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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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酒盛り

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--酒盛り--


あらすじ:ソンドシタ様を見送った。

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パチパチと燃える焚火の周りで、普段は飲めないような上等なお酒が振舞われる。みんなの笑い声が歌になって響いて、揺れる肩は仲間と組まれる。ヴァロアがブルベリを奏でて彼ら歌に彩を添えていた。


中央に置かれた机には小さな壺と1枚の紙きれ、そして焚火の光を照り返す緑の魔晶石。


ボクとヴァロア、それにアグドがドラゴンの里から持ち帰った、『ドラゴンの点鼻薬』とそのレシピ、それにソンドシタ様をこの白い大地とツルガルの間で1度だけ呼び出せるという魔晶石だ。


ボク達がソンドシタ様に薬を貰ったからと言って浮揚船の旅が終わったわけじゃ無いけれど、船長さんと兵士さん達は浮かれていた。浮揚船に残った少ない保存食を丁寧に調理して、お酒を解放して酔って笑う。


アグドがドラゴンとの約束を破った事を謝罪しようとしていた船長さんたちは、ボク達を待っている間、お酒を飲む事もできなかった。いつ黒いドラゴンが戻ってくるかわからないけれど、黒いドラゴンが戻ってきた時に酔っぱらっていたら、命をかけた謝罪から誠意が消えてしまう。


浮揚船にはソンドシタ様のために用意された高級なお酒の他に、兵士の人たちが飲むお酒が何樽も置いてあったけど、彼らは目の前にして飲む事ができなかったんだ。


船長さんは久しぶりに飲むお酒にふらふらと酔い、兵士さんひとりひとりと笑い合っている。生き残れた解放感と喜びをいっしょに喜んでいるみたいだ。


ドラゴンの里と世界の果てに行っていたボク達も色々な事があって大変だったけれど、そのたった10日ほどの間、船長さんは死ぬ覚悟を決めて、兵士さん達も黒いドラゴンが怒り狂う事を恐れて過ごしていたんだ。


ボクもソンドシタ様の手に掴まれて空を飛んだ時や、黒いドラゴンと赤いドラゴンが姉弟喧嘩を始めた時なんかは生きた心地がしなかったけど、船長さんたちのようにずっと緊張していたわけじゃないからね。


少しだけ仲間になれない寂しさがあったけれど、兵士さん達が楽しそうに騒いでいるのを見ているだけで嬉しくなる。ボクは少し離れて静かにジルと『小さな内緒話』に花を咲かせていたんだ。


「おう、飲んでるか?」


ブルベリを奏でるヴァロアを中心にして歌っていた輪から、1人の兵士さんが抜け出てきて無造作にボクの横に座った。座りしなに叩かれた肩が痛い。


「たくさん飲んだよ。ドラゴンのために用意されたお酒だけあって美味しいね。」


ボクは手の中の杯を転がして見せる。


「ヒック。これだけ上等な酒は滅多に呑めねえ。ウック。そろそろオマエちの話を聞かせてくれないか?」


ボク達がソンドシタ様の所で見聞きしたことはまだ兵士さん達に伝えていない。酒盛りの前に船長さんがボク達を功労者として称えようとしてくれたんだけど、アグドが不用意な事を言って兵士さんを怒らせていたからね。アグドは1番星が出るより先に空の星になった。


地面に突っ伏したままのアグドが心配だったけれど、兵士さん達は盛り上がってうやむやになったんだ。


(ヒョーリ、向こうでの話はするなよ。)


(なんで?別に隠すような事はしてないよね?)


ソンドシタ様に連れられて色々変わった場所に行ったけど、隠さなければならないような悪いことをした覚えがない。いつもと違ってドラゴンや不思議な場所だったけど、ボクはいつも通りに探し物だけだ。


(一応、オマエはニシジオリの王妃が派遣した人間なんだぜ。不用意にツルガルの兵士に話をすればニシジオリに帰れなくなるかも知れねえ。)


ソンドシタ様としばらくいっしょにいたボク達は、ドラゴンの好みや性格を知ることになった。ボクの話をきっかけにツルガルがドラゴンと仲良くなるかもしれない。ドラゴンに魔法を教わる事ができたなら、いろいろと役に立つ。


そして、ニシジオリとツルガルでは戦争が起きそうな気配がある。先にツルガルがドラゴンと手を組む事が有れば、ニシジオリの街が炎の息に晒されるかもしれない。その時、ドラゴンの話をボクが広めていたらどうなるのか。裏切り者扱いされてもおかしくない。


ドラゴンの話は国同士の微妙な話だったんだ。


ボクがソンドシタ様に連れていかれる時に、船長さんは自分たちもドラゴンの里に行けるように交渉していた。船長さんはボクのためだと言っていたけれど、ドラゴンと話す機会を増やすためでもあったんだよね。


「悪いけど、あまり詳しくは話せないんだ。」


「そんな事を言わずによぉ。ドラゴンってどんなトコに住んでるんだ?里にはたくさんのドラゴンがいたのか?あの黒いのより強いヤツがいるんだろ。」


酒臭い息を撒き散らした兵士さんが馴れ馴れしく腕を肩に回す。ドラゴンの事を知らなければ、ボクだって聞きたがっていたと思う。


「ごめんなさい。ソンドシタ様の名誉に関わる事かも知れないから話せないよ。」


ドラゴンの里や記憶の図書館の話をするなら、ソンドシタ様の探し物の話をしないわけにはいかない。ソンドシタ様は世界の果ての宮殿に着くまで、ボク達にもずっと探す物を隠していた。お姉さんに喧嘩で勝てないから弱点になりそうな記憶を探しているなんて聞かれるのは恥ずかしいよね。


だから、ニシジオリとかツルガルとか関係なく、無暗に話して良い事じゃないと思ったんだ。


「こら!ヒョーリ殿が困っているだろ。」


兵士さんの頭を軽く殴って止めた船長さんからもお酒の匂いがするけれど、その瞳には理性の色が残っていた。軽くあしらって追い払うと、ボクの隣に腰を掛ける。


「ありがとうございます。船長。」


「我々のために苦労してくれたのに、うちの連中と来たら躾がなってなくて申し訳ない。」


「ボクも話してあげられたら良かったんだけど。ソンドシタ様は隠そうとしていたから。」


「ははっ。口が堅いことは良い事だ。軽々しく囀る奴なんて誰も信用しないと、ヒョーリ殿もヴァロア嬢も良く心得ている。ウチの兵士になって欲しいくらいさ。」


どうやら、ヴァロアに話を断られても諦められなかった兵士さんがボクに矛先を変えてきたらしい。ボクも断ってしまって怒られるかと思ったのに船長さんは優しく褒めてくれた。ボクは1人前として認められたような気がした。


「アイツも悪気はなかったんだ。許してやってくれ。」


長い緊張の果てに浴びるほどにお酒を飲んだ兵士さん達の中で、ヴァロアはたったひとりの女の子。その彼女は兵士さんの願いを断った。


ガラの悪い酒場の飢えた男達なら、怒って彼女に乱暴をしてもおかしくない状況だ。


ボクに絡んできた兵士さんは無茶を言わずに船長さんの一言で諦めてくれた。酔ってボクに絡んできた兵士さんも全てのタガが外れていた訳じゃなかったんだ。たくさんのお酒を飲んでいたけれど、ちゃんと理性を残していたんだ。


船長さんはボクの隣でニシジオリでのたわいもない話を聞いてくれて、その優しい声にいつの間にかうとうとと眠りについた。翌日、ボクとヴァロアが秘密にした黒いドラゴンの話は、アグドが面白おかしい武勇伝にして浮揚船の人たちに広がっていた。



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次回:ボクは王都を救った『秘密の英雄』



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