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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第2章:書類整理だけをしていたかったんだ。
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王宮

第2章 書類整理だけをしていたかったんだ。

--王宮--


あらすじ:王宮に行く事になった。

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「あの、冒険者ギルドから派遣されてきたヒョーリと申します。」


「ああ、話は聞いている。ちょっと待っててくれ。」


使用人が使う王宮の裏門に行くと、(そろ)いの鎧をまとった門番の1人が丁寧に対応してくれた。


王宮は街の北側に建っていて、街のどこからでも見れるくらいに大きい。正門の前の道はそのまま大通りになっていて、貴族街を通って商店街となっていて、やっぱり王宮が街の中心なんだなと思える。


東の裏通りから王宮に入れるようになっている、荷運び馬車が通れる造りになった石の裏門では、食料品の荷物を積んだ馬車やカゴを背負って並んでいる人達の対応を数人の門番で手分けをして行っている。


門番の人はその忙しい中でも、得体の知れないようなボクにでもきちんと応対してくれたのだ。


(子爵のトコの野蛮な門番より良いヤツだな。)


(王宮と比較する事じゃないと思うけど、子爵様の門番はジルの悲鳴に簡単に引っかかったよね。)


(ああ、正直、1人くらいは門を護るのに残ると思っていたんだが、2人とも釣れるとは思わなかった。)


あまりにも簡単に門番が居なくなった事を思い出すと自然に笑えてくる。ジルも同じことを思っているようで、半ば呆れたような軽い感じで応えてくれた。


(そうなんだ。門番が2人とも居なくなるから、ジルのアイディアはすごいって思っていたんだけど。)


(褒めてもらって悪いが偶然だ。門の鍵が開いている内に逃げるだけなら、不意を突けば1人くらいヒョーリでもなんとかなるだろう、くらいに思っていたんだ。)


(ボクとしては、みんな居なくなって荒事を避けられて良かったけどね。)


ケンカなんてほとんどしたことのないボクでも、門番を後ろから押して態勢を崩している内に逃げられただろうか?失敗しそうな気もする。


しばらく商人たちで(にぎ)わう門の様子を眺めならジルとあの日の事を話していると1人のメイドさんがやってきた。


「お待たせしました。メイド長を務めさせていただいていますコーテクルと申します。」


「冒険者ギルドから派遣されてきました、ヒョーリと申します。」


エプロンドレスを優雅に広げて挨拶するメイドさんにつられて、言葉が丁寧になってしまう。王宮とは言え、裏門の慌ただしい中でする挨拶にしては優雅すぎて場違いな気分になる。


コーテクルと名乗ったメイドさんはボクと同じ年くらいの年だけど、目鼻立ちが整った美人さんで、黒に近いエプロンドレスのメイド服をきっちりと着こなしていて、ホワイトプリムにはメイド長を示すのか、金色に輝く徽章(きしょう)が留められている。


その姿は可愛いと言うより、カッコイイと言った方が似合っているけど、カッコイイと言ったら怒られるかな?


(ヒョーリ!メイドには気を付けろ!)


「こんな場所で立ち話も何ですので、ひとまず私どもの休憩室に案内しますわ。」


ジルが注意を向けて来るけど、『小さな内緒話』が聞こえていないメイドさんは普通に話しかけてくる。


同時に喋られたのでジルとメイドさんのどちらに答えるか迷ったけど、ジルの事を知らないメイドさんを優先して答える事にした。ジルとはいつでも喋れるしね。


「よろしくお願いします。」


「表の通路とは違って、私達使用人が使う通路は複雑になっています。間違えないように道をしっかり覚えてくださいね。」


と言うと、石で(おお)われた少し暗い通路を通って案内を始めてくれた。


王宮には3種類の通路があるそうだ。ひとつは王様や招待した人、他国からの外交官を通す豪華な表の通路。もうひとつは王様をサポートする貴族たちが使う裏の通路。この2つは使い勝手も見栄えも良くなっているらしい。


表と裏を使い分ける事によって王宮の威厳(いげん)を保てるようにしているらしいけど、ボクには良くわからない。表を使って威厳(いげん)を示しながらも、裏を使って相手を探るとかなんとか。コーテクルさんが淡々と説明してくれる


そして、通路には更に裏がある。それが使用人の使う第3の通路だ。


貴族の仕事は王国を維持し宮廷を支える事だ。掃除や洗濯、食事の準備なんかを王様や貴族はやらない。まったく出来ないわけじゃ無いけど、ようするに貴族の貰う恩給に見合った仕事をしろって事らしい。


そのため、貴族の位を持たない身分の低い人が雑用をこなしていて、貴族たちの目に付かないようにこの第3の通路を使っている。逆に貴族は使用人の通路に入って来ない。


実際には多くの人が働いているのだけど。(はた)から見ると貴族は少数の従属した使用人だけで生活できているように見えるらしい。


だから第3の通路は表と裏の通路の邪魔にならないような複雑な造りをしていて、なるべく使用人の通路を使うように指示された。


これはボクにとってラッキーな話だ。なにしろ、ソンオリィーニ子爵はもちろん、面倒な貴族と会わなくて済む。通路の歩き方ひとつで貴族様に怒られていては気が休まるヒマもない。


宮廷の外でも庭園でも使用人が通れる通路は決まっているらしく、庭園の(はじ)っこの緑に隠された第3の通路を通って、使用人たちが共同で生活する屋敷へと入って行く。結婚してもここで暮らしている人も居るみたいなので、大きめの屋敷が王宮から見えないように建っている。


屋敷の生活の共用スペース、つまり洗濯やトイレなどをする場所を案内してもらって食堂を通り、休憩室で簡単な王宮での生活の仕方やルールを教えてもらった。


ルールと言っても、食事の用意される時間とか洗濯物の出し方、日用品の補給の仕方とか、共同で生活するための最低限の知識だ。


ボクのここでの仕事が長引いて生活するようなら、せっかくなので貴族を相手にした時のマナーも教えて欲しいと思う。第3の通路を通るとはいえ、図書館では貴族様と話をするかもしれないし、そのうち頼んでみよう。


説明によると、ここでは洗濯だって、ボクみたいに浄化の魔法だけでチャチャっと済ませるのはいけないらしい。魔法を使えばどんなに汚れていても清潔になるし、街にはトイレだって浄化の魔法で済ませてしまう人もいる。だから、わざわざ昔ながらの面倒な手段で洗濯をしなくても良いのだけど、王宮では服やシーツも清潔ににするだけじゃ足り無くて、太陽の力を込めるとか香りを浸み込ませるとかなんとか言って太陽に干すことになっている。


貴族に仕えるって面倒だ。


引き続きコーテクルさんに一通り案内してもらった後に、仕立ての良い服を貰った。


使用人の制服として、濃紺をベースにした目立たないけどベストまで付いてる品の良い服だった。役職ごとに同じものを着るらしい。他には貴族より目立つような宝飾品は付けないようにと言われている。そんな物持っていないけどね。


服装でも仕事でも貴族を引き立てる事、それが使用人に課せられた一番大事な仕事らしい。


次に独り身用の少し狭い部屋に案内される。中は寝心地の良さそうなベッドと小さな机と椅子のあるだけのシンプルな部屋だけど、今まで暮らしていたボロッちぃベッドしかないアパートよりもくたびれてはいない。今日からしばらく、この部屋で生活することになるんだ。


さっそく、自分の部屋で、貰ったばかりの衣装に着替えると、最後に仕事をする場所に案内してもらう。


そう、図書館だ。


石畳の使用人の通路から質素だけど絨毯の引かれた貴族の裏の道に出てまっすぐに進み、2階に通されている渡り廊下を越えていくと、突き当りに3階建ての大きな建物が見えてきた。その造りは王宮の荘厳さとは打って変わって、妙な造りになっている。


もしかして、これが図書館なのだろうか?


冒険者ギルドの資料室なんかと比べ物にならない大きさに、ボクはうんざりしてしまった。



泊りがけで整理するように言われるワケが解った気がする。



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次回:新しい仕事場の『図書館』



第2話の見直しで、『ギフト』についての説明を追記しました。


以下抜粋。

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なるほど、『ギフト』は誰もが神様から1つもらえる特殊能力だ。それを1人で2つ使えればできる仕事の幅が増える。


神様から貰える『ギフト』を使えば農家なら土の声を聴いて畑を豊かにできるし、狩人なら森の声を聴いて獲物の位置を知ることができる。他にも商人なら計算が早くなったり、鍛冶屋なら火の扱いが上手くなるなんてのもある。


14歳の頃に自分の仕事や目的に合わせて貰う事が一般的で、代々その家に伝わるギフトをそのまま世襲せしゅうすることが多い。


人間は『ギフト』を生かした仕事をしながら今まで発展してきた。


親から子へ仕事を教えるのと同じように『ギフト』も伝わってきたし、まったく知らない『ギフト』を願ってしまうとボクのように使い道がよくわからなくて安定した仕事に就けなくなってしまう。


だから『ギフト』を選んだ時点で、その後の仕事や生活、あるいは人生が決まってしまう。


まぁ、『愛の紬糸』みたいな女の子に人気の『ギフト』も有るから完全には決まらないんだけどね。


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