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裏路地占い師の探し物 ~勇者様のせいで占い師を続けられなかったんだ。~  作者: 61
第10章:魔王の森が広がっていたんだ。
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謝罪

第10章:魔王の森が広がっていたんだ。

--謝罪--


あらすじ:ドラゴンの里まで戻った。

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太陽が傾きかけた昼下がり、地平線の他に見る物も無い白い大地と、その上に広がる雲一つない空を黒いドラゴン、ソンドシタ様に運ばれて飛んで行く。世界の果てに行った時と同じように透明な空気の球に乗せられてね。


赤いドラゴン、ネマル様の強引な歓待は3日も続いた。ヴァロアが食事の合間に披露した新しい歌がネマル様の興味を引いたんだ。記憶の図書館で覚えた新しい歌に女性2人は話に花を咲かせた。


女の子達の話は長いよね。3日も続くなんて思わなかったよ。


「見えたぞ。人間の船だ。」


黒い鱗に覆われた長い喉が震えて声が聞こえる。


ソンドシタ様の緑の瞳はボク達よりも早くツルガルの浮揚船を見つけたみたいだ。そのうち白い地平線と広いツルガルの大地の境目がはっきりと線になって現れて、ぽつんと浮揚船が地面に降りているのが見えてくる。


本当にヤイヤさんの図書館には世界中から記憶が集まっていたんだね。


記憶の本で見たのと同じように浮揚船の周りに焚火の跡があり、船から張られたロープには虫干しをするために吊るした毛布やハンモックが風に乗ってなびいてる。船長さんと兵士さん達は何もないこの境界でいつ戻るかも分からないボク達を待ってくれていたんだ。


船長さんたちはオーロラが遠くに見える星空の下、少ない水と食事を言葉少なげに食べていた。焚き木がパチパチと燃える音だけが響き、船長さんは思いつめた面持ちで何かを書き綴っていた。その苦労を見ていたから、船長さんたちを早く安心させてあげたいと思ったんだ。


3人の兵士さんが浮揚船の上で見張りに立っている。


そのうち1人がボク達の方を指差して鐘を鳴らす。ソンドシタ様に気が付いたみたいだ。カンカンと鳴らされる鐘は全員集合の合図で、船の中へと慌てて降りて行った兵士さんはきっと船長さんを呼びに行ったんだろう。


ボク達が浮揚船に戻れば船長さんたちの苦労も終わる。みんな喜んで迎えてくれるはずだ。


浮揚船に近づく頃にはツルガルの兵士たちが集まっていた。もっと笑顔で迎えてくれるかと思っていたけれど、みんな固い顔で身なりを整え姿勢も乱さずに緊張した面持ちで整列している。


ボク達はソンドシタ様が優しいドラゴンだと知ることができたけど、船長さんたちには今も怖いドラゴンなのかもしれない。『ドラゴンの点鼻薬』を貰うんだし、身だしなみを整えて迎えるのも頷ける。


「お~い!帰ったぞ!」


ゆっくりと地面へと降りるソンドシタ様の腕から、身を乗り出したアグドが声をかける。アグドは今回の旅で認められて兵士になりたいと言っていた。自分の手柄を褒めてもらいたいんだよね。だけど、船長さんは一瞬苦虫を噛んだような顔を見せて、アグドに応えずに膝を突いた。


「へへ、船長がオレに膝をついているぜ。」


アグドが嬉しそうに囁くけれど、ボクには船長さんがソンドシタ様を迎えるために膝を突いているようにしか見えない。だけど、少し大げさすぎないかな。船長さんはソンドシタ様相手の交渉でも譲らない姿勢を貫いていたんだから、薬を貰う時にだけ膝を突くとは思えない。


まだ、船長さんはボク達が薬のレシピも貰うことができた事を知らないはずだよね。


乾いた砂埃を巻き上げてソンドシタ様の足が地面につく。砂埃が収まると、船長さんを始め兵士さん達が全員で地面に当たるかと思うくらい頭を下げていた。


「「「申し訳ありませんでした!!」」」


「おいおい、どうしたんだ?何を謝っているんだ。」


疑問を投げかけるアグドに船長さんは殺意を向けて一瞥するとソンドシタ様に向けて言葉を続けた。


「私の監督が行き届かないばかりに、ドラゴン様にご迷惑をかけてしまいました。」


ボクとヴァロアがドラゴンの里に行く事が決まった時、ソンドシタ様は船長さんたちの同行を許さなかった。浮揚船は白い大地を飛ぶには遅すぎたし、ソンドシタ様の手も2本しか無かったから。だけど、アグドはソンドシタ様の尻尾に貼りついて付いて行ってしまった。


虚空を見つめるアグドに白い視線が集まる。


「…ま、まぁ、コイツには、苦労したが…」


「やはり!!」


「まあ、なに、役に立った事もあったし…。」


「そんなわけがありません。私の命を差し出しますので、どうか薬だけは、アズマシィ様を治す薬だけはお譲りください!」


船長さんの頭がとうとう地面に着く。


今までもアグドは兵士になりたいと言いながらも王都のあちこちで問題を起こしていた。喧嘩の仲裁に呼ばれればアグドが暴れていたり、騒動の鎮圧に向かえばアグドが先頭に立っていた。いつも騒ぎの真ん中にアグドがいた。


思い返せば、ボクもアグドに泥棒呼ばわりされたからビスのレースに出る事になったし、ゴールの直前で『ふわふわりんりん』で妨害されたから優勝を目の前で逃してしてしまったんだ。


それでも今回の浮揚船にアグドを乗せたのは『ふわふわんりん』を使える人の中で急な呼びかけに応えられたのがアグドだけだったからだ。


アグドは船長さんの手を離れて行動してしまった。相手は人間には到底勝ち目の無いドラゴン。それも薬を分けて欲しいとお願いする立場だ。どんな些細な事であってもドラゴンとの約束を破ってはいけなかった。怒った黒いドラゴンがツルガルの国を飛び回り炎の息を吐くかもしれない。


アグド個人の暴走だったとしても、ドラゴンを怒らせてしまったら国の存亡に繋がる。


ボクとヴァロアが黒いドラゴンの機嫌を取っているかも知れない。薬を貰うチャンスが残っているかも知れない。挽回の道が残っているかも知れない。少しだけ残った頼りない希望を胸に船長さんは覚悟を決めていた。


ボクが見たのは遺書を書いている記憶だったんだよ。


「人間の命なんてもらってもワレには何の得も無い。」


ソンドシタ様は目の座った船長さんから顔を逸らし、ボクに向き直る。


「オマエには無駄足を踏ませてしまったな。」


「いえ、ボクの方こそ役に立てなくてすみません。」


探していた物がネマル様の弱点だったので、見つからなくてホッとしている部分もあるけれど、それでも期待に応えられなかったのは悔しいと思ってしまう。


「なに、印は付けてある。まだチャンスは残っているのだ。」


口元を歪めたソンドシタ様は、ヤイヤさんに没収されたネマル様の本のすべてに魔力の欠片を挟んでいたらしい。魔樹の琥珀の時に教えてもらったように魔力には人によって変わってくる。ソンドシタ様は自分の魔力を探せばネマル様の記憶の本を見つける事ができるようにしていたんだ。


「ヒョーリの働きに感謝を込めて。」


きょとんとしているボクにソンドシタ様が指を振ると、ジルの木の枝に緑の魔石のペンダントが絡みつく。


もしも魔樹の琥珀を指輪の形にする事ができた時にペンダントの魔石に魔力を流せば、狂想の魔女が描いた物と同じ魔力の線が指輪に書かれて『木になる指輪』を作る事ができる。


「そして、彼を貸してくれたお前たちにも約束通りに礼を。」


ソンドシタ様は『ドラゴンの点鼻薬』とそのレシピ。そして、ツルガルと白い大地との境界で1度だけ使えるというソンドシタ様を呼び出す球をひとつ、アズマシィ様に何か有った時に使うようにと船長さんに渡した。


雲ひとつ無い昼下がり。


役目を終えた太陽は傾いていく。


十分に熱くなった台地を残して。


船長さんたちの絶え間ない感謝の言葉の雨を振り切って、黒いドラゴンは大きな翼を広げて飛び立った。青い空と白い大地の間を飛ぶ黒い点が見えなくなるまで、ボク達はソンドシタ様を見送っていたんだ。



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次回:星空の下の『酒盛り』


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