か有ったのか?)


いつものように女の子の声にも聞こえるけれど、しばらく聞いて無かった声にホッとする。ボクは他の人に不審に思われないように庭園へと続く人気の無い道に逸れて返事をした。


(ニシジオリから急いで戻るようにと命令が届いたんだ。何か知ってる?)


ジルも何も知らなくて、ただ、ボクの『失せ物問い』が必要になっただけかもしれないと一縷の望みをかける。ジルがボクに隠れて何かしていたようで嫌だったんだ。


(ああ、ドラゴンに関して報告があると書いておいたからな。てっきり事情を聴くために使いのヤツが来るかと思っていたんだが、帰還を早めてきたとはな。ま、オレだって直接聞きたいと思う案件だな。)


望みは裏切られてやっぱり、ジルが手紙に暗号を書いていた。長い時候の挨拶が符丁になっていて、ツルガルに対してドラゴンが手を貸したことを伝えていたらしい。少しだけジルに利用された気分になって、ボクは廊下の壁に背を預けた。


(ニシジオリに戻るの?)


(ああ、オマエが嫌じゃ無ければ戻って報告したい。頼めるか?)


ジルがボクの手を離れてツルガルの王宮に入り浸っていたのは、やがて来る使いの人に多くの情報を持たせるためだった。ボクの手元に居て退屈だからじゃなかったんだ。


(いいけどさ。最初から言ってくれれば手伝ったんだよ?)


手紙を出す時も言ってくれれば、いっしょに考える事だってできたのに。確かにボクは頼りないけどさ。


(歩き回ってウロウロしていたら怪しまれるだろ。せっかく王妃に信用をされていたオマエをわざわざ巻き込みたく無かったのさ。汚れ役はオレ1人で十分だ。)


ジルが王宮で『小さな内緒話』を使えば、部屋の外の会話でも聞く事ができる。場所によっては偉い人達が集まってする内緒話だって聞けてしまうスパイ行為だ。


ジルの存在が知られてしまえば、ずっとジルを手にしていたボクも疑われてしまう。


(キミを手に歩き始めた時から巻き込まれているよ。)


誰もいない廊下でボクは頬を膨らませた。



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次回:ツラケット様との『別れ』



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